今日の始まり
ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピ!ガチャ…!
朝、いつものように目覚まし時計に起こされる廣井佑。眠い目をこすりながら自分の部屋のある2階から階段を降り洗面台で顔を洗い歯を磨く。隣のリビングでは佑の母である廣井裕子が朝食を作っている真っ最中だった。野菜を切るまな板の音やフライパンで焼いている音がかすかに響いていた。再び2階に上がり自身の通う高校の制服に着替え、リビングへと足を運んだ。
「おはよう」
「おはよう、丁度朝ごはん出来たからさっさと食べて早く学校行きなさいよー」
「分かってるって…」
テーブルですでに朝食を食べていた裕子の隣に座り出来立てのスクランブルエッグを食べ始める。
食べている手は止めずに佑がしゃべりだす。
「なぁ、母さん。今日が何の日か分かる?」
それを聞き裕子の手が止まる。
「…え?何かあったけ…。あっそうだ!今日進路相談の面談だっけ!?もう佑も高校3年だもんねー。何かなりたい職業でもあるの?」
「無理に話を逸らさないでよ…。母さんの嘘はいつもばればれなんだよ。今日は親父と離婚から10年目の日だ…。母さんだって気づいてるでしょ。」
「………」
黙ってうなずく裕子。それを見て溜息と共に手を止める佑。
「母さんの言う通り俺も高校3年になった。もう18歳になるんだよ。いい加減、離婚の理由を聞かせてくれよ!浮気か?それとも別の理由なのか?俺も気持ちの整理をつけたいんだ。理由を聞いてあいつはろくでもない奴だったんだってキッパリ切り捨てたいんだ!」
だんだんと苛立ちが込み上げてくる佑。
親父が浮気なんかするような人間でないことは自分でも分かっている。でも小さかった俺には1つ理解できないことがかった。あの日、離婚の話を切り出したのは親父からだったけど、話し終えた2人の表情はなぜか同じだった。辛いのは母さんのはずなのに、親父も辛い顔をしていた。俺にはその表情の理由がどうしても分らない。だからこそ親父が一方的に離婚を切り出した理由を、真意を確かめたいだけなんだ。
裕子は小さな声で呟やいた。
「あの人は悪くない…」
「…またそれかよ。そんな事は俺にだって分かる。俺が聞きたいのは…!」
「あなたを守る為なの…お願い…それ以上はやめて…」
涙ぐむ裕子の表情を見て佑ははっと我に返り、しばらく黙りこみ残りの朝食を食べ終え席を立つ。
「…じゃ…行ってくる」
鞄を持ち裕子のすすり泣く音を背にして佑はへ学校へ向かった。