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悪魔気取りの夢を叶えるゴリラ  作者: 五臓六腑二四三渡
第1章 始まりの教会
6/8

5話 侵入

 聖獅子教という宗教がある。

 大帝をあがめ、その代弁者であるライオンがシンボルの教えである。

 そして、この国で一番大きい宗教である。

 言葉を話すことが出来る生物を第二種言語的存在。言葉を話すことが出来ない生物を第一種言語的存在と政府が指定しているのだが、人間以外の前者の侵入をこの国は禁止しているため、話すことが出来るライオンを崇めている宗教である聖獅子教は、複雑な立ち位置にあり、王室との対立状態にあった。

 無論それだけが理由ではないのだが。

 王室との対立とは別に、教団内自体が腐敗していることも事実であり、ジェフ事態もコーラが教会で働くと聞いたときは不安に思ったものであった。

 そんな聖獅子教の教会がジェフの足の下に今あった。

 つまり今ジェフは屋根の上にいる。

 赤い瓦で覆われた屋根で、目の前に鐘を鳴らすための塔があった。

 教会の形自体は、十字架こそないものの、地球のキリスト教の教会とそこまで大きな差はなかった。

 そんなジェフの耳に猫の泣き声が届いた。

 アデルである。

 黒猫が、浮遊しながらこちらへ向かってきたのだ。


「鍵は内側から開けました。いつでも侵入できます」

「ならば、早速行こう。ただし危険だと判断したら、深入りはし過ぎないように」


 裏口から礼拝堂に入る。

 中は静まり返っており、月灯りがステンドグラスを通して中を照らしていた。

 今は暗くて見えないが、天井には、獅子とライオンが戦っている姿が描かれたレリーフが描かれているはずだった。

 そして礼拝堂の奥に当たる位置に横たわった獅子の像がある。


「この像の下に隠し階段があります」

「本当かよ」

「熱心な信者だったら恐れ多くて、強く押したりはしませんからね」

「君はどうなんだ?」

「そこそこですかね」


 そんなやり取りをしながら、ジェフは像を押そうとする。

 しかしながら思ったより大きな音が出そうだったので、アデルが浮かせてどかすことになった。


「しかし」ジェフは疑問に思ったことを口にした。「かなり重そうだが、ここの奴はどうやって地下室に入ってたんだ?」

「鎧を着た大きな人が押していましたね」


 象の周りには赤い絨毯が敷かれており、一部だけ外せるようになっていた。恐らくその下に、像を引きずった後なり何なりがあるのだろう。

 階段からは、冷たい風が吹いていたが、遠くに申し訳け程度の光があるだけで、ほぼ真っ暗で中の様子を伺うことは難しかった。

 ランタンは用意しているものの、一本道であった場合は見つかる可能性が高くなる。

 というわけで夜目が効くアデルがジェフの頭に乗り、空中浮遊しながら進むということになった。

 中に入り像を元の場所に戻し、進む。

 黒猫を乗せたゴリラが、身じろぎせず浮遊して移動している姿は、はたから見ればさぞや滑稽だろう。


 ◇ ◇ ◇


 地下は入り組んだ迷路のようになっていた。

 床、天井、壁共に土壁で覆われており、所々に明かり用の蝋燭が見える。

 たまにシスターや、鎧を着た人を見かけたが、曲がり角や天井に身を潜めて何とかやり過ごした。


「また今日もやるみたいだな、あれ」

「まったく神父様の変態趣味には困ったもんだ」

「し、誰かに聞かれたらどうするんだ」

「しかしなあ、ククク」


 所々見習い騎士たちが、何か話していた。

 そして奥に進むにつれ、何か大きい声が聞こえてきた。

 うめき声などの不明瞭な物などではなく、はっきりと誰かと誰かが話し合っている大声だ。

 そしてその声をたどっていくと、大きな木の扉が並んでいる場所があった。


『声は中から聞こえるな』ジェフは声を潜めていった。

『それにこの扉の向こうは、かなり大きな空間が広がっていますね』アデルは耳を顰めそれに習う。

『流石にこの扉を開けるのは見つかる可能性が高くなるな』

『というかこの喋り方は……』


 辺りを確認した後、扉に耳をつけ仲の様子を確認する。


『おお、!親愛なる神父様!どうして私はあなたをこんなにも愛しているというのに、結ばれないのでしょうか!』

『ああ!愛しのオリアーナ!私とお前の間にはこんなにも大きな所属間の隔たりがある!そして私は神に使える身!お前を愛することはできない』

『憎い!神父様と愛せない世界を作った神様が憎い!』

『オリアーナ!私の前でそんなことを言わないでおくれ!』


 扉の向こうっから聞こえてくる、よく響く声に、ジェフとアデルは顔を見合わせた。


『これは……中で劇の練習をやっているのか……?』

『いいえ、声の響き方から予想して、練習で泣く本番の劇をやっているみたいですね。曲がり角と、声の響きから予想して、中規模の劇場がこの扉の中に広がってているはずです』

