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悪魔気取りの夢を叶えるゴリラ  作者: 五臓六腑二四三渡
第1章 始まりの教会
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4話 原因を探れ!

 救世主は空からくる。

 そう信じているのはきっと下ばかり向いている奴だ。

 地面だって、深海だって空同様無限の可能性が広がっている。

 しかしそんな地の下を信じてやれないのは、いつも見ているから、親近感を持っているからで、親しいものから信じられない奇跡など起こりようがないと信じているからだ。

 地面に対しての同族嫌悪。空に対しての嫉妬。

 しかし地面だって、お前なんかと一緒にしてほしくはないだろうさ。


 そんな即興ポエムを心の中でジェフは読んでいた。

 何故そんな痛いポエムを読んでいたのかというと、やはりここで助けが来ないかなと妄想ぐらいはしても罰は当たらないだろうと思ったからだ。

 別にそのポエムのおかげというわけではまったくないが、救世主は空からやってきた。

 そしてそれは黒猫の形をしていた。


 ◇ ◇ ◇


 窓から黒猫が飛来した。

 そして部屋に入った瞬間黒猫は、黒髪の女の形に形を変える。

 勢いを利用した、女の拳がコーラの顔面に入る。そしてコーラは壁に叩き付けられた。


「飛びますよ」


 黒猫の女―――アデルはジェフの腕を掴かみ、また窓から飛んでで脱出する。

 一部が引っかかったが、勢いで壊して何とか外に出ることが出来た。


「ジェッちゃんを返して!」


 立ち上がったコーラの声と同時にジェフが暴れ出し、二匹は空中で大きく揺れる。


「暴れないでください」

「操られてるんだよ!」


 アデルは不安定ながらもなんとか体制を立て直す。

 空中で跳躍するように、上昇し、丘を越えてコーラの視界の外に出ることが出来、その後は低空飛行で進み、数樹分後近くの森に不時着した。

 鬱蒼と茂る針葉樹林だった。


「ここまで来れば大丈夫でしょうか」


 着地した後、アデルは黒猫の姿に戻り、木の幹に座りこむ。

 ジェフも溜息をつき、体勢を立て直し、同じようにその場に座り込む。


「何というか助かったよ」ジェフは首の裏をかいた。「あのままじゃ一生地下生活だったかもしれない」


 しかしアデルは、その水色の猫目でジェフを見ているだけで、何も答えようとしない。

 沈黙に耐えられなくなり、ジェフは言った。


「何か言ってくれないか」

「ククク……」


 アデルは前足に顔をうずめ、うめき声を出し始めた。

 どうしたのかと、ジェフがもう一度話しかけようとした時、黒猫は大きな声で笑いだした。


「ぷははっ、はははっははあ、っははっはは……はははあっはゴリラて……はははははあははっはは」

「……」

 

 いきなり人のことを笑いだすなんて失礼な奴だとは思ったが、確かに客観的に自分を見ればかなり滑稽かもしれない、と思い直し、戒めのためにも、取りあえずその場で彼女が落ち着くのを待つことにした。


「はははっはははあっは……」


 取りあえず笑い声をバックに、景色でも見つめようと思った。

 この国は精霊の影響で、かなり歪な気温変化をすることもあり、そのためかこのあたりは虫が少なかった。

 尖った木々の隙間から雲が流れているのが見て取れた。

 

「ひい……はははは、あはははっはひいひい」

「笑いすぎだろ」


 いい加減呼吸が苦しそうになってきたみたいなので、流石に止めに入る。

 ジェフの大きい手が彼女の黒い背中をさすり、深呼吸を数回した所でようやく落ち着いたようだ。

 ジェフは首の後ろをかき、ほっと息をついた。


「ゴリラと言うものは初めて見ますが、その姿で首の裏をかく動作は間抜けに見えます」

「そうか」


 何事もなかったように話し始めるアデルに、ジェフは無表情で答えた。

 それと、どうやら思っていた以上に自分の容姿が変化したことを、意識しなければならないなと、身を引き締めた。

 

