話せない
「とにかく俺はお前の声が気に入ったってことだ。ダメか?」
気になっている彼からのお誘いだから断りたくはないのだが、こればかりは頷くのにはどうしても抵抗があった。
「ダメというかなんというか。僕なんかがVtuberなんてやって務まるの?その、大した女声でもないはずだよ?」
「今の時代の変声機ってやつは進化しててな、男の声もノイズ無しで女声に変えられるんだぜ?」
「へ、へぇそうなんだ。でもそれって視聴者を騙すことにならないのかな?視聴者は女の子って思って見るわけでしょ?」
「んー、確かにそうだな。お前のその声なら騙せるのは騙せるだろうけど、本人が嫌なんじゃいずれボロがでるしな。よし、それじゃあバ美肉系でやるか」
「バ美肉系?」
きょとんとして首を傾げると悠一は得意げに語り始めた。
「バ美肉とは、『バーチャル美少女受肉』あるいは『バーチャル美少女セルフ受肉』の略である」
「つまりどういうこと?」
「まぁ、簡単に言うならボイスチェンジャーを使って男声を女声に変えた美少女Vtuberってことだな」
「へぇ、そんなのがあるんだー」
「なんか棒読みくさいな。そんなにつまらなさそうか?サブカル好きなら結構食い付くと思ったんだがな」
悠一は顎をさすりながら僕の目を覗き込む。恥ずかしいからやめてほしいのだけれど。
「そ、そんなことないよ。とっても面白そうだよ」
「だよな!面白そうだよな!じゃ、やろう!」
身を乗り出してくる悠一。
「それとこれとは話が別だよ。僕には僕でやりたいことがあるし」
それをひらりとかわす僕。
「やりたいことってなんだ?部活か?もう決まってるのか?」
「いや、部活に入るつもりはないよ・・・・ただ」
「ただ、なんだ?」
「君に話す義務はない」
「はぁ?なんだよそれ。こっちから頭下げてお願いしてんのそれを教えてもくれねぇのかよ」
「ご、ごめんね。そういうことだから今日は帰るね」
「ちょっ・・・・おい!」
僕は逃げるようにして教室を出て行った。知られたくない。君にだけは知られたくないのだ。
「俺は絶対諦めないからな」
悠一は拳を握りしめて呟くのだった。