『マスターおっさん、暁に死す』
「サーシャ! 回復お願い!」
「らじゃ! ついで『聖鎧』の掛け直し!
さっきの火炎でもう剥がれる!」
やけくそ突撃をしてる。
巨大なドラゴンは小娘二人に余裕をこいてたら予想外に痛い攻撃を受けたので激おこだ。
ドラゴンの大きさはすごいでかい。
あのね。
香箱座りしてる肩が城壁のね、ちょっと下か同じぐらいなの。
その状態で首を持ち上げたら塔みたい。
何mかな?
ごつい攻城櫓みたいやね。空も飛んで炎も吐く。
ドラゴンってでっかいんやね?
聞いてたドラゴンは藁葺きの一軒家ぐらいって聞いてたんだけどね!
詐欺よ! むきー!!!
ミネア怒りの一撃。
「喰らえ! 『裁きの雷撃』!」 マナ消費200
ミネア司祭が槍の石突きでどんっと地面を叩くと槍から雷が天へとほとばしり、続いて
どーん!
っと凄まじい音をだして雷撃がドラゴンに直撃した。
「ぎゃあああおおおおお!」
「やった! 効いてるっ! 良い槍だわ、これ!」
「ミネア、今の連発行ける!?」
「駄目! マナが9割は持ってかれた! 予想以上に重い!」
「よし! 時間稼ぎながらマナ回復に専念して! 下手に攻撃するより防御重視! 回復は受け持つよ!」
「任せたわ!」
ミネアが魔法で見た目以上に効果を広げた盾で防御。
サーシャが回復と各種支援魔法しつつ炎の弓でペシペシ。
マナ回復ポーションをがぶ飲みしつつ構え。
色んな魔法準備に加えて耐火ポーションを二人とも飲んで持てるだけの予備も用意して万全だ。
これらのポーションはミーティア神の指令の手紙を持ってきた黒いローブの伝令少女に「よこせーよこせー!」と支援物資をあるだけタカった結果だ。
市長から連れられて行った先にミーティアのノルマ指令を伝える烏隊の子が居て黒いお手紙を貰ったのだった。
◇
昨晩の事。
牢屋から離れた駐屯地で客人がいた。
その客人、教会総本山から来た黒装束の少女が黒い手紙を二人に持ってきた。
逃げようとしたら見えない腕に掴まれて拘束された。
「お二人にはドラゴン討伐任務指令です。パス権を行使する場合は受け取らなくて良いです。別の方に持っていきます」
「パスするわ」
「うけたまわりました。・・・あ、駄目みたいですね。手紙の宛名が代わりません」
「え!? 嘘! 私まだ余裕のはずよ!?」
「ミネア・・・」
血の気が引くデコメガネとサーシャ。
気の毒そうに黙る烏隊の伝令少女。
「あの・・・。とくに司祭になったばかりの方はよく間違うのですけどノルマ封筒以外にも夢でのお告げや動物の伝令での伝達があるんです」
「そ、そうなの!?」
「声を聞けない一般信徒と違って司祭級はそういう連絡手段が増えると聞いてますが、その。・・・お気の毒です」
「・・・うおおおお! あのクソ女神・・・! ひょっとして『ポテチ買ってきて』とか夢で戯言言ってたアレ、ノルマのつもりだったの!?」
「・・・そんなノルマ指令初めて聞きました。
みなさん、生死に関わるノルマばかりなのですけど」
「あ”あ”あ”あ”・・・。馬鹿馬鹿馬鹿、わたしの馬鹿。救済ノルマじゃないの、それ・・・。解るわけないじゃない、そんなのがノルマ指令だなんて」
「一回は一回です。諦めてください。
・・・恐らくですが、『ちょうかんたん救済クエスト』が女神様もノルマ指令だと伝える事は他の子の手前、言えなかったのだと思います」
烏の女の子は女神に結構近い位置なので代弁してきた。
「・・・ミネア」
顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながらデコ眼鏡が別れを告げた。
「うう。サーシャ、ごめんね。私は先に行くから、あなたはパスしておいて」
「ね、聞いて。ミネア、私もパス駄目なの。この間の山賊退治がノルマ指令でクリアだと思ってたら違ったみたい」
「え?」
「ミネア。私も一緒にドラゴン退治だわ」
「え? え?」
「いっしょね! yyyyhhhoooo!!」
「・・・おふた方に手紙を確かに渡しました。では宝物の引き渡しです。槍と盾、弓。各種ポーションが供給されます。それと、気休めですが予想されている弱点等の情報もあります・・・」
弱点等を踏まえた作戦計画は先の防衛隊が全滅してるので烏の女の子の目が泳いでた。
こんな感じで決死隊が編成されていた。
デコ眼鏡と美少女シスターは覚悟を決めて酒宴に戻ってきた。
「市長、私の連れには私達は遠くへ行ったって伝えておいて。それと私達が終わってから牢から出して。へたに伝えるとドラゴン退治に巻き込むかもしれないわ」
「わかりました。他に遺言は?」
「ないわ。遺書的なのは烏の女の子にもう渡してるから。
私達の次のミーティア教の人はさらに強くなるから安心して!」
「よし、ビールです、ミネア! 焼き鳥だー!」
「「yahhhhhh!!」」
ミーティアの使徒に我が子をぜったい入信させまいと市長は硬く誓ったのだった。
◇
「サーシャ!!!」
「・・・」
巨大な尻尾がブーンっと薙ぎ払った。
魔法の盾を構えてそれをデコ眼鏡が受け持つも一緒に吹き飛んだ。
そりゃそうだよね!
