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鳥籠の冒険譚  作者: ゆめすむ堂よっし
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鳥籠にさよなら

 深海はしばらく自分の寝床となっていた客間を見渡した。自分の荷物は既に鞄に詰められ、部屋も綺麗に片付けられている。机の上には桜に宛てた手紙を置いておいた。今頃、桜は部屋で落ち込んでいることだろう。しかし、深海に迷いは無かった。


(そろそろ行くかな)


 深海は部屋を出た。パッツォの開けた結界の穴の方角は、既に頭に叩き込んである。例の眼鏡だけは持っていく。細かい穴の位置は、これがなければ見つけることができないからだ。深海は一度も振り返ることなく、神崎家の館を後にした。



 桜はベットに突っ伏し、枕に顔を埋めていた。まさかパッツォにまで、あんな風に言われるとは思ってもみなかったからだ。どうしてみんな私のことを受け入れてくれないのか。どうして私ばかりこんな目に合うのか。桜の頭の中では、同じ言葉がループし、桜の思考を占拠するのだった。


 しばらくの間、終わることのない自問自答を繰り返しているうちに、桜はだんだん息苦しくなってきた。外の空気が吸いたい。そう思い、部屋の窓を開け放つと、ちょうどその時、門を抜けて去っていく深海の後ろ姿が桜の目に飛び込んだ。桜は悲しさのあまり、小さくなっていく深海の背中をただ呆然と眺めることしかできない。


 結局、自分が好きになった男も、私の元を去っていく。初めて私のことをちゃんと見てくれる人が現れたと思ったのに。桜の眼には、世界がグニャグニャに曲がっていくように見えた。救いも希望もない。気が付くと桜の頬は濡れていた。冷たく頬を濡らすそれは、拭っても拭っても、あとからあとから溢れてきた。もう深海を止めに行こうという気力さえ湧かない。私は誰にも愛されない。世界が真っ黒な雲に包まれて、それが肺に入り込み、血を侵食し、ゆっくりと自分を殺していっているように桜は感じた。もう自分には何も残されていない。桜は床にへたり込み、天井を見上げることしかできなかった。



 深海は結界の出口へ向かい歩いた。大規模な結界とはいえ、所詮は街一つ分でしかない。高校生の足なら、歩いても十分に脱出可能な距離だ。自分がいなくなったことに桜はもう気付いただろうか。桜は相当ショックを受けるだろう。でも仕方がない、と深海は思った。


(悪いけど、君のさみしさを紛らわす為のぬいぐるみになる気は、僕には無いんだ)


 休むことなく歩き続けたおかげで、3時間程で目的の場所に着いた。例の眼鏡をかけてみると、魔力が可視化されてカーテンのように薄い膜となって視える。そしてパッツォの作り出したトンネルだけが裂けめのようになって膜がかかっていない。


(いよいよ鳥籠の世界ともお別れだな)


 深海は裂けめに足を踏み入れた。問題なく通れる。


「またね、桜」


 深海は一人呟き、結界の外に出て行った。鳥籠の中には桜だけが、一人残されたのだった。

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