4.名付け
ドウシテコウナッタ。
蛇は名前ない、と答えたので、私が蛇の名前決めようとしたら、ここにいる全員の名前を付けよう! とういう方向へなぜか話が進み、誰が誰の名前を決めるかで話しています。前世の名前はどうしたよ。親が泣くぞ。そういえば、私死んでから家族泣いたかなぁ…。どうだろう。
「女子と女子、男子は男子で決めた方がいいんじゃない?」
「えっ」
いや、そんなことないだろ。何でそう思うの。
ふわふわのお兄さんの言葉に、僅かに顔を青くする朱色のお姉さん。何だ、私とは嫌か? …嫌だよな、年下にこれから使っていく名前つけられるとか。うん、わかるわかる。
「…水色ちゃん、どんな名前がいい?」
「えっ…いや別に、何でも…」
私には、私の名前あるんだけど。いいか。前世とか気にしてたらこの先やってけない。
ていうかいいのか。年下に名前つけられるの。
「お姉さんは?」
「お姉さっ…!!何でもいいよー」
なんか嬉しそうだな。嫌じゃないの?
「うーんと…」
「んー…」
朱色のお姉さんを見る。朱色の長い髪を高く結い上げて、綺麗な紅色の瞳…。
うーん。ネットあったらなぁ…。漢字とかの意味、調べられるんだけどなぁ…。
麗って、綺麗とかの意味なかったけ? きれいのれいって、麗って字だった気がするし。
麗何とかって、この龍にぴったりじゃない? あとは、赤とかを連想する漢字…。
うーんと…。華とかどうだろう? 麗華。結構良いんじゃないの? これ!
「麗華…」
「ん?」
「えーと、麗華…とかいいかなぁ、って。麗しい華って感じで…。嫌だったら、考え直します」
年上だからね、敬語使わないと。
「麗華、か。すっごく良い! ありがとう! 私は麗華!!」
朱色のお姉さん…いや、麗華さんはそう言ってくれた。その後に、「敬語、使わなくていいよ」と言った。いいのか? 中学生以上になると、年上には敬語使わなくっちゃいけないんじゃ?…お言葉に甘えさせてもらおう。
何より、気に入ってもらえて良かった…!! 本当にね、不安だったわ。
よし、蛇の名前は…。どうしよっかな〜。なんか私に関係あるものがいいな。
「水色ちゃん、水色ちゃん! 美空ってどうかな?」
「美空…?」
「うん! 美しい空って意味! 気に入ってくれるかな?」
美空かぁ…。
「うん…!」
良い!! それに、麗華さんが考えてくれたんだもんね!!
「そっかぁ、良かった!」
「…えっと、あ、ありがと…」
「え?」
「な、何でもない!!!」
お礼を言ってみたが、聞こえてなかったみたい。…あぁ、なんか顔熱い。
そんな私を見て、「どうしたの?」と笑顔で聞いてくる麗華さん。くっ…笑顔が眩しい…!
たまらなくなって、ぶんぶん顔を横に振り、袖で顔を覆う。そしてまた、ぶんぶん顔を振る。完全なる奇行だろう。恥など捨てた。
「もう決まった?」
ふわふわのお兄さん達がこっちに来る。
麗華さんの後ろにさっと隠れる。そんな私を見て、不思議そうな顔をする麗華さん。…何にやけてるの。
「決まったよー!」
おん?あ、名前のことか。
じゃあ、自己紹介の流れかな? そう思い麗華さんの背中から、顔を出す。
「あ、そこにいたの? 気付かなかった」
半笑いで言う、ふわふわのお兄さん。あんだよ、小さいと言いたいのか?
自己紹介なう。年上から順番に行くそうです。私は蛇の名前をつけたいです。まる。
最初は、こげ茶のお兄さんからです。どうぞ!
「薫樹」
わーぱちぱち。
次は麗華さん。
「麗華だよ!」
わーぱちぱち。
次、ジャンケンで勝ったふわふわのお兄さん。
「陽和だよ」
わーぱちぱち。
次、黒いお兄さん。
「冷夜だ」
わーぱちぱち。
次は、私か…。
「美空です」
おっけー。次、蛇の名前な。何にしよう。
「これからどうするの?」
蛇の名前決めるの。いや、決めたの。
おっしゃ聞くか。
「ねぇ」
「シャ?」
蛇に話しかける。あ、喋らんのね。
「名前、決まったけど…」
「キシャッ!」
「水希でどうかな?」
「ピシャッ」
___ありがとうございます!!
「うん、あれ?」
黒かった蛇の目が、青くなっている。
どうかしたのか、と聞こうとした時だった。
シャララ
綺麗な音が聞こえ、私と水希は光に包まれた。
___やっと、本主従になれました…。
誰かの声が聞こえ、光が散った。
「誰だ」
そして目の前には、和服に身を包み、少し濃い水色のロン…髪の長い小さい男の子が立っていた。薫樹さんも髪ちょっと長くて結んでるけど、こんなキザな感じじゃないぞ。チビのくせにキザ。あっ。
見ろ、他の龍もびっくりしてるじゃん。
「心外です。水希ですよ」
本当に? 私の知っている水希は蛇だぞ。
「…最近の超展開にはついていけない」
「無表情で言うことですか?」
黙りたまへ。可愛くない。蛇に戻りやがれ。
「ひどい」
オットコエニデテイタヨウダー。
「じゃあ戻って」
「僕のこと嫌いですか?」
「…蛇の方がいい」
理由、人化可愛いくない。何だよ、いきなり滑舌良くなりやがって。淡々と話しやがって。大人っぽくなりやがって。何て可愛げのないやつだ。チビのくせに。
「今の僕は?」
「…ノーコメント」
何も言うことはない。…いや、あった。
「可愛くない」
「…………」
後ろから、言ってやるなよ、という視線を感じる。可愛くないもんは可愛くない。仕方ない。私ちびっ子好きじゃないし。ショタコンってやつでもないし。
「はぁ…」
水希を名乗る男の子はため息をつき、あっという間に蛇になった。どういうことだってばよ。
…本当に水希じゃん。嘘だろ、あんな可愛げないチビになんのか。人になれるのか。知りたくなかった真実。
「キシャー…」
落ち込んだように鳴く水希。
「可愛い」
「キシャッキシャ!!」
そう言うと、嬉しそうに鳴く水希。単純な奴だ。
…何だったんだろう、あれ。
とりあえず、みんな名前が決まった。
樹龍の薫樹さん。
炎龍の麗華さん。
光龍の陽和さん。
闇龍の冷夜さん。
水龍の美空。
水蛇の水希。
今日から私は前世のことを切り捨て、水龍の美空として生きていく。