でも3回耐えきったのは褒めてあげようね!
魔法と加護スキルって偉大やね!
「ぐおおおおおおおお!!!」
ドラゴンが雄叫びで勝どきだ!
でっかい雷で一度に800ダメージも受けて激おこなのだ。
なおこのドラゴンの最大HPは20万です。
フィールドボスのLv60ティラノは1万である。
・・・シナリオ都合でのボスってそういうもんだよね。
あいてが悪かったようだな。
「サーシャ! いま回復かけるから!頑張って!」
「う・・・」
ふたりとも血だらけだ。
マナもほぼなくなってて、自然回復分のマナでは回復が思うようにいかない。
「・・・ごめん、ごめんね、サーシャ」
ドラゴンが大きく尻尾を振り上げ、余裕を持ってトドメを刺しに来た。
『いと高き御座のはゔえるがいいました。
ここで休むとしよう』
どーん!!!!
「ぎゃあああおおおおお!????」
黒ドラゴンの胴に巨大なツララが刺さる。
黒ドラゴンが後ろを振り返る。
『幸運が先にすすむ。
こんなところに空き地があつた』
どーん!!!!
ドラゴンの右腕に巨大なツララが刺さる。
「・・・あの馬鹿」
「・・・真名魔法」
黒い竜が激おこで乱入者へ尻尾をぶちかます。
『しがうしろにすわる。
私が見張りましよう』
すでにその場には居なく、振った尾の攻撃が空振った。
「!!!!????」
尻尾にツララが刺さる。
「ぎゃ、ぎゃおおおおお!!!???」
竜が空を飛ぶ。
炎のブレスで敵の居る場所を地獄にする。
『てんしがわらう
らんちのじゆんび』
竜の左腕にツララが刺さり、痛みで落下。
「!!!????」
竜の遥か後ろから詠唱が続く。
炎の場所とは全然べつのとこだ。
『犬が跳ねる』
右脚にツララが刺さる。
竜が振り向いた。
朝日に立つは小柄な白い踊り子。
走ってくる。
「ぎゃおおおおおおおお!!!」
竜は噛み付く。
食べたはずが空振る。
『あなたがたに勝てる者はいない
夢見る竜の、そのものなのだから』
「開放!!」
白踊り子オーセンエンデが叫んだ。
巨大な魔法陣が輝いてツララではない、真の効果が発動する。
真名魔法の1つ、『ハヴェルの夢竜』のMAXパワーLv3だ。
入った!
元ゲームだと他に使い勝手の良い真名魔法があって影が薄いが、この『ハヴェルの夢竜』は強力な真名魔法だ。
全ステータス98%弱体化30秒!
その弱体化はHPすらも対象!
ボスHPの20万が残り4000!!
位置取り完璧!
目の前に敵のどアタマ!
イヤッッホォォォオオォオウ!!
