『Ex:休日』
4章始まる前の幕間のエピソードです。
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昔できてた事が歳を取るとできない事がある。
そう、美少女の体に憑依転生したおっさん魂ですら無理な事があるのだ。
そう、例えば『虫取り』だ。
(錬金のレシピであと足りない材料はバッタの脚ですね)
胸の中に居るオーセンエンデさん本体が冷静な事実を告げる。
うん。バッタ。バッタね。
10cmぐらいのバッタって結構きつくない?
(え?)
・・・体、代わってくれないかな?
捕まえて、さらに脚をむしるの?
(人生ままならぬものですね。むしった後にフライパンで炒って木の実と一緒に粉にしますよ?)
ぐぬぬ。
バッタか! よし。お店で買おう。
(そうですね。処理が済んだのを買った方が面倒なくて良いでしょう)
なおバッタは雪深いこの地方でも茂みの中でぴょんぴょんするから逞しい。
体は黒い。これが意外に雪の中で目立たなくて困る。
イスタちゃんが姫王即位した後、このわたくしオーセンエンデは目下スローライフの構築中だ。
最初の拠点、湖のコテージに籠もってお薬の調合や食器にエンチャを付与したり、ガラス細工や金細工の小物を作ってる。
ある程度溜まったらメルゼの城塞都市まで行ってお店に納品するのだ。
ギルド関係の諸々手続きはミーティア教団の方に丸投げして気楽なもんである。
ゲテモノ揃いの材料ばかりある錬金術のポーション作りを黙々。
仕入れた屑魔石や小魔石を使ってエンチャ品量産も黙々。
それから、鍛冶スキルの訓練だ。
これが意外にハマった。
「うん。今回のは結構良い感じだね」
(上手なもんですね)
自宅で出来るガラス細工、とんぼ玉の応用でお人形さんのガラスの目を作ってるのだ。
(きれい)
「うん。ひび割れも大丈夫。これは納品できそうだね」
アニメの瞳な感じにして星をガラス玉の中に作る。
むかし百貨店の西洋ドール展に姪っ子達の引率で引っ張られてた折に「へえ。いろいろあるんだなあ」と感心してたものだ。
鍛冶のガラス細工。
自宅に溶鉱炉なんて物はないので手軽な鍛冶カテゴリの細工物をと探した結論である。
錬金に使うバーナーの設備がそのまま使えたり、なんとなれば魔法の火で炙れるのも都合が良い。
「うんうん。だいぶ慣れてきたねえ」
人形のサイズで目玉のサイズも違うが今作ってるのは結構大きなドールに使う目だ。
この世界で昨今流行りだした球体関節人形用だ。
お耽美系の綺麗で高価なお人形達である。
鍛冶スキルがもりもりあがってる。
金細工とかガラス細工なんかも鍛冶カテゴリに入るらしい。
それじゃ街の屈強な親方に編み物させたら上手に編むのかな。
毛糸のセーターを編むハゲ親父を想像して思わず失笑した。
鍛冶生産は対応する各種『加護』が必要なので実際は作れるかどうか判らないけど、少なくともスキルLvは共通だ。
(あの? なぜ親方さんがセーターを編んでるのです)
心の中に住むオーセンエンデさんが謎の心象風景に戸惑ってた。
「さあ? なんででしょうかね? まだ屑魔石はあったかな?」
(あと3,4個はありますね)
「それじゃこの良い感じの人形の目には『悪霊退散』をエンチャするね」
イスタちゃんの件で色々とエンチャ付与の種類が増えたのだ。
おっさん魂が浄化される『悪魔退散』以外は一通り揃ってる。
『悪魔退散』は下手に流通させるとおっさん魂が浄化されそうで貰わなかった。
ぽわん
「おおー。試してみるもんだね」
ガラス玉の瞳の中で聖なる光がキラキラする。
(これは・・・良いものです。ええ、良いものです)
オーセンエンデさんも褒め称えてる。
気がついたら人形用ドールの瞳を延々と作りはじめて、これは!というものには魔石を使ってエンチャしてた。
「あ”」
残り6しかなかった最高級魔石のストックまで無くなってしまったところで我に返った。
そこにはキラキラと輝く『悪霊退散(効果:Lv22までのアンデットを追い払う)』を持った人形の目がずらりと。
これは、やってしまいましたねえ。
うん。オーセンエンデさんAIはこういう事をするね。
(・・・)
うん。二人ともうっかりだね。
