6.仲直り
空が白くなり、太陽が顔を覗かせる。
朝が来た。
昨日は思わず飛び出してしまった。あれからずっと飛んでいる。水希はまだ見つからない。何処にいるのか全く見当がつかないし、探しようがない。下手したら、もう会えないかもしれない。本当にどこに行ったんだろう…。
そういや、ここに来てから一人になるのって初めてだよね。前世、よく一人でいたなぁ…。だからこんな性格になっちゃったのかな?
…違うか。
___美空様。
不意に声が聞こえた。
この声、水希だ。
___こっちですよ〜。
「どこにいるの?」
___ちょっと待っててください。
「ん」
どうかしたのかな。
___上です。美空様。
「上?」
そう言われ上を見ると、いつの間にか青くなっていた空にが穴が空いていた。その中に水希がいる。あれ、こんな感じの光景見たことある。
良かった。水希いた…。
___ほら、こっち来てくだい。
んー、水希がいるから安心かな。そう思い、水希のところまで飛んでいく。
___よーし、行きますよ!
「えっ?」
いきなり水希に噛まれたと思ったら、思いっきり引っ張られて穴の中に入ってしまった。
「……ん」
目が覚めたら、眩しい光が私の目を刺した。
___美空様!
「水希? ここどこ?」
あれ、背中がひんやりして…。
___僕の背中ですよ。
「エッ」
起き上がって緑色の地面に降りると、大きな水色の蛇がいた。
嘘。水希って小さい…あ、そういやお前巨大蛇だったな。
___この姿でお会いするのはこの前以来でしたね。
おかげで完全に忘れてた。
「ここどこ?」
地面を見ると、一面原っぱだ。アルェ?
___ふふふ、こちらへ。
水希が私を乗せて前へ進む。どこ行くのかな。
ぐおおおおおおおお!!!
突然、何者かの咆哮が辺りに響いた。
何? ちょっと怖い。
___ご安心を。
水希は一度止まって振り返り、それだけ言うとまた前を向いて進み始めた。いつからそんな大人っぽくなったんだよ。お前。
太陽が輝き、眠くなってくる暖かな時間。
「はっ、はは。意味ワカンネェ」
「始水龍様だ!!」「本当だ!」「始水龍さまー!!」
青色、緑色、赤色の小さな竜三匹に囲まれてます。
シスイリュウ様って何? スイリュウってのは水龍だと思うけど、シって何? 死水龍? デス? デスなの?
やだわ〜、なんかやだわ〜。
___始まりのシ、ですよ。
隣にいる水希がそう教えてくれる。
始まりって何。何で考えてることばれたの。まじ意味わかんないぃ、うけるぅ。
…気持ち悪。やめたやめた。
「始水龍様!」
___心が通じ合ってるんですよ!
「始水龍様?」
「お前それ蛇の姿で言ってるから許されるんだからな」
キラッ、と効果音がつきそうな笑顔で言い放った水希にそう返す。蛇型はめっちゃ可愛いけど、人型で言ったら許さん。絶対に、絶対にだ。あ、落ち込んでる。キシャァ…だって!? 可愛すぎて死ぬ。
私が脳内で悶えていると、青色の竜が近づいてきた。西洋竜だな。可愛い。
「始水龍様!!」
「……」
答えてあげたいけど、口を開いたら変なことを口走りそう。
「始水龍様は他者と喋るのが苦手なんですよ」
「恥ずかしがり屋なの?」「そうなんだー」
誰かがそう言うと、口々にそう言って静かになっていく竜達。
…今の言葉は結構傷を抉った。
「そうなんですよ。ゆっくり仲良くなっていきましょう?」
「「「はーい!!」」」
その言葉を聞くと、元気よく声を揃え返事する三匹の竜。
あれ? なんか聞き覚えのある声…?
「水希?」
「そうですよ」
何…だと…!?