「間に合った!」
「・・・かっこいいわ! ずるい!」
「後にして! 30秒しかない! 来い、『雷神剣』!」
オーセンエンデは手持ちの札で最善を全力で頑張るAIを持ってる。
昨晩からこの時まで全力で頑張っていたのだ。
◇
昨晩の事。
騒がしい駐屯地とはうってかわって静かな牢屋。
白踊り子の行動。
「この鍵は牢屋の鍵じゃないね?」
謎の幼女から貰った鍵で牢屋から出ようとして首を傾げる。
(・・・『100の星の宮の鍵』)
胸の中のオーセンエンデ本体が言葉少なげに答えてくれた。
「へえ?」
本体が知ってるならばとオーセンエンデの記憶を探る。
・・・静寂の女神のアーティファクト?
あれ? 静寂の女神のアーティファクトって無限魔石である『導きの星』じゃなかったの?
毎晩最高級の魔石が1つチャージされるそれは大量に魔石を消費するゲームで結構便利なアイテムだったから良く覚えてたのだけど。
今回の旅でも主人公専用でないアーティファクトなら貰えるかな、みたいな淡い期待してた。
記憶をたどる。
『100の星の宮の鍵』は静寂の女神の祠へ即移動できる効果があるアーティファクトのようだ。
元ゲーなら即移動は基本機能なので要らない子なアーティファクトだな。
使えない今はとてもありがたい。
(・・・そこの壁から入って。夜の間しか効果がない)
ふむ。
言われるままに月の光が差し込む壁へ鍵を入れる。
地味な鍵が輝き始める。
月の光が扉になった。
(入って。それと、『長い糸玉』)
ん? どうするつもり?
(判らない。でも運命がきっと導いてくれる)
いや、ちょっと頭を使おう!
あのドラゴン相手に成り行き任せはない。
それに幼女の言ってた糸玉の話もある。
わからないのを判らないまま求めると
糸が見えないんじゃないかと。
(・・・え? でも? どうすれば良いの?)
考えよう! 素早く。
自分と貴女の魂共有で知識にフルアクセスだ!
すばやく考えてまとめていく。
ステージ5のシナリオボスである廃墟の古竜は指輪で弱体化させて戦う。
主人公は不在だ。
指輪なんてない。
ティラノ相手で頑張った魔法でも流石に無理だろう。
体の大きさが違いすぎる。
『攻撃弾き』は当然無理だし、『致命打』はかなり無理がある。
先の幼女に見せてもらったムービーでじっくり攻撃パターンを予習した。
『噛み付き』を避けたら額の宝玉に致命打いける?
頭をよじ登って? 届く? 正気? という細い勝利ラインしかなかった。
指輪の代わりにどうにか弱体化するしかない?
使える魔法ではボス敵相手には足りないよね?
あのレベル相手に効くような弱体化魔法は魔力が700ぐらいからだから370の今は足りない。
幾らか弱い効力のなら、例えば攻撃ステータス-20というのならできるけどLv1のこの身では意味がない。
他の手段はないかな?
夜明けまで錬金と鍛冶で最強の剣を目指せるかも?
そしてエンチャ魔力をアップしてマナを700目指す?
だめだめ。時間も素材もない。
最高級の魔石が手持ちにそんなにない。
あと6つしかない。
鍛冶エンチャアップの元解析も必要だし、鍛冶エンチャアップの魔石も必要だから魔石が大量に要る。
錬金! なにか凄い効果のポーションってあったかな?
毒系はそこそこ強力だったっけ?
でも元ゲープレイ時にそんな面倒なの使ったことないよ?
考えがまとまらない。鍵をいじる。
そこで鍵のもつもう1つの効果に気づき、叫んだ。
持ち主に自身の持つ力を伝えてきたのだ。
ーーーーーーーー
『100の星の宮の鍵』
効果1:星の出てる間、各地の静寂の女神の祠へ移動できる。
効果2:魂の宝を代償に真名魔法を習得できる。
効果3:片手に装備すると真名魔法が使用できる。
ーーーーーーーー
「真名魔法!」
これだ。
メインシナリオで開放される強力な真名魔法は無理でもサブクエストの真名魔法は拾えるかも! 主人公特権のそれが習得できる!
リチャードさんの使った『武装解除』のような当てれば勝ち確、というのを使える!
主人公と違って片手が塞がるけど使えるのは大きい!
そう、確かボス相手にも効くような弱体化の真名魔法があったはず!
場所は・・・。
「『長い糸玉』!」
願いは判った! 糸玉が導いてくれる!