「しかし」アデルは一旦猫のようななき声をした「その力を得て初回で失敗した人の話は良く聞きますが、さすがに幼馴染にゴリラにされたのはあなたが初めてでしょうね」

「だろうな……俺も未だに理解が出来ない。しかしこう言うのもなんだが、何故助けてくれたんだ?おれたちにはあまり興味がなさそうに見えたが」

「わたたしはアルドー様に使える身だったので、本来不干渉でしたが、あなたには一回助けられた恩があるので、上空から見張っていました」

「恩?」

「村の荒れくれを退治してくれました」

「ああ、でも君なら自分で何とかで来たんじゃないのか?」

「そうですね。でも一回は一回です」

「律儀だな」


 ジェフは肩をすくめた。


「ゴリラの姿で肩をすくめると、すごいむかつきますね」

「以後気を付けるよ。しかし」ゴリラは木々の隙間から空を見上げた「何でこんなことになったんだろな」

「注意不足でしょう」

「そうかもな。一応この力を狙うものとか、同じ力を持った者と戦うことも想定していたんだ。だが、さすがに幼馴染にゴリラに変えられるのは予想できなかった」

「それは見通しが甘いということです。大きな力を持っていたらそれぐらいは予想できなくてはやっていけません」

「そうか……」ジェフは片膝を立てた「まあ何にしろありがとう。俺は調べたいこともあるし、夜まで森の中で隠れていることにするよ」


 黒猫は後ろ脚で顔を気持ちよさそうに、顔をこすった。


「それで、今後はどうするおつもりで?」

「恐らく、コーラをそそのかした奴がいる。取りあえずはそいつと話をしたい。場合によっては」

「殺すんですか?」

「何?」ゴリラは目を見開き、驚いた「何を物騒なことを言っているんだ。まあそいつには罪を償ってほしいとは思ったが。勿論しかるべき手段でね」

「ジェフ・ターバル。戦時中では冷酷な戦士だったとか聞きましたが」

「誤解だ。ただ人より少し感情を隠すのが得意だっただけだ」

「そうには見えませんが」

「感情を隠さないのも人より得意だからな」

「それで、あのお嬢さんのことはどうするんですか?」

「彼女にも、反省はしてほしいが、もし罰を受けるのなら軽くしてやりたい、幼馴染で最も親しい友だからな」

「告白されたのに?」

「どこまで聞いていたんだ?」ジェフはあきれ顔になった。

「全部です」

「そうか……今回は助かったが、今後はやめてくれよな。あとそれならコーラに答えたように『いきなり知り合いをゴリラにする女とは付き合えない』だ」

「もし洗脳されていて、好きなのは本当だったら?」


 ジェフは顎に手をやって考えた。


「今は結論が出ない。考えておく」

「ぷくくく」


 アデルがまたも笑いをこらえ始めた。


「そんなに俺の答えは変だったか?」

「すみません、思い出し笑いです。ところで、調べると言っていましたが」猫は立ち上がり、横へ歩き出した「その姿で、しかも一人でやるおつもりで?」


 ジェフはアデルの顔をまじまじと見た。

 気のせいか手伝ってあげると聞こえた気がしたが、先ほど不干渉で、助けたのは特別だと本人が行ったのだ。無報酬で助けてもらえるとは思っていない。

 無報酬……?


「ああ、もしかして報酬次第で手伝ってくれるということか?」

「言葉の先読みをする人は嫌いですが、その通りです」

「しかし、今は金も一銭も持っていない。俺は白の中で済んでいるのだが、この姿じゃあ入れないだろう」

「なら私が忍び込めばいい」

「うちの城は魔法使いが結界を張っているので、鼠一匹忍びこむのは無理だ」

 アデルは不機嫌そうに首を揺らした「なら、今回は貸一ということで、助けることは可能です」

「そうか、助かるよ。本当にありがとう」

「私に貸を作ったことを、後で後悔しなければいいですけどね……ぷくくく……あはは……」

「最後の絶対思い出し笑いだろ」

「不敵に笑ったんですよ」


 アデルはどこか誤魔化すように、「にゃあ」と鳴いた。


 ◇ ◇ ◇


 その後、今後の方針について話し合う。

 アデルに、コーラを捕まえてくれないかと頼んだが、自分がゴリラになる可能性があるのでそこまでは手伝ってはくれないみたいだ。

 ということで、まず空を飛んで王都の近くまで戻る。そして日が沈むまでジェフは近くの森に隠れ、コーラはその間街で情報収集をする。そして日が沈んだら森で作戦会議を行うということになった。

