2.思い出話と蛇
あの後、落ち着いてからどっと疲れまして、気絶するように寝ました。
仕方ないね、うん。
そして、やってきた朝。鳥のさえずりも何も聞こえない。清々しいほど、静かな朝だ。
そんな今、五人全員で正座中です。…荒地で。もう一度言おう、荒地でだ。
いや、ね?
さっき、この世界についてと、自分達がここにきたルーツについての推測、今の自分達が何者なのか、全部話してもらったんだよ。
…凄かった。いや、もう、凄かった。うん。
これ以外、私には言えない。
ざっと説明すると、
この世界について。この世界には、私たち以外何もいないらしい。植物等も全くない。海は見たことないとの事だが、私はあると思う。勘…というか、水の音が聞こえるんだよね。幻聴かもしれないけど。
次に、ここにきたルーツ。転生的なものではないか、と。ここにいる全員死んだ覚えがあるらしい。もちろん、私もその中の一人。
最後に、今の自分達が何者か。信じがたいが、今の私は龍らしい。しかし、この目で龍だった、朱色のお姉さん、こげ茶のお兄さんを見てしまった。絶対に幻覚ではなかった。それに、自分自身も龍になったからだ。なれるのかな、と思い、なりたいと念じてみたら、本当になった。衝撃体験だったわ。
ちなみに東洋龍でした。やったぜ。
ここは自分達がいた世界とは、違うのだろう。違うと思いたい。
大昔ってこともあるかもしれないが、そう確定するのは無理だ。異世界か何かだろう。きっとそうだ。
転生についても、確定した訳じゃない。ただ単に、死んだという記憶を植え付けられているだけかもしれない。実は、魂だけ憑依とかしちゃってる可能性だってなくはない。考えたくないけど。
とりあえず、今はどうすることもできない。そんな現状だ。
何かみんなと話したいな。
「…………」
「………………」
「…………………………」
…どうしよう。みんな無言だ。何が、話したいな、だよ。無理だろ。
「…………」
気まずい。すごい気まずい。
さっきは、義務的なもので話してたからなぁ…。
同じ現状にいるとはいえ、全員初対面なのだ。仕方ない。
仕方ない、だが気まずい。な、何か話題を…。
…前世微ぼっちだった奴に何やらせんだよ。こんにゃろう。
「…ね、ねぇ?」
声を出すと、全員がこっちを見る。
や、やめろ…!!視線が、視線が痛い!!
「ぜ、前世みん…皆さんどんな人…だった…でしたか…?」
真正面にいる人(龍?)の膝を見ながら、口元を袖で隠しながら、もごもご言う。…癖だよ。悪いか。
やっべ、もっと気まずくしたかも。敬語忘れて変になっちゃったし、やめとくんだった…。
「…口下手なの?」
ふわふわお兄さん…。
ほっとけ、傷を抉るな。
…と、言いたいところだが、ぐうの字も出ない私は俯く。
その通りだよ!こんにゃろう!!悪かったな!!!
「…前世か」
「私、高一女子!!」
「俺は、中二だな。男だ」
黒いお兄さんと朱色のお姉さんが答えてくれる。
「俺は高校二年だ」
「あ、僕も中二。君は?」
全員…年上…だと…?
嘘だろ。いや、嘘だろ?
確かに、みんな私より大きいけど、大きいけど!!
「…小六。女」
「「「「……………」」」」
全員、マジかよって顔してる。
「ど、どうしました?」
「いや、小学生にしては静かだなぁ、と…」
笑いを堪えながら言う、ふわふわのお兄さん。
「冷静だしね」
「こんな状況なのにな」
「もっと慌てそうだが…」
なるほど、言いたいことはわかった。
だがな…?
