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悪魔気取りの夢を叶えるゴリラ  作者: 五臓六腑二四三渡
第1章 始まりの教会
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6話 真実?

「おおっ!?俺様が誰かとわかっての子の狼藉なんだろうな!?いいかよく聞け!俺様はな!―――」


 兜がその場で跳ね、大声でわめいている。

 しかしこれは困った、とジェフは腕を組む。

 からくりが分かったので何となく勢いで兜を叩き付けてみたが、こうも叫ばれしまっては、他の者が来てしまう。

 そんなことを考えていると、アデルが懐から、何か粉の入った袋を取り出した。

 そしてそれを、兜に向かって投げつける。それにより黄色い粉が舞った。


「なっ!?こんちくしょうめ……くそったれ……くそが……」


 粉を浴びた兜は次第に力を失い始め、やがて静かになった。

 耳を済ませてみると、防音処理のされた部屋のおかげで、外まで声はあまり響かなかったようで、気づかれた様子はない。


「それは?」


 と、ジェフは散らかった粉に向かって指をさして言った。


「即効性の睡眠薬です」アデルは無表情で言う「副作用等はないです」

「そういうのがあるということは、予め言っておいてほしかったんだが」

「あなたと同様、私はあなたを完璧には信用していないので」

「成程」


 ジェフは頷いた。

 アデルは鎧の方向を向いて言う。


「『動く鎧』だったんですね。気が付きませんでした」

「俺もだ。戦争の時に戦ったことがあったのが役に立ったな」

迷宮ダンジョンにいる様なモンスターなんで、わたしも数回しか見たことがなかったです」

「それ差別用語」


 取りあえずジェフは指摘をする。


「しかし、バラバラになっても鎧と兜が連動しているみたいですけど、どういう仕組み何でしょうか」

「デュラハンと同じなんじゃあないのか。さて」


 改めて、ジェフはマルヴィナの方を向いた。


「詳しい話をしてくれるか?」


彼女は頷いた。その顔はどこかほっとしているようにも見えた。


 ◇ ◇ ◇


「この教会の神父様は、愛ゆえに狂ってしまわれました。詳しい話は知りませんが、何でも昔馬と恋に落ち、離れ離れになり、そして悲しみの底に落ちてしまわれたのです。噂ではその馬の方は亡くなられたとか。

 そしてその事実を受け止めきれなくなり、自分とその馬が結ばれる話を作り上げ、物語の世界に逃げだそうとしました。初めは小説を書くぐらいでしたが、次第にそれでは我慢できなくなり、こうして自分だけの劇場を作り上げるまでに至ったのです。資金は本部教会から着服したり、貧しいものや、裕福な物を騙して手に入れたものでした。肝心の動物たちが話すことのできない者達なのは、この国には連れてこれないという理由もありますが、やはりこの行為がどこか、昔愛した馬の裏切りでもあると自覚をしていたのではないのでしょうか。喋れない馬なので、裏切りにはならないと自分を騙して。


 そして動物の声を当てる者には、より完璧さを求めました。むしろ自分が馬や牛であると暗示をかけるぐらいではないといけない、そう神父様はおっしゃっていました。

 そこの(と、マルヴィナは兜を指さした)鎧の人は、私の監視も含めているのですが、それと同時に一日中わたし達の耳元で囁くくのです。お前は牛だと。私はまだ、声の担当になって日が浅いので、そこまでではないのですが、ベテランの方などは、自分が人間でないと信じているぐらいです。私は本当はこんなことはやりたくなかったのですが、妹が病気のため、その薬代のため、やむなくこの仕事をやっています。

 この劇場にかかわる人は大抵神父様に弱みを握られたり、借りがあったりしています。


 コーラ先輩はラバの声の担当をしていました。そのラバは差別主義者なので絶対に人間は愛せないという性格の設定でしたね。そして彼女もまた、、教会に通う少女のためにこの仕事をしていたのです。来る日も来る日もコーラ先輩は卑猥な言葉を話し続けました。私ですか?私は役柄的にそこまでではないです。

 しかし、ある日、その少女は病気で死んでしまいました。

 しかしコーラ先輩は教会を止めるようなことはしませんでした。その理由はわかりません。

 私が話せるのはこれぐらいです。どうか、コーラ先輩を助けてあげてください。お願いします」


 ◇ ◇ ◇


 ジェフとアデルは黙ってマルヴィナの話が終わるのを黙って待っていた。

 そして話が終わり、事の歪さに大きく首を傾けた。


「まあ……、まあ……神父が何でその流れでこうなったという理由は置いておこうか。コーラの話だ。コーラの話をしようか。

 コーラは役作りのせいで、自分が人間が嫌いと思いこむようになっていた。しかし、昨日俺が話していた時のあいつの様子を見る限り、自分がコーラ・クラシアであるということは忘れていない。しかし」


 そこでジェフは一旦言葉を詰まらせた。


「好きな奴が人間では我慢できないくらいには、役に入りこんでいた。精神的に参っていたと言ってもいい。そして折角だし自分が一番好きな動物になってほしいと思い、俺をゴリラにした」