『100の星の宮の鍵』はいわゆる即移動みたいなものだ。
出先は静寂の女神の祠限定、さらに星の出てる間とはいえ各地へ移動できる。
「右手! 『疾走の羽』!
左手! 『幽幻門』!!」
弱体化効果がある真名魔法がある迷宮へ急ぐ。
走る速度を上昇させる『疾走の羽』と一定時間プールに潜水するように別次元に潜って、敵をやり過ごせる『幽幻門』を手にセットだ。
『幽幻門』は便利魔法ではあるが使用中は攻撃できない。
勘の良いモンスターは追ってくるだろうが、覚悟を決めた。
月の光をくぐる。
祠に出る。
すぐに糸玉の光を追って迷宮へと走る。
モンスターと出会う。魔法で逃げる。
「はぁはぁ・・・!」
オーセンエンデの体はLv1ではあるが、身体能力は驚くほど高性能だ。
HPとマナがレベル相応であるが、元ゲーで設定がない運動能力は素晴らしい。人間としてではあるが、TOPクラスだと言っていい。
(がんばって!)
任せて! あなたの体は動きやすい!
夜明けまで走った。
途中かなり危ない事があったが3つの迷宮を転戦し、最下層の隠れ部屋にある石版から真名魔法を得た。
3つというのは詩文になってる真名魔法を全部集めると効果が増し、中途半端な効果では本来倒せないクエストボスに到底届かないからだった。
こうして『ハヴェルの夢竜』を得た。
◇
「額の核! あれを砕けば死ぬ!」
「! あの黒いオーラの宝石!」
浪漫魔法である『ハヴェルの夢竜』の最大効果をぶちあてできた。
30秒間ではあるが98%の全ステータスを弱体化だ。
元ゲームで浪漫魔法扱いなのは、これを当てれるような敵は普通に戦っても勝てるからだ。
それと『死の囁き』の真名魔法がクールタイムが30秒で重ねがけで使える弱体化がメインクエストの進行ついでにLv1とはいえ取れるので影が薄い。
しかし『ハヴェルの夢竜』のマックス効果はHPすらも弱体化の対象にする凄まじさがある。
昨晩の謎の幼女に見せて貰った攻撃パターンのおかげで廃墟の黒竜の攻撃を見切る事ができた。
あたり一面を炎で包む上空からのブレスが一番問題だったが運良く逃げる事ができた。
『幽幻門』だと真名魔法の詠唱が切れるので『疾走の羽』を使って全力疾走した。
飛び立つ動作を見た瞬間から真下へ走って股を抜けて後ろへ出たのだ。
よく確認されていたら死んでた。
運が良かった。助かった。
「『雷神剣』! 援護できるなら頼むよ!」
「・・・! 任せて!」
真名魔法を食らって弱体化が激しい竜はぐったりしていた。
切り刻むより額にある禍々しい黒い宝玉への致命打へと急ぐ。
元ゲームだと倒した後にシナリオムービーでくり抜く奴だ。
あからさまに弱点だ。
でかい顔を軽快な足取りで踊り子が登る。
白い可憐な少女が竜の額へと雷の剣を突き刺す。
『どぅううううんん!!!』
致命打を入れた。
世界が超スローになる。
その間にさらにゲシゲシと『雷神剣』で叩く。
「やばい」
まだ足りない!
弱体化激しいとはいえ、HP4000はまだ普通のボスHPに近い!
残り数百ぐらいギリ残ってる!?
最大HP20万のステータスが戻る!
残りHPの率で戻るとはいえクールタイムが長いから2撃目はない!
「っ! ミネア、雷撃は駄目! 巻き込む!」
「判ってる! あれは魔の属よ! ならば!」
戦女神の聖槍!
「ぐぎゃああああああああああああああ!!」
竜と一緒に白い踊り子が聖なる光に包まれた。
ドラゴンの黒い核が砕けた。
届いた。届いたのだ。
本来なら倒せるはずのないHP20万のシナリオボスが主人公でない脇役の活躍で倒れたのだ。
そしてオーセンエンデの魂に巣食う汚い部分、
おっさんの魂が浄化された。
いやー。
最後は可愛い娘っ子で見送りされましたねえ。
悪魔祓い、きもちいいなり・・・
この日、竜と一緒に濁った不純なおっさんの魂が浄化された。