「急成長…」
「そんなとこです」
スッゲー。正直興味なーい。
「「「始水龍さまー、ばいばーい!!」」」
「ばいばーい」
空が茜色になる頃、またまた元気よく声を揃えて言う小さな竜達。可愛い。
「キシャ」
「どうした」
いきなり鳴いた水希に伸びをしながら問うと、いえ、と返事が返ってきた。
何だか少し寒くなってきた。寒い、なんて今世で初めて思った。
「今更だけど、ここどこなの?」
「あなた方が創ったりゅうの世界ですよ。たくさんりゅうが住んでいるんです」
どういうことだってばよ。
「美空様が穴に吸い込まれる前、力を使う練習をしていたじゃないですか」
水希の話にうんうん、と頷く。
「その時、五龍の力が混じり合ってしまい、ここが生まれたのかもしれません」
ちゃんとしたことはわからないらしい。けど、ここを創ったのは私達ってやつは確定らしい。何でそんなのわかるんだよ、と聞いたら、
「皆様の力が辺りを漂っているんですよ」
って言われた。お前そんなことわかるんだね。
「ところで、樹龍達はどうしたのですか?」
「喧嘩した…?」
みずきの問いにそう答えると、驚いた顔をされた。
私が逆ギレ…とまではいかないけど、言い返したらそんな感じの雰囲気になった。
私、感じ悪かっただろうなぁ…。黙って怒られときゃよかった。嫌われたなぁ…。
「どういうことで…?」
「えーと__」
心が繋がってるんじゃなかったのかよ、と思いながら久々の原っぱに寝転がって丸まり、順番にあったことを話していく。丸まった私を守るようにこの前より大きくなった体で丸を作り、私を包んだ水希は黙って聞いてくれている。あったかい。
「…ってことがあったのさ」
「そうですか…」
話を聞き終えると、かける言葉が見つからないらしい水希がそう呟いた。
あ、神龍になったってところは隠してます。創造神様、ソラ様と少し話した、と言っておいた。嘘は言ってない…よね?
「だからまだ来てないんですね」
「?」
「美空様を見つけたら、すぐここに連れてくるって言ってたんですよ」
僕は留守番でしたけどね、と苦笑いで言う水希。
みんなですぐここに来る予定だったんだ。そんな予定あるんだったら説教すんなよ、水希ずっと待ってたんだぞ、と思う今日この頃。
「美空様は、仲直りしたいんですか?」
「できるならな…」
水希に聞かれ、私はそう答える。
すると、水希は微笑みを浮かべた。
「なら、僕も協力します!」
微笑みを浮かべそう言った水希に背を向け、ありがと、と呟く。目の前の赤の混ざった水色の鱗を見ながら、私は眠りについた。最後にクスクスと嬉しそうに笑う水希の声が聞こえた。
ドウシテコウナッタ。
___大丈夫ですよ。美空様。
柄にもなく震える私を落ち着かせるように、背中に乗っている私の方を振り向き顔をすり寄せてくる水希。それに励まされて、前を見る。そこには、一昨日喧嘩した四龍がいた。
「そ、そんなに警戒しないで?」
「……」
「ごめんって」
「……」
麗華ちゃんと陽和が話しかけてくる。ガクブルです。
冷夜と薫樹はジリジリ距離を詰めてくる。ガクブルです。
「はぁ、昨日仲直りしたいと言っていたのはどこの誰でしょうかねー?」
「おま…え…みずきぃぃぃぃ!!!」
水希の言葉に思わず大声を出す。
顔が熱い。今私、俗に言う顔真っ赤状態なのでは…?
ああ、何で涙出てきてっててて。
堪らなくなって、水希から降りて逃げる。
うううぁぁぁぁぁぁ、水希のバァァァァァァァカ!!
「あっ」とか「おいっ」とか後ろから聞こえるけど無視無視。
ダダダダッ
あぁぁぁ、なんか聞こえるぅぅぅぅ!!
はーははは、だがな! 前世で私は、足が速かった方だったんだよ!! 追いつかれるかもしれない!!