 アデルは首をを傾げながらもうなずいた。


「その答えは苦しいですね。しかし、今の情報から判断すると、それが一番妥当ですね」


 ジェフは下を見て言う。


「俺が去勢されている状態な理由は?」

「毎日卑猥な言葉ばかり言っていて、それ関係のことが嫌になっていったとかですかね?」

「成程……成程?」

 

 アデルの言葉に、ジェフは一応は納得した。

 本当は納得はできないが、今は納得することにした。


「あの」マルヴィナは言った「あなたがジェフさんなんですか?よくコーラ先輩から話は聞いていたんですが、でも人間だと思ってましたけど……」

「人間だったが、コーラにゴリラに変えられたんですよ」


 マルヴィナは、何を言っているんだこいつ、とでも言いたげな表情になった。


「まあそれはどうでもいいですが」とアデルは口を挟んだ「これからどうするんですか、ジェフ・ターバル」

「そうだな、出来ればこの事実を告発したいが」


 ジェフはマルヴィナに目をやった。

 それによってマルヴィナは言わんとしていることを理解する。


「ああ、私は大丈夫です。確かに妹の薬代を稼げないのは辛いですが、それは巡り巡って貧しい人のお金ですし……今日まで迷っていたんですが、今回の件で吹っ切れました。ただ、神父様は裏社会でもお重要な地位にいるので、容易な告発ではもみ消されてしまう可能性は高いと思います」

「王女様に頼めば、お力添えをしていただけたかもしれんが、この姿じゃなあ。ああそうだ、その神父一人が自分のやってきたことを反省し、自分からやってきたことを大々的に発表すれば解決するか?」


 マルヴィナは一瞬固まった。しかし、すぐに口を開く。


「そう、ですね。反省したというのなら、本部からの処分も甘んじて受けるってことになるでしょうし。でも一体どうやって?」

「決まっている、説得するんだよ」


 ジェフは笑った。

 しかし、ゴリラの笑顔はマルヴィナには刺激が少し強かったようで、彼女は顔をひきつらせる結果となった。


 ◇ ◇ ◇


 劇場の中央部の扉を開け中に入る。

 その劇場に入った時ジェフが感じたのは、思ったより大きくないな、というのものであった。

 見てくれは豪華であるが、前世に彼が通っていた小学校の体育館を思い起こさせる広さで、地下にあるのならこれぐらいだろう、と言った感じであった。

 段差になっていたり、椅子があったりはせず、平らな床に、レリーフが描かれていた。

 そして、まるで観客の代わりだとばかりに、直立不動の鎧が、あちらこちらに点在していた。

 両側には彫刻で飾られたボックス席が並んでいるが、誰もいない。

 そして壇上には、今の今まで劇を演じていた俳優たちが、突然入ってきた乱入者を睨めつけていた。


「ああ、一応劇が終わるまで待ってもいいが、出来れば今この場で話がしたい」


 ジェフは俳優たちに向かって、片手をあげていった。

 俳優のほとんどは、戸惑っている、といった表情だったが、一人だけ怒っている中年の男がいた。

 あれが神父だろうと、ジェフは目星を付ける。


「貴様!神聖なる劇を侮辱する気か!それに、トークマンがなぜこの国にいる!」


 トークマンは魔界領における、人間以外の第二種言語的存在の俗称であった。

 ただし人間でも、ある一定以上の年齢の者も希に使う言葉でもある。

 元々は人間が使っていた言葉だが、時間の流れでそれ以外の者の方が使うことが多くなった俗称だったかな、とジェフは親衛隊の先輩の言葉を思い出す。

 そしてそれを言うなら鎧たちはどうなんだと言いたくなった。

 ジェフは鎧の隙間を通り、壇上へ近づいていった。


「実を言うと、この劇を止めてほしいんだ。というか、自分のやってきたことを発表し、監獄に入ってほしい」


 神父もまた団から降りて、ジェフに向かって近づいてくる。


「何だと?意味の分からないことを言うな」

「一応聞いておくが、貧しいものや裕福な物から、金を騙し取っているというのは本当か?昔の恋人との関係を劇にして、少女たちに卑猥な言葉を無理やり話させているというのも?」

「卑猥な言葉などではない!私と彼女の関係を、再現した神聖な言葉だ!」

「認めるんだな?」

「ああ、だがお前はここで死ぬがな!かかれ!」


 神父の掛け声と同時に、劇場中の鎧が一斉にジェフの方を向いた。

 すべてが、『動く鎧』のようだ。


「実力行使か」ジェフは辺りを見回した「それも分かりやすくていいな」


 まず様子見とばかり一帯の鎧が、槍を持ってジェフに遅いかかる。

 ジェフは槍を蹴り上げ、素早く鎧の懐に潜りこみ、殴り飛ばした。

 鎧は金属音を立て、その場に散らばった。これで死んだわけではない。

 ジェフは殴った手を振りつつ、槍を拾いながら言う。


「軽いな。やはり中に何も入っていないと、吹き飛ばしやすい」

「何をやっている!一斉にかかれ!」


 神父の声により、一斉に鎧が、ジェフに向かって遅いかかった。

 さすがに、この量を相手するのは骨が折れると考え、ジェフは鎧の数が少ない方向に向かって駆け抜る。一体の動く鎧を踏み台にし、ボックス席にに飛び乗り、劇場の外へ脱出した。