「…私みたいな小学生なんてたっくさんいますよ」
…多分。
それにさ、私のこと冷静とか言ってるけど、十分に全員冷静だと思うの。
「そうかなぁ…?」
「さすがに、たくさんはいないんじゃないか?」
んー、たくさんはいないかもね。
でも、世界中探せば、自分にそっくりな奴くらい見つかるよ。多分。
「それでそいつがさぁ…」
「くっ…もう、もうやめて…」
「ぶっふ!!」
「ははは」
みんな笑ってる、打ち解けられてきたね。良かった良かった。
今、前世の思い出話してるんだ。
_______「それでさぁ…」
_______「あはははは!」
_______「笑いすぎ、だい…じょ…ぶふっ」
_______「お前もじゃん!!」
_______「「「…あははは!!」
「…ふふっ」
何となく、あの時の光景と重なり、笑いが溢れる。
しばらく笑っていると、誰かに頭を撫でられた。
手の持ち主の方を見ると、こげ茶のお兄さんが目を細めて微笑んでいた。
それが、何だか無性に嬉しかった。
撫でられながら、気になってたことを聞く。
「ねぇ、私達ってさ、何か特殊能力とかってあるの?」
むっちゃ気になる。すごい気になる。スーパー気になる。
「あぁ、どうだろうな…」
んー、まだわかってないのかぁ…。ちょっとがっかり。
気になったのか、話していた三人がこっちを向いた。
「あったらいいなぁ」
「だねー」
だよね〜。
と、会話に混ざる、脳内で。
……………。
「___」
アクアは水、サーペントは蛇という意味…だったと思う。
何となく、繋げてみた。
ボソッと言ったのに、黒いお兄さんには聞こえたらしく、どうした?と言うようにこっちを見ている。
…誤魔化そうと思い、口を開いた瞬間。
「キシャッ」
何かの声が、頭上で聞こえた。
「キャァァァァァァ!!」
朱色のお姉さんの叫び声。
「「っ!?」」
「………」
黒いお兄さんとふわふわのお兄さんの息を飲む音。
私の上を見上げ、口を開けたまま放心する、こげ茶のお兄さん。
そして…。
「はぐっ」
「ふぇい!?」
ズシャッ
私が何かに噛まれる…いや、食われ、倒れる音。
情けない声を出してるのは私だ。目の前真っ暗なんですがそれは。しかもなんかあったかい。
「キシャッキシャッー!」
真っ暗な世界から解放されたと思ったら、目の前は蛇の顔でいっぱい。
「キシャッ!」
かわいい。めっちゃかわいい。かわいすぎる。
…だが、どんなに相手が可愛くても、こんな状況で冷静でいられる訳ない。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
静かな荒地に、巨大蛇にびっくりした私の情けない叫び声が響き渡った。
________パシンッ
放心してるふわふわのお兄さんに猫騙しする。
「はっ…」
「おかえり」
「う、うん?ただいま?」
帰ってきたふわふわのお兄さんと、よくわからない会話をする。
ちなみにこれ、三回目。
一回目が黒いお兄さん。二回目がこげ茶のお兄さんだ。
こげ茶のお兄さんには、黒いお兄さんが猫騙ししてくれた。…理由?聞くなよ。
最後は半発狂してる、朱色のお姉さんだ。
…どうすんだ、あれ。
定期的に叫んでるぞ。
蛇、嫌いなのかな。絶対、蛇見て発狂したよね。
あ、蛇は私の肩にいます。
さっきまで、すごい大きかったんだけどね、小さくなんないかなぁって思ったら、小さくなりました。
めちゃくちゃかわいいです。
綺麗な水色の鱗に、黒いつぶらな目。たまらん。かわいい。
じっと見ていると、不思議そうに首をかしげる蛇。
まさに、殺人級の可愛さ。
何コレ、可愛すぎか。
発狂してる朱色のお姉さんをよそに、蛇を愛でる。
「キュウキュッ」
「っ!」
甘えたように、ほっぺ(?)スリスリをしてくる蛇。
思わず、両手で顔を覆った。
…くっそ、クッソかわいい。
「…はっ」
「おかえり」
「う、うん?…うおっ」
四回目のこの会話。
「ねぇ、あの子もしかして、僕達全員にあんなこと言ってるの?」
「…あぁ」
なんか聞こえたけど気にしない。
「み、水色ちゃん。そ、その蛇…」
「?」
水色ちゃんって何だよ。多分私のことだから、返事しとくけど。
ちゃんと名前が…。
「名前」
「へ?」
「この子の名前!決める!!」
そうと決まったらさっそく考えよう!!
何がいいかなぁ…。