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鳥籠の冒険譚  作者: ゆめすむ堂よっし
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修練と反乱の芽

「魔術に向いているだって……。僕が?」


 深海はよくわからないというふうに首を振った。深海はごくごく一般的な家庭の平凡な高校生だ。自分が何故そんなものに向いているのか、さっぱりわからなかった。そんな深海の気持ちを察して、桜は何故、深海が魔術に向いているのか説明してくれた。


「魔術を使う時って、かなりの集中力が必要なの。呪文を詠唱してから発動までの間、心技体が一致した状態を保たなければいけないから。技と体については簡単な魔術ならそれほど気にする必要はないわ。法具なんかでサポートすることもできるしね。だけど、心だけは元々の気質に大きく左右されやすい。例えば、せっかちな人に、いきなり心を落ち着かせろと言っても、すぐにそれをこなすのは難しいでしょ?」


 桜は一呼吸おいて、深海の思考が追いつくのを待った。


「そこであなたの性格が生きてくるの。自分で言うのもなんだけど、私がここに来てから、優一君の身に様々な出来事が起こったわ。しかも、優一君にとっては、常識の範囲を超えたような出来事が次々とね。なのに、あなたはそれらのことで取り乱したり、混乱したり、怒ったりせず、すべてすんなりと受け入れてしまった。普通こうはいかないと思う。それはもう、才能と呼んでも差し支えないと思うわ」


 確かに深海は昔から物分かりの良い子だとは言われてきた。深海は基本的に、何かが起こってしまったのなら、次に自分がどうすればいいかを考えるタイプだからだ。起こってしまったことを認めなかったり、目を逸らしたりしても、そこから何ら建設的な結果は生まれない、というのが深海の考え方だった。


「染み付いた癖みたいなものだよ。でも僕の経験則ではその方が何かと便利だった。今だって、どうやらそのおかげで出が打てそうだしね」


 桜は自分が思いを寄せていた相手の意外な一面に驚いていたが、しかし、今は悠長にやっている時間は無かった。深海に一刻も早く身を守るすべを教えなくてはならない。


「急かして申し訳ないけど、とりあえず、身を守るための簡単な術からやりましょう」



 一通り桜による魔術のレクチャーが終わった。教えられたのは術は二つだけだった。桜からは指揮棒のようなものを渡された。


「これは呪文を唱える際の杖よ。あなたの魔力をこの杖が勝手に集めてくれる。あなたは杖の先に気持ちを集中させて呪文を詠唱すればいいわ」


「僕に魔力なんてあるのかい?」


「魔力は人間誰しも持っているの。人間の生命エネルギーそのものね。中国では氣というふうに呼ばれてたりするわ。普通の人間はそれを自分の意志で操ることはできないけど、杖はその補助をしてくれる」


 深海は渡された杖を構えてみた。教えられた通り、杖の先に気持ちを集中させて、呪文を詠唱する。一瞬、杖の先がぼうっと光った。


「今のが空っぽの影(invisible shadow)という術よ。ほんの数分だけど、あなたの気配を完全に経ってくれるわ。相手から逃げる時に使える。ただし、気配が消えるだけだから、あなた自身が相手から既に視認されていたら全くの無意味よ。注意してね」


 思った以上にすんなり魔術が使えたことに深海は驚いた。


「次の術はもう少し難しい。物を浮かせて移動させる術。優一君の技術じゃ、自分の体より小さい物くらいしか動かせないと思うけど、とにかくやってみて」


 深海は目の前にあったテレビに杖を向けて詠唱してみた。また杖がぼうっと光る。するとテレビは重力を失ったようにふわりと浮かび上がる。


「そのまま、気持ちの集中を途切れさせないで移動させたい場所を意識するのよ。集中が途切れた瞬間、動かしている物はそこに落下しちゃうから気を付けて」


 深海はテレビを机の上からベッドの上へ動かすよう、強く意識を集中した。テレビは音もなくすーっと空中を浮遊し、ベッドの上にすとんと乗った。


「上手いわ。これは幽霊の悪戯(work of Haunting)という術。この術なら汎用性が高いから、いろんなことに使えるわ」


 それから深海は、部屋にあるいろんな物に術をかけてみた。本を浮かせてみたり、クッションを浮かせてみたりしているうちに、だんだんコツのようなものを掴んでいった。小さい物ほど簡単で、大きい物、重い物ほど、集中力を要するようだ。


 深海は黙々と練習しながら、頭の隅で別のことを考え始めていた。魔術のことを桜から少しずつ教わり、ある程度理屈がわかってくれば、桜の結界から自分の力で脱出する方法もわかるかもしれない。深海は確かに物分かりの良い性格だったが、誰かの都合に合わせ続けるのは好きではなかった。そう、深海は自分の中で、桜の結界脱出を諦めたわけではなかったのだ。



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