「逃がすな!回りこんで追え!」


 そんな声が聞こえてきた。重い鎧ではボックス席まで上がることはできないようだ。

 ジェフは通路を通り、劇場の入口から出てきた鎧たちに向かって飛び蹴りをくらわした。

 そしてまた反対側に向かって逃げる。

 それを鎧たちは追いかけた。


「まさか馬鹿正直に追いかけてくるとは思わなかったぞ」


 狭い場所で覆人数で戦うのは、本来動く鎧たちの得意としている戦法のはずだ。

 それが逆になっただけでこれでは指揮官があまり良くないのだろう。

 追いかけてくる鎧に向かって、ジェフは振り返り、タックルの容量で、まとめて吹き飛ばした。

 兜が飛び、籠手が飛び散る。これを元通りに直すのは大変だろうなと、他人事ながらジェフは思った。


「引け!引くんだ!広い場所で戦え!」


 今更気づいた指揮官と思われる鎧が叫んだ。

 その命令通り、鎧たちは劇場へ戻っていく。

 体力を回復させるため、ジェフは3秒だけ待機した。

 盾が落ちていたため、両手で持つ。

 そしてボックス席の入口に向かった。

 ボックス席からは劇場内を見渡せる。そして一番鎧たちが密集している場所へ、ジェフは飛び降りた。

 数体が踏みつぶされる。そして、予測できたこととはいえ、奇襲により、鎧たちの陣形は乱れた。

 あとは、ゴリラ特有の跳躍力、腕力、リーチにより、鎧たちは翻弄されていく。

 ゴリラが盾で殴れば、兜が飛んだ。ゴリラが、引っぱれば、籠手が外れた。

 動く鎧は意思を持った生物である。無機質な兵隊ではない。

 通路や、ボックス席、劇場を飛び回るゴリラを追いかけるにつれ、減っていく仲間たちに、生きた鎧の士気が落ち始める。

 そして鎧の数が十分の一ほどになった所で神父は言った。


「もういい!治れ」


 残った鎧たちが、一斉に動かなくなる。

 ジェフは神父の顔をを見た。

 失望と、いら立ちと、焦りが交じった表情をしていた。

 しかしジェフの方も、かなりの息切れをしている。

 少し疲れた、といった程度の表情になるように、ジェフは神父に向かって言った。


「攻撃を止めさせた、ということは、自首する気になったのか?」

「ほざけ」

「そもそも何で話すことの出来る鎧が、この国の真ん中に、こんなにいるんだ」


 一秒でも長く休める様に時間稼ぎのために、質問をした。

 まだ神父は奥の手を持っている可能性がある。


「ふん、彼らはもともとここにいた者達だ。そして、金や物で雇った。そして、この劇場は迷宮ダンジョンを改造して作ったものだ」

「へえ」


 迷宮ダンジョンとは生きた建造物で、何の前触れもなく地下などに出現するものだった。迷宮がどこから来たかは誰も知らず、天災のような扱いをされていた。それと同時に、中には金銀財宝があることが多く、挑み来る冒険者も少なくはない。無論宝を守る動物や、罠も内部にはたくさんある。

 しかしそんな迷宮内の動物の中にも、自我を持った者もいる。そして彼らが結果的に外に出て平和に暮らす、という例もかなりあった。迷宮内の話すことの出来ない動物たちは問答無用で襲ってくるが。

 ただ迷宮についての法律は複雑なので、ここで反すには、紙量が少なすぎる。


「時間稼ぎは済んだか?」


 神父は、ジェフに向かって笑いながら言った。


「この状況でその言葉が言えるのか?こちらのセリフでは?」


 ジェフも負けじと笑い返す。


「そうだな……」


 しかし神父は一言呟くと共に、その場に座り込んでしまった。

 そして腕を組み、胡坐をかいた。


 ◇ ◇ ◇


「なんだ?観念したのか?」


 動こうとしない神父に向かってジェフは訝し気な顔で言った。

 警戒はまだ解いていない。


「今はな。さあ野蛮な獣よ。好きにするがいい。劇場を壊してしまうか?私をを殴って止めるよう脅すか?

 だが私は殴られようが、檻に入ろうが、何度でも戻っ来て同じことをやる。

 こうやって何度も私はオリアーナと物語の中で出会えるのだ」


 オリアーナというのは馬の名前だろう。

 

「俺は別に不殺主義って訳ではないが」


 ジェフは、神父の目の前に立った。


「私を殺すのか」神父の目には少し怯えが見える「それもいいだろう。そうすればオリアーナと会える」

「もう自分も騙せてねえじぇねえか。ただ意地を張ってるだけだろ」

「何とでも言え」


 ジェフは大きな片腕で、神父を抱え上げた。


「私を絞め殺すのか?」

「いや、やるのデートにつき合ってもらう」


 ジェフは、神父を掴んだまま、劇場を後にした。

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