今日の始まり2
いつも佑の通う登校ルート。高校へは歩いて20分少々。家から一番近くてお金の掛からない公立という理由でこの高校を選んだ。学力レベルもそこまで高くなかったから苦労はせずに受かる事が出来た。
この近辺には住宅地多く建ち並んでいるせいか、周りには制服を着た生徒たちが何人か歩いている。自分と同じ高校や別の高校、中学の生徒たち。
5分程歩くと次第に住宅街を抜け、今度は高校から一番近い駅に遭遇する。この駅は地元の中では人が多く行き来する場所である。待ち合わせに最適なカフェやファミレス、歴史の本で見たことのある有名な武将の銅像があり幅広い年齢層の人たちで埋め尽くされている。ビルがいくつかそびえ立ち、スーツを着た会社員達の姿も多くなってくる。
そんな人通りの多い所も10分も経てば今度は古びた商店街に辿り着く。営業している店はわずかで、いつなくなるのかも分からない。しかし佑が幼い頃からすでにこの状態なので15年近く、なくならずに今に至る。その理由は誰にも分からない。
ここまで来ると周りは同じ制服の生徒達がほとんどだった。だんだんと高校に近ずくにつれて生徒達の声で賑わってくる。朝練中の野球部やサッカー部の掛け声なども聞こえてくる。
学校の校門をくぐり、校内へ入ろうという時佑の後ろから声が掛かる。
「おっはよーたっくん!今日も元気ー? なはははは!私は今日も絶好調だぜー!」
「はぁ…たく、なんでお前はいつもそんなに元気なんだよ…。それに!そのたっくんって呼び方、恥ずかしいからやめろって言ってるだろ…!」
日の光に負けないほど明るい色をした黄色の髪のショートカット。運動終わりなのか首からタオルを掛け、健康的な体つきをしている女子高生。
朝から異常にバカ高いテンションな奴は『大崎 綾』。家が近所で昔からよく遊んでいたりしていた。高校へ入学と同時に陸上部に入り、昔と比べて会う頻度は減ってしまったがこの無駄に明るい性格は昔と変らなかった。
「ごめんごめん、つい癖で…。てゆうかたっくん…何か今日機嫌悪い?いつもより顔色も悪いみたいだし…どうしたの?」
うっ…こいつ、こういう無駄に感が鋭い時あるんだよなー。今朝の事はこいつに話しても何の解決にもならないし…。しかもこいつは家の状況を知ってるから余計に心配掛けることになるしなぁ…。
「何でもねーよ。それよりお前、朝練終わりか?」
教室に向かいながら会話を続ける二人。
「え…あ、うん!そうそう今日ね、自己ベスト更新したの!だから今日は気分最高だよ!どおどお?すごいでしょ!?」
「へぇー。なら最後の大会の準備も万全だな。あ、そうだお前大会で1位とったら何かプレゼントやるよ。何がいい?」
それを聞いた綾は今日一番の笑顔で答える。
「ホントに!?な、何でもいいの!?」
予想以上の反応に驚く佑。
「あ…ああ。…そりゃ最後の大会だしな、少しくらいは奮発してやるよ!お前の好きなマグロ丼だって好きなだけ食わしてやる!」
「ほほぉ、好きなだけねぇ…運動部の胃袋を舐めてたら後で後悔するかもよー。でも、約束だからね!絶対忘れないでよー!じゃあねー!またね!」
「おう、またな…!」
そういうと綾は自分のクラスの教室に向かってスキップ交じりで去っていった。
まるで嵐が過ぎ去った後のように佑に静けさが戻ってきた。自然と心の中まで落ち着いてきた。
はぁ…あいつとしゃべっただけで何だか気持ちが楽になってきやがった。あのバカみたいな明るさにも、たまには感謝しなくちゃな…。
佑は自分のクラスの方へ歩みを進める。その足取りは今朝よりも少し軽かった。