「・・・売って魔石を買おう」
(そ、そうですね)
◇
「え? ほんとに? 全部?」
「ええ! 全部買い取ります! なんですか、この素敵なの。おまけに『悪霊退散』の聖なる光? 永遠に見てられる宝石みたい! 次もお願いします! 魔石はうちの方でも調達を頑張ります!」
人形職人のギルドに行ったらすごい高値で売れた。
その場に居合わせた職人さんがみな食いついて来た。
最高級魔石の使用に加えて、いつの間にかエンチャのスキルLvも90近くになってたのが強かったらしい。
MAXは100だ。
スキル80を超えると1流職人と言っていい。
もっともこの上への階段が錬金ポーションによるエンチャ効果上昇&鍛冶と錬金上昇エンチャの無限回廊が続いてるのだけど。
「それでは買取りしますね。
少々額が多いのでどうしますか?」
「そうですね。魔石をそちらで買付けする分に回してください。今日は1万ゴールドだけ頂きます」
「ではそのように」
うん。すごい額な取引だった。
今回の材料に使った最高級の魔石は1つで1万ゴールドからはするのだけど今は魔王子襲撃で3倍以上値上がりしてる。
あるだけ買ってもらうことにした。
人形を仕上げたらお貴族さん向けに売るそうだ。
「はー。お貴族さんはさすが子供を可愛がるんだねえ」
「一生物の趣味として商家の方でも嗜む方が多いですよ」
(そういうものです)
深淵を垣間見た。
「仕上がったらぜひうちの店に寄ってくださいな。お貴族さんに渡す前に貴方の仕事の成果を見せます」
(! 行きましょう! 可愛いのが沢山ありますよ!)
お貴族さんも寄るお人形の店は人形服とか小物、ドールハウスとかも凄いらしい。当然、会員制だ。
おおう・・・。
フリフリの女の子空間へ染められていく。
後日お店に伺う約束をしてギルドを出て買い物をする。
魔石や錬金の材料、あと生活品。
異世界転生おなじみの無限倉庫の魔法もMOD魔法であるのは助かった。
「うん。でもまあ買い物って言うと袋だね」
(さすが大きい都市の商店は手提げの紙袋も凝ってますね)
無限倉庫にかさばるものはポイして、手に軽い手提げ紙袋持って歩く。
「そういえばティラノのヌイグルミが通りの店にあったよね」
星が出たら謎の幼女様に持っていこう。
ヌイグルミの方は安値だ。
お地蔵さんみたいな顔のクマのヌイグルミに妙に心惹かれつつも恐竜タイプのヌイグルミをゲット。
フルダの村近郊に住むおそろしいフィールドボスのヌイグルミらしい。
ヌイグルミ化したティラノはSDキャラみたいで可愛い。
「あと頼まれてたのはなんだっけ」
(甘いものと紅茶ですね)
心の中のオーセンエンデさんと買い物を楽しむ。
紅茶の葉っぱも見繕ってクッキーやシュークリームを買い入れて静寂の女神の祠へ持っていったのだった。
◇
祠。
黒い髪の美幼女のこと、謎の幼女様はヌイグルミを見て
「たわけ。私はお前よりも年上なのだぞ?」と言いつつも受け取ってフカフカを楽しんでた。
(~~~)
胸の中のオーセンエンデさんが萌え死んでた。
かわいい、って言わないの?
(そ、そんな女神さまに、う~~~)
萌え死んでた。
「がぉー」
謎の幼女様が吠えた。
「!?」
(!!!)
萌え死んだ。
◇
「「「おかえりなさいませ、お嬢様!」」」
毎回泊まりに使ってるメイドさんホテルに戻る。
ここは高級ホテルで従業員がメイドさんの格好をしてるとこだ。
サービスや設備が異世界の中では図抜けてる。
たぶんMODホテルなのかな、と思う。入れた覚えないけど。
「これ部屋まで運んでおいて」
「「「かしこまりー!」」」
有意義な日だった。
明日はミーティアのロリっ子達と劇場へ行く約束だ。
魔法がある世界の演劇ってどんな感じなんだろう。
(びっくりしますよ)
楽しみだ。
(こういう日々を夢見てました)
胸の中のオーセンエンデさんがニコニコと笑いかけてきた。
うん。異世界転生するもんだね。
特に事件がない平穏な日々。
オーセンエンデさんは異世界でスローライフ中です。
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そう、フラグは建てる物。




