見えない冬
第一章 :見えない冬: 限りなく、深い闇。
そこには、光は無く、
音が生まれる事も無い。
ただ、静寂と絶望のみが
支配していた。
そして俺もまた、
そこにいた・・・・
不思議と、怖いといった
感情が生まれて来ること
は無く、歩き回ろうと いう考えさえ浮かばない。ただひたすらに
闇を見つめていた。光という存在を、
思い出しながら・・・・・============
「・・・ム?」
眩しい。今のは
夢・・・か?
そんな事を考えて いると、目覚ましの ベルが鳴り始めた。 カチッ、っとボタンを 押して止める。 「とりあえず起きるか。」 そう言い、布団から
出てまず時計を確認。
針は7時ちょうどを
指していた。
「ウム、早めに朝食を作っておくか。あいつを待たせたくないしな。」
俺はまず服を着替え、 部屋にある鏡を見ながら 髪を少し整えた。
ちなみに言うと、
着た服は、上は青の
長袖、下は少し黒っぽい 感じのジーパンだ。
俺は基本的に、家では
いつもこの組み合わせ
の服装で過ごしている。 今日も例外ではない。
・・・身支度が済むと 部屋のドアを開け、
階段を下りた。
俺の部屋は二階に
あるため、台所のある
一階まで行くには
階段を下りる必要が
あるのだ。 台所にたどり着き、
早速 朝食の支度を
始める。
・・・そう、この家の
食事は全て俺が作って
いる。普通の家庭なら 母親がやる仕事だろう。 だが俺は、17歳の身
でありながら、この家
の、食事、洗濯、掃除
の仕事をこなしている。 というのも、俺には
親がいないから・・・
いや、正確には父親は
生きているのだが・・。
「・・・・くそっ!」
思わず手にしていた
包丁をまな板に
突き刺してしまい、
ドスッ、という音が 台所に響いた。
正直、俺は父親に
好意を持っていない。 持てるはずがない。
詳しい事は知らないが 母親が死んだ日、
あの日の記憶は薄れる
事なく、今だ頭の中に
残っていた・・・・
============
「これは殺人事件ですね」 警察官の言葉が頭に
響く。目の前には、
体を所々 ナイフで
切られた母親が
横たわっていた。
「一応、病院の方に 送っておきます。」
その言葉を聞いて、
一瞬我に帰り 父親の姿を捜す。
こんな悲惨な姿になって いるが、せめて今は
父親と一緒に見送って
あげなくては。
そう思ったのだ。
しかし・・・・・
「あれ、父さんは?」
どこを捜しても父親の
姿は見えない。
どこかに隠れて
泣いているのだろうか? でも、やはりちゃんと
見送ってあげなくては
いけないよな・・・
そんな事を考えている
時だった。警察官の
話し声が聞こえてきた。
「まだ調査中ですが、
現段階では、天夛 滋白が殺人者という線が一番有力です。」
「あまた・・・じはく?」 その名は紛れもなく・・
「・・父・・さ・・ん?」============ その後も、父は一度も
姿を現す事は無かった。 ほぼ確実に、母を殺した のは父だと言って
間違いは無いだろう。
それからというもの、
俺は誰も信じる事が
出来なくなった。
それはそうだろう。
自分の母を、自分の父に 殺されたのだから・・・ まあ、例外が一人
いるんだが。 その時、 トテトテと階段 を下りてくる音が
聞こえて来た。 俺は慌てて無表情な顔
から、優しい笑顔に
切り替えた。
その直後、ガチャ、と
いう音と共にドアが
開いた。
「よ、おはよう 秋菜。」 俺がすかさずあいさつを すると、向こうからも
返事がかえってきた。
「あ、兄さん!もう起きてたんだ?おはよう^^」
そう、これが、俺と 一緒に住んでいる、 妹の秋菜だ。と、同時に 俺が唯一信じる事の
できる存在でもある。 「今ちょうど飯が できた所だぞ。」
ちょっと体をずらし、 秋菜に鍋が見えるように する。
「あ、ほんとだ!
おいしそー♪」
「まあ、実際にうまい
んだからな( ̄ω ̄)」
「兄さん、自分でほめる
のはどうかと思うよ?」
ちょっと呆れた顔を
しながら言われて
しまった。
「だか、美味しいだろ?
俺の肉じゃが。」 そう、俺が今つくって
いたのは肉じゃが
だったのだ。実を言うと 肉じゃがは俺の1番の
得意料理でもある。
「うん、大好き!
でも・・・・・・」
「ん、何だ?」
「他の料理が・・ヘタ。」 (ガーン!!)
「そ、そんなにズバリと
言わないでくださいよ。」 落ち込むと何故か敬語に なる俺。実は、肉じゃが だけはプロ並だが、
他の料理は もはや
冷凍食品にも及ばない。「え、じゃあ・・・、お腹が空いてる時なら割と
美味しい・・・・よ?」
って、微妙!しかも
‘割と’って何すか?!
