黒雲
異変を感じたのは、あたしがほうきのベスと空中散歩を楽しんでいた時……。
「ねぇ、ベス? あの雲って何か変じゃない? あそこだけ黒いって言うか。 黒いって言うかあそこだけ……」
「なぁに? 倒置法用いて説明しなくても分かるわよ。 雲が黒いんでしょ? 魔界で何かしたんじゃない?」
「面倒くさがらないでよ。 魔界は今日お祭りよ? 夜行くんでしょ。 おじい様からお誘いきたじゃない」
「じゃぁ。 お祭りで浮かれてるだけじゃないの? 早く帰りましょう。 あなた重たいのよ」
雲の事を調べてもと思い、私達は家に戻った。
「ただいま」
「おや。 お帰りシオン。 久々じゃのうベス。 上手く乗れてるかい?」
家に帰ると、おばば様が揺り椅子に座りお茶を飲んでいた。
窓辺にある揺り椅子は、あたしもおばば様もお気に入りなの。
「シオン? 帰ったの? 今夜の洋服選びなさい」
「ほっほっほ。 あの子も母親になったねぇ。 何よりだよ」
「おばば様。 最近ママうるさいのよ? 魔法健在だし、 困るわ」
ため息と共に、テーブルの椅子に座った。
「あんだか魔法で失敗ばっかりするからよ」
近くに立つベスが口を挟んだ。
「あら。 だいぶましになったわ。 ベスこそ
ほうきなんだから、 あまり無茶しないでよね」
あたし達の話を、楽しそうに聴くおばば様。
黒い魔女の定番服とは違う、柔らかな笑顔だ。
魔女の定番服は黒。黒いワンピースだが、あたしは白いヒラヒラレースを襟元と、腰から下に編んでもらい付けている。
全くの黒はオシャレじゃない。
ママもワンピースの裾をヒラヒラさせてるし。
あたしは天使とのハーフだから、髪の色はママみたいに黒くはない。少し亜麻色がかった色だ。 瞳は青い。
天使と魔女のハーフは珍しいが、みんな優しい。
「あっ。 おばば様。 さっき魔界辺りの雲が真っ黒だったけど、 何かあったのかしら?」
紅茶をカップに注ぎながら、先ほどの事を話した。
少し考えて、おばば様が口を開いた。
「ふーむ。 魔界ねぇ。 おじいさんから聞いてはいないが、 ちと早く行こうかね。 あんた達も支度おし」
少しだけ真面目に言った。
天界からパパが戻ったので、あたし達は魔界へ向かった。
「じじ様……。 大丈夫かしら?」
「へっ。 大丈夫さね。 魔界の偉い人だもの。 気にする事はないよ」
大魔女の言う事は流石に違う。
それぞれほうきに乗り、魔界へと飛んだ。
パパは羽があるから、羽を使うと思いきや、ママと仲良くほうきに乗ってるし。
いつまでも仲良しはいいけどね。
魔界に到着し、第一門を開いた。
魔界の第一門はとても大きくて、冷たい鉄でできている。
重たい扉なので、横の小さい扉から入った。
しばらく歩き、中門の前に来た。
黒いマント姿のじじ様が門の前に立っていたので、あたしは駆け足でじじ様の元へ。
「じじ様! お久し振りです!」
「おお! 我がシオン! 久しいのぉ。 元気だったかい? お? 皆も元気だったかい?」
ニコニコと出迎えてくれた。
じじ様は魔界の偉い人。詳しくは知らないけど、たまに会うじじ様は孫にベタベタだ。
「立ち話もなんじゃい。 早よ通せ」
「はっは! お前は相変わらずの魔女だな。 さあ、 こちらへ」
中門の扉を開き中へ通された。
魔界。いわゆる魔界……。
いたって普通の城下町っぽいけど、一応魔界なのだ。
天界と、魔界は対照的位置にあり、魔女界は中間的位置にある。
魔界には魔女も住んでいるから、余り括りはないらしい。
だからじじ様とおばば様は結婚した。
ママが生まれ。修行の為に魔女界に移ったらしい。
大魔女だし、いなきゃ困るとかもあったみたい。
ともかく、 人間界とも近い所でみんな暮らしている。
あたし達が暮らすのは、掟破りの森だけど別に自由に行き来してるし。
「さあこっちだ。 祭りまで時間はあるからゆっくり茶でも飲みなさい」
あたし達はじじ様の屋敷へ。
レンガ造りのお屋敷は、大きくて広い。
中の応接間のソファへ座り、あたりを見回す。
絨毯は紅くフワフワ。ソファもフカフカ。
いい暮らしだなぁ。と思った。
自動的にお茶が運ばれ、テーブルの上へ。
魔法は便利だ。
お茶を飲みながら、おばば様が私が見た雲についてじじ様に尋ねた。
「黒雲? そうか、 出たか……」
神妙な顔になり、呟いた。
「もしやと思うが? もしやかい?」
「察しの通りだ。 魔界王にも天界の王にも伝えたよ」
話が分からない……。
「なぁに? くろくも?」
「シオンは十五か。 そうか……」
「若い娘じゃないと無理なんだろて」
「お母様! ですが……」
話が全く見えない。
ウズウズしていると、おばば様が言った。
「お前さんが見た雲は、 悪魔界の雲だ。 人間界に悪さしようとしておる。 ずっと昔もそんな事があっての。 今日みたいな祭りの日だった。 魔界が浮かれてる。 魔女界もだ。 天界は力が弱い。 皆が浮かれてる間に、 人間界に悪さしようと企んでおるんだ。 バカな奴らめよ。 その時は人間界に悪魔が行ってしまったが、 ある娘により何とかなった。……それがお前のママだ。 ちょうど十五。 十五のもの以外は人間界には行けない。 奴らも居ないと思ったらしいの。 まさか森にいるとは……」
「掟破りは子を成せぬ。 結婚は知ったがまさか子供がおるたぁ思わない。 だからこの日を選んだ」
えーと……。
何処に驚けばいいのかな?
とにかく何だか大変?