『一体何でこんな場所で……』


 そこで、遠くから人が来る気配がした。


『あ』とアデルは言った『これはまずいですね』

『……まさか挟み撃ちの形になってるのか?』

『その通りです。一応左に行けば、距離的に少し時間を稼げますが』


 そう言いながら、アデルはジェフの頭の上に乗り、扉から左に向かい、角を曲がった。

 しかし、両側からの足音は止まることはなかった。

 流石にジェフの顔に焦りが見え始めた。


『これはまずいな……もういっそ強行突破をしようか』

『だから脳筋って言われるんですよ』

『しかし、どうせこの姿でこの国にいること自体が犯罪なんだし、少し相手が怪我するだけだろう』

『もう少し頭を使ってください。例えば後ろの扉に入るとか』


 アデルの言葉に、ジェフは劇場があると思われる反対側にある扉を向いた。


『人の気配がするぞ』

『二人までなら一瞬で制圧できるでしょう』

『結局脳筋じゃないか』


 しかし、そうしている間にも足音と、光は近くなってきた。

 ええい、ままよとジェフは扉を開いて中に入る。ジェフの大きさから言ってぎりぎりの扉であった。


 ◇ ◇ ◇


 中に入った瞬間、四つの視線がジェフたちをとらえた。

 部屋全体が石で覆われており、そして中央にテーブルがある。

 そのテーブルを囲むように四人の人物が座っており、一斉に部屋に入ってきたジェフ達を見た。

 その四人ともコーラが着ていたのと同じ鎧を着ており、皆小柄であり、そしてよく見れば、全員が女性であることがわかった。

 四人ではないか、もうだめだ、ならばいっそ外に出て強行突破をしようか、と思い振り返ろうととしたところで、鎧の女の一人が、話しかけてきた。


「あの、役者の人ですか?」


 その一言で、ジェフの体が固まり、ない頭脳をフル回転させた。

 一秒固まった後、ジェフは言った。


「そうだとも。君らはえーと。確か」

「声の担当をしている者です」


 答えた赤髪の少女以外は、すぐに興味を無くしたととでもいう風に手元の本を読み始めた。

 皆どこか虚ろな目をしており、心ここにあらずといった風貌だった。

 ジェフは慎重に言頭の中で言葉を選ぶ。


「うむ、聞いているよ」


 鎧の少女は立ち上がり、ジェフの前に立ち、興味深そうにジェフの体を見ながら手を前に出した。


「わあ、人間以外の第二種の方も及びする可能性があるとは聞いてましたが……それにゴリラって実在したんですね」

「そうだな」


 大きさの違う手で握手をした後、ジェフは助けを求める様に肩に乗っているアデルに目を向得たが、素知らぬ顔であった。

 しかし、この国の中で人間以外の話をする動物にあって驚かない人物がいるという事態は異常であった。 整理的に嫌っているという者もいれば、分かり合える思っている者もいる。しかし国が侵入を禁止しているため、出会ったら普通は叫び声をあげる。

 

「それで何か御用でしょうか?」


 はきはきと答えているが、赤毛の少女もまた、目が虚ろであった。

 まるで数日寝ていないかのように、隈が出来ている。


「名前はなんて言う?」

「マルヴィナ、と言います」

「ジェフだ」アデルが反応した。本名を言ったことを咎めているのだろう「マルヴィナ。実を言うと劇のことで重大な話がある。二人きりで話したいのだがいいかな?」

「え、でももうすぐ出番なのですけど……」


 ジェフの皮膚からから汗が一気に噴き出した。

 手が震えそうになるのを慌てて耐える。


「いや、本当に緊急事態で、極秘の話なんだ。しかしすぐに終わる。場所を変えようか」

「でも……」

「君の家族にかかわることでもある」

「まさかっ、妹に何か!」


 ジェフは心の中で指を鳴らした。


「そうだとも。だから一刻も早く話す必要がある。相手要る部屋はあるかのかい?」

「確か隣の部屋が開いていたと思います。でもまさか妹が……」


 説得に手ごたえを感じ、外に誰もいないことを気配を調べ確認したのち、部屋を後にした。

 肩で黒猫が笑いをこらえている気がした。


 ◇ ◇ ◇


 その部屋は隣と同じような作りをしていた。

 違うことと言えば、鎧が一体立てかけてあるぐらいか。

 ジェフはそこで、壁が音を吸収する素材でできていることに気が付いた。


「それで、妹の身に一体何か」


 マルヴィナは部屋に入るな理想切り出した。

 そんな彼女の目を見ながら、肩に向かってジェフは言う。


「アデル頼む」


 しかし何も起こらなかった。


「アデル……って誰ですか?」


マルヴィナは訝し気仲を押して首を傾げる。

 今度は声を潜めてジェフは言った。


『頼む……』

『何故わたしが?』

『俺がやると体格差から必要以上に恐怖を得てしまうだろ』

『わたし、人間の状態嫌いなんですよね』


 そう言いながらもアデルは、ジェフの肩から飛び降り、女の姿に変わる。

 驚くマルヴィナに叫び声を出させる間もなく、アデルは彼女の後ろに回り、口を素早くふさいだ。

 マルヴィナは暴れ出し、うめき声を上げたが、アデルはしっかりと拘束をしている。


「怖がらせて済まない」ジェフ手を広げ詫びを入れた。「しかしある人を助けるためにやっているんだ。協力をしてくれたらすぐにでも解放しよう。場合によっては何かをあげることが出来るかもしれない。」

