プロローグ
<残念ながらあなたのキャラクターはロストしました>
<新しくキャラクター設定を行いますか>
<<はい・>>
<わかりました>
ダイス判定
□…◇……□ …◇ □
(2・4)
成功
これにより24歳時点を開始点とし、幼少期編・青年編・学園編をスキップします。
引き続き翻訳は僕が担当させて頂きます。
それでは良き旅を。
◇ ◇ ◇
親愛なる恩人 ジェフ・ターバルへ
北の山のドラゴンの遠吠えが夜な夜な聞こえてくる、煩わしい季節に、いかがお過ごしだろうか。
8年ぶりの連絡に、君はさぞや驚いているだろう。
そして以前助けてもらった君からの恩は忘れたことはない。
いつかこの恩は返そうと思っていた。
しかし、残念ながら君が幸せになるようなものを、渡せるほど、私は裕福な身ではない。
ただ、そんな私が唯一君に渡せるものがあった。
ただ、これは実を言うと呪いにも近いものなのだ。場合によっては君を不幸にしてしまうだろう。
だがもしかしたら、君ならばこの呪いを役立てることが出来るかもしれない。
もしこの話に興味があるというのなら、私の家を訪ねてほしい。
よろしくたのむ。
愚鈍な自称サンタクロースより
◇ ◇ ◇
ことの始まりはジェフがこの世界に転生してから24年ほどたったころの話であった。
「巷ではサンタクロ-スが空から降ってきたという噂が流れている様ですよ」
開けた窓から風が吹く程度の、気持ちのいい昼下がり、サロン王女はそう切り出した。
場所は王宮のとあるの一室。
ステンドグラスの光が、大理石の床を照らしている大きな部屋であった。
彼女―――サロン王女は絵をかくことが趣味であった。
だからこそ今現在、部下である男をモデルに油絵を描いているのである。
それ自体は普通のことだ。しかしながら人によっては、この状況は誤解する者もいるかもしれない。
何故ならそのモデルの男は、生まれたままの姿で、存分に肉体美をさらしていたのであった。
そして、王女の書いている油絵のモデル男であり、親衛隊の一員でもあるジェフ・ターバルは、体勢を崩さず、さぞ興味深い、といった表情を作りながらそれに答える。
「それはそれは、奇妙なこともあるものですな。いや面白いと言っていい。そのサンタクロースはよほどあわてん坊であったようだ」
「ええ、まったく」
一見ジェフの表情は余裕のようであるが、人の心を覗ける者が見れば、次の王女言葉を恐れているのが分かる。
「ではジェフ、ここへ連れてきてください」
そして予想通りの言葉にジェフは、頬に一筋の冷や汗をかく。
「またまた、それはそれは」
「体制が崩れていてよ!」
「失礼しました」
王女の凛とした声に、ジェフは慌てて身をただす。
しかし、表情に余裕はない。
ジェフの内心を知ってか知らずか、王女は筆を止めて尋ねる。
「ご不満でして?」
「いえ、滅相もない。しかし恐れながら、理由をお聞かせ願っても?」
「決まっているじゃない。絵のモデルになってもらうのよ」
「しかし、サンタクロースと言えば聖人であると言われております。そのようなお方の服を剥いで、絵に記すなど、冒涜的にもほどがありますよ?」
「誰が服を剥ぐって言いましたか!ちゃんと頼んでくるように言ったんです!もちろん服を着て!」
王女は座りながら地団駄を踏んで怒ったが、絵はちゃんと完成させたいらしく、その場から立つようなことはしなかった。
彼女はジェフに向かって筆を立てた。
ジェフは「それは、失礼しました」と言いながら溜息をつく。
そして、少しほほが赤くなった自身の主を改めて、観察した。
サロン・ベディングフィールド。年は16歳。ロールをした金色の髪の隙間から、少しつり気味の眼をのぞかせていた。
服装はジェフの前世の記憶のボキャブラリーで表現すると、ロココ調に近い赤系統のドレスであった。
「何をジロジロと人の顔を見て。絵の仕返しのつもりですの?あ、そしてこう言う時は、紳士足るものこう返しなさい。『失礼、王女の顔があまりにお美しいものでしたから』と」