「あにゃっ」
いきなりお腹に太いものが巻きついて行く手を阻んだ。ついでに走ってた勢いで、ぐえってなった。結構痛かった。苦しかった。
みずきのばか……。
「ぐるじい」
麗華ちゃんに締められてます。抱きしめる、じゃなくて締める、だ。抱き、何てものは存在しない。
真面目にさっきのよりも苦しいかもしれない。
「美空ちゃんー!!」
「はなじぇ」
も、無理…。ありがとう。
「さよ…な…ら…」
「麗華離してやれ!」
「えーんーりゅーうー?」
「ゴメンゴメンゴメン!!」
バッと効果音がつきそうな勢いで私を離す麗華ちゃん。あ、ちょ、もうちょい考えて。今、体から力が抜けてて立てない。
どんどん地面が近づいてくる。…あ、ダメだ。ちょっと地面とキスしてくる。そして結婚するんだ。
おい待て私、何考えてるんだ。一生独身で生きていくと決めたじゃないか。いや違う、仕事と結婚するんだっけ? 本気で何考えてるんだ私。思考回路がなんかおかしい気がする。麗華ちゃんに締められたせいだ、そうだそうに違いない。
「っと」
「よっと、危ないよ。麗華ちゃん」
あれ? 地面が近づいてこない…?
少し考えてから、私が止まっているんだと気付いた。両肩を掴まれているらしい。その時、上から「ブフッ」と吹き出す声が聞こえた。何だよ、声に出てたのかよ。
「本当にごめん」
「いい」
普通に立ち上がってからずっと、麗華ちゃんに謝られている。別に気にしてないし、そこまで謝ることでもないと思う。
助けを求めて、水希を見たが首を横に振られた。おのれ水希。助けろください。
「美空も良いって言ってる」
薫樹、あなたが神か。いや、私も神龍か。神龍って神様類なの? 薫樹の方が良いって、絶対。
おっしゃ、麗華ちゃんが薫樹の方見た!
「でも」
「逆に困らせてる」
「あ…」
麗華ちゃんがまたこっちを見る。私は咄嗟に横を見て、別に気にしてないですよ風に振る舞う。
あ、冷夜と陽和だ。完全に空気と化している。私的には別にそれで良いんだけどね。片方掴みかかってきたやつだし。怖いからね。
「美空ちゃん…」
いつになく弱々しい声で私の名前を呼んだ麗華ちゃん。黙って声のする方を見ると、泣きそうな顔をしてこっちを見ている麗華ちゃんがいた。
え、どした…?
「私のこと嫌い…?」
「はっ?」
どうしてそうなった。意味わからん。
思わず声出しちゃったのは仕方ないことだと思う。
…嫌い? か。嫌いってわけでもないし、大好きってわけでもない。…多分。
んー…。
「…別に」
麗華ちゃんの後ろを見ながら言った。
考えた末、出た答えがこれだった。
だ、大好きでもないし…ねぇ? 好きって言うのも告白みたいじゃん?
「そっか」
安堵したように言う麗華ちゃん。いいのか、これで。言ったの私だけど。
___素直じゃありませんね。
何がだよ。
___大好き、と言えばいいのに。
「別にそんなんじゃない」
___またまたぁ。
何がまたまたぁ、だよ。勘違いすんなや。
水希と話している私を、後ろにいる龍達がニヤニヤと見ていることに私は気付かなかった。
「俺は?」
「お、俺のことは? 嫌いか?」
薫樹と冷夜だ。
この二龍も大好きでも嫌いでもない。ていうかどうでもいいだろ、私からの好感度なんて。遊び半分で聞いているに違いない。
「別に〜」
水希に目を戻しながら少し投げやりに答えてしまったけど、二龍とも何も入ってこないから平気だろう。
「美空ちゃん」
誰だよ。ほっとけ。
そう思いながら、声の主の方を見る。
「僕…ねぇ、何で目をそらすの」
安心しろ、目をそらすのはいつものことだ。
「…僕のこと嫌い?」
「………」
「ちょ、何で黙るの」
黙りたい気分だからだよ。
「ねぇちょっと」
「……」
「泣く」
「陽和が泣き喚こうが何しようが私には関係ない」
「酷くない?」
ドSが見る影もないですね〜ニヤニヤ。
「くっ…」
「ふっく…」
「………」
うん、とりあえずそこ三龍、震えるのやめようか。
___仲直り、成功ですかね。
少し前のように、賑やかになった中で水希がそう呟いた。
「だね」
私は小さくそう返し、少しだけ笑った。