『うっかりだよ、ミネアさん』
「あのね、王様がね。領主さまんとこのお城のバルコニーで手を振ってたんよね」
「うん」
城へと続く大通りでパレード。
オープンカーな豪華馬車に乗って二人は周囲に手を振ったりしてたそうな。
英雄の装備をしたまま。
「それで、こう、手を振り返す感じで槍を掲げて、つい感動して、ぐああああんってなって、がーってなって、どーん!!! って」
「どーん」
「王様と領主様の出てたバルコニーに槍から雷でて、落ちちゃった」
「落ちちゃった」
「ど、どーしよう!!! オーセンエンデさん!」
「ど、どうしようかー!?」
『雷竜の槍』は本来シナリオ都合で倒せない超ボス状態だった『廃墟の古龍』にすらダメージ与えてくれた素敵アイテム。
あのあとミネアが「見て見てー」って威力を見せてくれた。
大岩が砕け散ってびっくりしたね!
サーシャが素なら800ダメージとか馬鹿な事言ってた。
800というのはレベル70がレベルアップでHPに全振りしたら達するような位置である。
HPの上昇率の高いモンスターはともかく人間相手に使う武器じゃないね!
そう教団的にも流石に30人ほど死んだばっかしの任務に2人だけってのは無かったらしく、結構な位置の武器をくれてたのだ。
SRぐらいのレア武器なのだ。
この貴重なのはパレード終わったら回収されると決まってる。
ミネアには今回倒した古竜の骨で別の槍を作って貰えるらしくて喜んでた。
ほんと、800ダメとか危ないから回収しようね。早いほうがほんと良かったね。
気を取り直す。
「あ、でも、王様ぐらいになると護衛の人がバリア張って無事かもよ?」
「見てないけど、バルコニー、砕けちゃった」
「そっかー。砕けちゃったかー」
惨劇が目に浮かぶ。
お城の結構高い位置にあるバルコニーが砕けて全部まとめて落ちるかんじの。
そうやね。魔王子のクリア適正レベルが35~45のゲームやもんね。
魔王子の襲撃で慌てふためいてる王国に素だとレベル70が即死しちゃうような攻撃を耐えきる人材いないよね。
「うん、砕けちゃったなら仕方ないね、謝りいく?」
「許してくれるかな?」
「あ、ちょっと考えようね」
なんか子供がボール遊びして窓割ったのを聞いてる保護者のような気分だ。
スケールがえらいことになってるけど。
「そういえば良くここまで逃げれたね?」
「サーシャが助けてくれた」
「ミネアがいつかやらかした時のシミュレーションが活きました」
「色々すごいな、君等」
判断の素早い事で定評のあるミーティア教の使徒だ。
サーシャは即行動開始。
隣のミネアの手を取って『幽幻門』を発動。
この魔法はプールに潜水するみたいに別次元へ潜って周囲の目をくらませる事ができる便利魔法だ。
窃盗はおろか、暗殺にも使えるので習得してる人間は非常に少ない。
元ゲームだと暗殺教団に入信したら教団司祭級になってようやく購入できるような魔法だ。
呪文書がある全魔法を覚えているオーセンエンデはともかく
サーシャの場合は大昔に迷宮で手に入った魔法書で偶然覚えていたらしい。
良い備えだ。人前で使ったのは初めてと。
そうやね。理性的な判断やね。
そして大混乱してる周囲の人々が気付くともう二人はどこにも見当たらないっていう寸法よぅ。
「で、『遥道』で追手が居ない経路を辿りながら走ってきた、と」
「あ”あ”あ”――どうしよう、どうしよう!」
「ほ、ほら悪い王様じゃなかったっけ」
たしかゲームでは主人公と険悪な仲になって内乱状態のぐちゃぐちゃになるんだよな。
「パワー系の優しい王様だと評判だったわ」
「優しい王様・・・!」
「「ど、どうしよう!!」」
おろおろしてる。
(『幽幻門』は正解ですね。追手が『遥道』を使っても『幽幻門』で切れてると思います)
ほう。
『遥道』、このクエストで場所はおろか人物すら見つける魔法の便利さにちょいと心配してた。
そういやクエストでも途中で手掛かり見つけるまで経路なしとかあるわ。
「サーシャ、えらい」
「え?」
「頭を撫でてあげよう」
「えへへ」
「ぐぬぬ・・・」
「ミネアは、まあ。こんどね・・・」
「チッ!」
「!?」
さて。
「あなた達、私のところへ来る前に頼るとこあるんじゃないの? ミーティア教団とか」
「「あ!?」」
「ドラゴン退治の司祭とシスターって教団にとっても英雄でしょ? それにミーティア教団って王様も無視できない程すごいんでしょ」
「「そうだった――!!」」
なぜ司祭達に他宗派が指摘するのやら。
「とりあえずミーティアの教会に行って相談しましょ?
囲まれてるかもしれないけど、潜って偉い人にあって相談を。
色々駄目そうだったら」
「「駄目そうだったら」」
「星が出たら『100の星の宮の鍵』で逃げましょう」
「「yahhhhhh!!!」」
うん。
これ下手したら内乱クエストへの突入ルートだわ。