 そして話し合っている間ジェフの体について、ある重大な問題を発見したのであった。

 それは日が一番高い所にあるぐらいの時の話であった。


「あーと、なあ」


 ジェフは少し辺りを見回してからよそよそしく言った。


「何か」

「花をつみに言って言いか?」

「何ですかその言い回し。乙女ですか」

「下品な言い回しを避けたんだよ」


 アデルの返事も待たずに、ジェフは森の中へ入っていく。

 取りあえずあのあたりで言いかと適当な場所に目星をつけた。

 そして、行為をしようとしてあることに気が付いた。


「……」

「…………」

「………………」


 一秒経過したが、状況が理解できない。

 二秒経ってもまだ、意味が分からない。

 三秒経ってようやく理解した。


「んなああああああああああ?!」


 慌ててジェフは体を捻り、コーラの元へ四足で走ってって戻った。

 ちなみにゴリラは時速50キロメートルの速さで走ることが出来る。

 すごい勢いで戻ってきたジェフにアデルは驚いて目を見開く。


「どうしたんですか?魔物(差別用語)でも襲ってきたのかと思いましたよ」

「ない、ないない、ない!アレがないんだ!」


 早口でジェフはまくし立てるが、アデルは何のことかわからない。


「アレとは?」

「アレがないんだよ!!」


 意地でもはっきり言わないジェフにしびれを切らして、アデルは考え込み、花を積に言ったということと合わせようやく何がないのか合点する。


「ああ、つまり雌ゴリラになってしまったということですか?」

「……ちょっとまて、確認してくる」


 ようやく落ち着いたジェフの言葉に、アデルは少し不快そうな顔をしたので、彼はは傷ついた顔を表に出した。


「仕方がないだろ」

「そうですね」


 確認した後、ジェフすぐに戻っていった。


「どうやら女になったわけではないようだ。穴だけ残して切った見たいだった。東の国でこうなってる奴を見たごとがある」

「つまり去勢された状態ということですか?ペットとして飼う気満々ですね」


 そこでジェフは、自分がコーラに向かって人間が嫌いなのかと聞いたことを思い出した。

 あの時は、コーラは否定したが―――

 そして去勢された自分の状態。

 その事実を合わせて、ジェフは可能性に思い至る。

 アデルの顔を見ると、彼女もまた同じ考えに至ったようだ。


「……そう考えるのは、まだ早いですよジェフ・ターバル。結論を速く出し過ぎて、間違いを犯した者を何人も知っています」

「……そうだな」

「そして、あれがなくなったことで自分がゴリラになったときより動揺してましたね」

「まだ一回も鏡を見ていないし、実感がないんだ」

「ならすぐに自分の顔を見ることになるんじゃないですか」

「どういうことだ?」

「手を洗ってきてください、花を積に言った後のあなたに触りたくないですよ」


 ◇ ◇ ◇


 夜。

 梟が自分の時間を存分に謳歌するがごとく鳴いていた。この国の梟は、活発的なのであった。

 あらかじめ決めていた通り、ジェフは王都の近くの森で待機をしていた。

 朝から適当になっていた木の実くらいしか食事をしていなかったので、空腹がジェフを苦しめていた。

 しかし派手に動くとこの国の人間に見つかる可能性が高くなるため、大人しくじっとしているほかなかった。

 そしてようやく、空から人間の状態のアデルが返ってきた。

 店で買ってきたであろう果実を入れたバケット抱えている。


「やはり教会では、夜な夜な秘密の部屋で怪しげなことをしているという噂が流れていました」


 アデルは果物を口に運ぶジェフを見て、餌をやっている気分になりながら言った。


「やはり教会か……」


 コーラ自体が教会の所属なので、何かあると睨んで、重点的に調べるよう頼んでいたのだが、当たりだったようだ。

 聖職者という言葉は「あるまじき」の枕詞であるというのは、どこの国でも同じであった。

 無論偏見である。

「侵入しますか?ただ私自身は室内での戦闘能力は、そこそこと言った感じなので、一人で行くのは拒否しますが」

「隙間からアデルが侵入し、内側から鍵を開け、俺が侵入する。という流れになるか」

「すでに秘密の地下通路らしきものをすでに発見しています。危機を感じたので深入りはしませんでしたが」

「早いな。頭が上がらないよ」

「どんどん恩がたまってくるのでお忘れなく」

「怖いな……」

「一応言っておくと責任とって結婚するなんて冗談は言わないでくださいよ。わたしには夫と8人の子供たちがいるのですから」

「夫は猫なのか?」

「ライオンです」

「まじか」

「嘘ですよ。ペルシャ猫です」


 さらにしばらく話し合ったのち、結構は街の皆が完全に寝静まったころに行うことになった。

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