「もういいよ・・・
早く飯食べちゃおう。」
「あ、そだね。 遅刻したら大変っ!」
「じゃ、秋菜はそこに
座っててね。」
そう言うと、俺は皿に
肉じゃがを盛り始めた。 横目で、チラリと
秋菜を見てみた。
服は、いつもどうりの 上下桃色のパジャマだ。 目は、いつもは大くて
パッチリしているが、
寝起きだからか 今は
半開きで、少しトロンと している。髪の毛は
ロングで、髪が背中の
真ん中あたりまで
まっすぐにのびている。 寝癖を一生懸命直そう
としている姿を見て、
かわいいなぁ などと
考えてしまう。
「兄さーん、まだぁ?」
秋菜が不思議そうな
顔をしながら聞いて
くる。どうやら、
少しの間手を止めて
いたらしい。
「ああ、今持っていく。」 すぐに肉じゃがを皿に
盛り、秋菜のいる机の
上に置く。
「どーぞ。」
「えへへ、
いただきまーす」
待ってましたといわん
ばかりに、すかさず
フォークを手に取り
食べ始める。
「うん、美味しい!」
「ウム、そうだろ。」
「なんか、兄さんの
肉じゃが、何て言うか、
こう・・・お口の中に
キュッ ってくるの。
キュッ って!」
キュッ・・・ですか?
ずいぶんと表現方法が
豊かだなぁ。
「うーん、それは多分、
隠し味に入れたお酒
のおかげかな?」
「えっ、お酒が 入ってるの?どうしよ、
秋菜まだ11歳なのに!」 口を押さえながら 困った顔をしている。 沸騰させているから アルコールはもう無い のだか、一人で慌ててる 秋菜を見ていたら少し 意地悪してみたくなった「なに、それは大変だ!」 手を上にあげて、少し オーバーに 反応してみる。
「ど、どうしよう・・・」 混乱しているせいか、 俺の大げさな反応に ツッコミを入れる事無く ただオロオロしている。
「早くしないと警察が来て捕まってしまうぞ!」 「ええ〜〜〜!?」 すると、少し目を 潤ませながら・・・。
「に、兄さん・・・ 秋菜、兄さんと会えなく なっちゃうの?」 「安心しろ、ちゃんと面会に行ってやるから。」 「でも・・・ずっと離れて暮らすの? 朝起きたら おはようって言えないの?兄さんの肉じゃがも・・ 食べれない。いつもの 楽しい日々も、どっか 遠くに行っちゃうの? 秋菜、そんなの・・・」 とうとう泣き出して しまった。そろそろ 可哀相になってきたな。
「そんな事言うなよ!」 そう言い、俺は秋菜に 抱き着いた。 「に、兄さん!?」
「遠くに行くなんて 言うな!だって・・・ 俺は・・・・・・・」 そこで言葉を切り、肩を 抱く手に力を入れた。 「・・・・兄さん。」 秋菜の目がまた潤んで きた。心なしか、今度は 顔が少し赤い。 「だって・・・・ ウソだもん( ̄ω ̄)」 一瞬、空気が止まる。 「・・・・・ふや?」 もう一度。 「ウソだもん。」 「・・・・・・」 「ウソだもん。」 かなりしつこい俺。 そして秋菜の顔は さっきと変わっていて、 少しムスッとした 感じになっていた。 「し、知ってたもん!」
「・・・ウム?」 「だ、騙されたふりして あげてただけだもんっ!」 ・・・・・秋菜、 分かりやすすぎ! 「ああ、知ってたぞ。」 「え?」 「だから、秋菜は、俺が 騙してるのを知っていて、それを知ってたのに 俺には知らないふりをして騙してたんだろ?」
「・・・う、うん。」 「でも、俺はそれも気付いていて、でも気付いてないフリをして騙したんだ。」 かなりいい加減だが、 秋菜には通用したらしく 少し考え込んでいる。 そして・・・ 「そ、それも知ってた!」 ・・・・・って、 かなり無理がない? 「じゃあ俺も・・・ それも知ってた。」 「ええ〜!?・・えっと、それも知って・・たよ?」
「それも知ってた。」 「それも知ってた!」 「それも知ってた。」 「それも知ってた!」 「・・・・・」 「・・・・?」 「なあ、秋菜?」 「な、なに!?」 「学校・・ヤバくない?」
「・・・・・(゜□゜)」 「・・・・・( ̄ω ̄)」 こうして、今日という 一日が始まるのだ。 「ちょっと兄さん! 勝手にまとめないでよ!」
「学校に遅れるぞ?」 「う〜〜〜」 「秋菜、ファイト☆」 「もうっ!」 ============ 「・・・行ったか。」 食器を片付けながら、 学校へと向かう秋菜の 姿を確認する。 「・・・・・・・よし。」 食器を全て洗い終えると 自室へ行き、服を着替え る。
下はそのままで、上は青 から黒に変える。
さらにその上に革の コートを羽織る。色は黒 で、少し薄めである。 丈が長いので、マントの ようにも見える。 着替えが終わると、机の 上に置いてあった銀色の リングをズボンのポケッ トに忍ばせ、玄関の前 まで歩いていく。 「秋菜は3時過ぎに帰って来るからそれまで、か。」 誰に語る訳もなく呟くと 玄関のドアを開け、外へ 出た。同時に、空を見上 げる。 「・・・暗い・・・な。」 空は、果てしなく曇って いた。太陽の光を見せた くないかのように・・・ 第一章 完 第二章に続く。
このあと、いよいよ天夛 の力が明らかに! です。