ジェフはしたり顔でそんなことを言う彼女に、頭を抱えたくなった。だが、王女はそれを許さないだろう。
「……まあ、美しいのは事実ですが、私にそのようなことを言う胆力は、ございませんので」
「あら、もっと自信を持ってもいいのですのよ。あなたの容姿もが前に描いてくださった空想の生物のようで凛々しいと思いますし、親衛隊たるもの背筋を伸ばしてもらわなくては」
「そのかっこいい生き物とはゴリラのことで?」
「そうそれです」
数年前にジェフは、王女の命令で絵を描くことを強制させられた時、なんとな~く頭に浮かんで描いたゴリラが思いのほか好評で、国中でもそれなりに空想小説の動物として人気が出たのであった。
主に倒されるべき敵役として。
ちなみにこの国に類人猿はいるのだが、ジェフはゴリラは見たことがないといった具合だったので、ほかの国のものならゴリラらのことを知っている可能性はあった。
そしてジェフの容姿もまた、24歳とは思えぬほどの老け顔と、濃い髭と、筋肉質の体も相まって、ゴリラという形容はまさに的を射たものであった。
「まあその話は置いておきまして」ジェフは体制を崩さないまま言った「本当の理由は?」
「サンタクロースじゃなかったら、魔女の可能性があるでしょう。ですから早めに囲い入れておきましょう」
「ははあ、魔女狩りですか」
「そんな教会みたいなことはいたしませんわよ。ただ教会より早く動いてけん制しておかないと」
「成程。しかし、非常に言いにくいのですが、実は」
「実は?」
「彼は知人でして」
「あら」
「いえ、もちろんそうだからと言って、仕事の手を抜くわけではないのですが。ただ、彼自身に手荒い真似をすると、不幸が降りかかる。そう言った例をいくつも知っています」
「つまり、あなたが説得しに行くのが一番安全であると?」
「私の言葉は、そう聞こえましたか?」
「そういっているように聞こえました」
「そうですか……」
ジェフは、体を固定したまま考えた。確かに王女の言う通りであるかもしれない。
自分が行くのが一番安全である。
しかしこの偶然には、何か作為的な物を感じざるを得なかった。
それに旧友とはいえ、わざわざ呪いをかけると言われたので、そんな怪しいことには首を突っ込みたくはなかった。
しかし恩のある王女の頼みとあっては断れまい。
「!絵が出来ましてよ」
突如、王女は満面の笑顔で、絵をこちらに向けた。
ジェフはポーズを崩し、軽く腕を回した後、裸のまま、その絵に視線を向ける。
そこには油絵で、ダビデ像のようなポーズを取っているジェフの姿が描かれていた。
なぜダビデ像なのかというと、ジェフがあまりポーズには詳しくないので、前世の記憶を頼りに体制を作ることが多いからである。
筋肉が少し盛ってあるし、肌が照り過ぎではと思う所もあったが、ジェフの見立てでは、今までの中では一番出来のいいものに見えた。
サロン王女は、まだかまだかかと、わくわくしながら感想を待っている。
ジェフは両手を広げた。
「素晴らしい仕上がりです。特にステンドグラスによって照らされた肌の色分けは見事な物だとお見受けします」
「そうでしょう、そうでしょうとも!そこに気が付くとは、さすがジェフですわ!」
「しかし私のような絵の素人があまり褒めても仕方がないでしょう。先生をお呼びします」
「意味の無いことなどないですわよ。でも、先生をお呼びするのはお頼みしますわ。さがってよし」
「かしこまりました」
そう言いながらジェフは部屋の隅にある着替えることの出来る、カーテンの引かれたスペースに向かった。
「所で、先ほどのお願い、聞いてくださいますの?」
「そのことでしたら」ジェフはスペースから顔を出した「王女の言う通りであるかもしれません。無論、受けさせて頂きます」
ジェフは一礼をしたのち、またスペースに戻っていった。