少年少女と少女少年の誕生
⬛Episodic.3⬛
19XX年、西宮市市街にある兵庫医大ホルモン培養センター集中管理棟のアンダーグランドでは童貞ホルモン分泌学の権威、仲井戸教授が中心となった童貞ホルモン培養の研究がトップシークレットで進められていた。
旧財閥家四菱商事の名誉会長に君臨する刀根山喜三郎と、同じ旧財閥家八井物産の創始者篠ノ井宗一郎から数百億規模の献金があり、
研究は最終段階へと進んでいた。
仲井戸は刀根山一族や篠ノ井一族から莫大な献金を元に、兵庫医大ホルモン培養センターの集中管理棟の地下深くにトップシークレットなる童貞ホルモン培養センターを開設させた。仲井戸教授は古くからの付き合いがある城ヶ堀製薬の新薬開発担当部長、西中島龍巳からも多額の研究費を寄付されていた。新薬が完成したあかつきには城ヶ堀製薬から販売するといった契約書と共に。
刀根山と篠ノ井、城ヶ堀製薬の西中島と仲井戸が兵庫医大ホルモン培養センター集中管理棟のアンダーグランドV.I.P. Roomで談笑していた。
「こうして四人が集まるのは、本当に久しぶりでございます」
西中島が猫撫で声で切り出す。
「西中島君!その猫撫で声はやめたまえ。私が猫アレルギーだと知っておるだろう!」
刀根山が不機嫌そうな顔で西中島を見る。
「まぁまぁ。刀根山さん。西中島君は西宮北口の超高級猫カフェ"猫踏んじゃった"の常連というじゃないか!」
篠ノ井が刀根山をなだめる。
「申し訳ございません刀根山様。ところで先日お願いした例の件はどうでしょうか?」
西中島は猫撫で声を極力出さぬようにしてしゃべった。
「あぁ、君の息子を裏口入社させるのは心配ない!安心したまえ。ただ毒饅頭がそろそろ食べたくなってきたのだが?」
刀根山は自分が猫撫で声になっているのに気が付いていないのである。
「例の毒饅頭ですね。刀根山様には特別に桐の箱で、ご用意させていただきます」
刀根山と西中島の会話に篠ノ井が口をはさむ。
「あれぇ?西中島君!君の娘を兵庫医大に裏口入学させたのは誰のおかげかなぁ?」
篠ノ井までもが猫撫で声になったいるのだが、本人は気が付いていない。
「もちろん篠ノ井様のおかげです。もちろん毒饅頭を桐の箱で、ご用意させていただきます」
所詮、この世はコネとカネ次第。
仲井戸はそんな会話には全く興味がなく、むしろ毒饅頭の毒の成分は一体なんだろう?と科学者的に考えていた。
地下深くの研究施設は通称フルムーンと呼ばれ満月の夜だけ研究活動が行われているらしい。一体なにを研究しているのだろうか?
仲井戸が一行を連れてフルムーン施設に現れる。久しぶりに見る光景に仲井戸以外の三人は、更なる進化した施設に驚きの声をあげるのであった。
「仲井戸君。ここまで来たのは君の腕と知恵の賜物じゃ!」と刀根山が褒め称える。
「恐れ入ります。刀根山様!」
「それはそうとじゃ、タンクの中にいる少年と少女達のデータベースは抹消したんじゃろな?」
「もちろんでございます。刀根山様、データベースは未来永劫世の中に出ることは決してございませんので安心してください」
仲井戸が答えると満足そうな表情を浮かべ刀根山は篠ノ井に目配せを送る。その表情を読み取った篠ノ井と西中島が仲井戸に質問した。
「仲井戸教授。この研究が成功したあかつきには更なる献金をいたしますので、今後ともよろしくお願いします!」
少年と少女は兵庫医大に極秘冷凍保存されている各界の著名人や知識人、スポーツ界のスーパースター等の日本人69名の精子と卵子を無作為に選び受精させ生まれた未来に向けてのクローン型新生双生児なのである。
フルムーンはすべてが真っ白な壁で囲まれて36本の円柱形タンクに母胎内の羊水と同じ成分の深層海洋水で満たされている。タンクから繋がる数本のチューブから純高濃度酸素が送られていた。深層海洋水の中では0歳児から15歳の少年と少女が母胎内にいるときと同じ格好でゆらゆらと揺れ動いている。36人はこの兵庫医大病院でクローン新生児として生まれ、このフルムーンの研究施設で仲井戸や研究者と共に暮らしているのだ。
36本のタンク内には少年と少女が一体ずつ閉じ込められているが、よく見ると少年の全てが同じ顔で少女も同一のようだ。仲井戸や研究者達は、この二人を少年少女と少女少年と呼んでいた。少年少女と少女少年はひとつの卵子にひとつの精子が受精したものが、ふたつで生まれ誕生したのである。つまりは受精卵がふたつ着床したことである。ふたつの受精卵なのでDNAは異なり、血液型も性別も当然異っている。つまり少年と少女はクローン人間ということだ。仲井戸はクローンテクノロジー学でもマッドサイエンシストなスーパー科学者であり最先端のテクノロジーと環境の中で、人類史上初のクローン人間をすでに作り上げていたのである。
仲井戸の研究によると童貞の少年には睾丸で95%作られているテストステロンと呼ばれている男性ホルモンの分泌が、童貞を損失した男性と比較して大量に分泌しているのである。同じく処女の少女にも同様のエストロゲンと呼ぶ女性ホルモンが分泌している。その研究内容とはエストロゲンは卵巣で作られ、子宮の発育や子宮内膜の増殖などにかかわりがある女性ホルモンである。年齢によってそのレベルは変動し、思春期にはエストロゲンのレベルが上昇する。女性としての機能が発育・発達して月経が始まり性成熟期には規則的な周期で月経があり、エストロゲンの変動は安定したパターンで繰り返されるのだ。
このふたつのホルモンを12歳から15歳の少年少女と少女少年から抽出結合させ、特殊培養装置でネオ高濃度ホルモンを作成しようとしているのだ。そして最終的なミッションが抽出結合したネオ高濃度ホルモンから人類史上初の若返り可能なスーパー新薬の開発である。仲井戸がマウスや猿に投与実験した結果、まだ副作用があるものの、ほぼ完成に近づきつつある。最終的に人体実験が残るのだが、仲井戸は自らの肉体で投与したいと考えていたのである。