「むーむー」


 マルヴィナは落ち着く様子はない。首を振り、涙もわずかに浮かべていた。

 ジェフは鞄に入っていた果実を取り出した。ごつごつとして堅い皮に覆われており、地球で言えば南瓜に近い形をしている。

 そしてジェフはそれを手の握力で砕いて見せた。

 マルヴィナがしゃっくりをする。

 彼女の目には怯えが増したが、少し大人しくなったようだ。

 アデルはそんなジェフを大道芸をする猿を見る目で見ていた。

 ジェフはとりあえず、マルヴィナの持っていた本を取り上げ、読んで見ることにした。

 予想通り、劇の台本のようだ。

 劇のあらすじは、聖職者を志す青年と、話をすることが出来る馬が出会い、互いに愛し合うといった内容の者だった。よくあるありがちな内容だ。

 前の前の戦争が始まるまでは、人間も動物も同じ場所で住んでいたため、こう言った事柄は実際に多くあったとジェフは聞いていた。

 しかし、パラパラとある程度ページを進めた所で、ジェフの手が止まった。


「おい」とジェフはマルヴィナに呼びかけた。「これ、ベッドシーンがやけに細かいな。実際にやっているようにしか読めないが」


 マルヴィナは初めは戸惑うような顔をした。しかし粉々になった果実を一瞬見たのち、大きく頷いた。

 

「この国では話すことの出来る馬を連れてくるのは難しいだろう。話せない馬に声を当てているということか?」


 マルヴィナは肯定した。


「この主人公は聖職者を目指しているようだが、まさか神父自らが演じているのか?」


 肯定。


「この台本は神父が書いてるのか?」


 肯定。


「つまり、壇上で、神父が話さない馬と、実際に、」


 ジェフは口ごもったが、マルヴィナは肯定した。


「まじかよ」


 ジェフは頭痛がしたので、頭を抱えた。

 アデルも顔をゆがめている。


「とんだ変態神父ですね」


 アデルの発言に、マルヴィナは首を縦に振った。


 ◇ ◇ ◇


「さて、俺達は聞きたいことが多くあるのだが、そのためにはアデルが手を離す必要がある。しかしそれをすると君は叫び声をあげる可能性がある」


 一旦言葉を切り、ジェフはマルヴィナに向かって数歩前に出た。


「それを行った場合、お互いに対しても良くない結果となるだろう。叫び声をあげないのが、最も賢い選択となるだろう。わかるな?」


 マルヴィナは肯定はせずにじっとジェフの目を涙目で見つめた。


「先ほど俺達がやっているのはある人のためといったが、恥ずかしながら白状すると、そのある人というのは俺のことだ。しかし、助けたい人物はもう一人いる。もしかしたら、マルヴィナ、君も知って要る人物かもしれない。コーラ・クラシアと言うんだが」


 コーラの名前を聞いたとき、明らかに反応があった。マルヴィナの目の揺らぎを感じる。

 彼女は一瞬目をそらした後、再度視線を前に戻した。

 

「知っているんだな?」


 肯定はなかった。しかし、明らかに迷っているのが分かる。

 しかしおかしい。

 先ほどまでは、劇について多くの反応を見せたが、今はかたくなに肯定も否定もしようとしない。

 まるで今丁、度誰かに命令されたようだ。

 ジェフはマルヴィナの体を改めて見回した。

 コーラよりは背は高いが、やはり小柄であった。兜の隙間から見える目は、少し垂れている。

 鎧はコーラと同じく、この教会の見習い騎士用のを着ていた。

 ジェフはマルヴィナが誰かから指示を受けたような気がしたが、しかしながらこの時代に無線のようなものは存在しない。自称サンタクロースも、魔法は自然に関係するものしかないと言っていた。

 とはいっても、王宮が霧で覆われていて、レーダーのような役割をしていることなどを踏まえると、無線機のような魔法も存在しうるるはずでもあった。

 またはこの教会のどこかに、願いをかなえてもらった者がいるという可能性もある。

 どちらにしても、すでにジェフたちの行動は筒抜けと言う形になるが……

 そこで、ジェフはマルヴィナの着ている鎧に再度目を止めた。

 先ほどと比べ形が少し変わっているような気がしたのだ。

 気のせいでは、と問われればその通りかもしれない、と返してしまいそうなわずかな変化であり、しかしジェフの勘は確かに変化したと告げていた。

 頭はあまり良くはないが、勘はよく当たると、ジェフは自負していた。


「そういうことか、懐かしいな」


 ジェフはマルヴィナの兜を外した。

 そして、その兜を地面に叩き付けた。

 兜が祖の場ではね、少しへこむ。


「いてえな畜生!何すんだこのデカブツがっ!」


 すると兜から大きな叫び声が聞こえたのだった。

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