そして人はいなくなっちゃいました [その9]
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本作は、9話目です
そうだ、確か……
僕は、記憶の糸を手繰り寄せ、懐かしい同級生の顔をひとりずつ思い出していた。
会わない期間があまりに長かったから、すぐには気がつかなかったのだが、いずれも小中学校時代をともに過ごした大切な友人たちだ。
懐かしい面影は、そのまま残っている。
だが、皆、話し方というか口調まで変わらないのは、性格も変わっていないということなのだろうか。
なにか不思議だ。
あれから、十年以上も経っているのだ。当然いろんなことがあったはずなのに。
自分のためにつくられた偽者、ってどういうことだ?
疑いを抱いた途端に、眼前の光景が水で薄めたように滲んで、かき消えてゆく。
はっとする。
まどろんでいた意識が急速に覚醒するような感覚。
気がつけば、小学校の校庭の桜の木に背を凭れ、その根元に腰を降ろしている自分がいた。
傍らには、いくつかのビール缶が空になって転がっている。
何時間かまえに、客も店員の姿もない無人のコンビニから頂いてきたものだ。
その後、酔って眠り込んで夢でも見ていたのだろうか。
どこからどこまでが現実なのか、どこが夢の始まりで終わりなのか、
すべて嘘であってくれたら、どんなにいいか……
不自然な体勢を長く続けていたためか、身体の節々に痛みを感じる。
その痛みだけは、紛れもないリアルな感覚だった。
僕は、上着のポケットから携帯電話を取り出し、半ば期待しながら、半ば諦めながら、発信履歴を辿り、順にボタンを押していった。
「おかけになった番号は、現在電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため……」
最後までアナウンスを聞かずに、次の番号に架けるが、
妻、友人、会社、親、
昨日と同じで、どれもつながらない。
やがて、ピピッ、ピピッ、と電池切れを告げる勘に障る電子音が響き、どうにもならない怒りと絶望にまかせて、それをグラウンドに思い切り投げつけた。
ガシャッ。
自分の過去が壊れる音だった。
僕にとって、親しい人が消えるということは、過去が消えるのと同じ意味だったのだ。
昨夜はただ消滅する恐怖から逃れたい一心で、安全な区域へと向かったが、今は、たとえばこの世界に己の肉体が唯一残ったとしたら、そのほうが恐怖だと思う。
これが悪魔の仕業であっても、神の裁きだとしても、いっそのこと、今すぐ、僕も消して欲しい。
そもそも、なんでこんなことが起きたんだ?
僕が、そう望んだ結果だというのか?
それとも、すべて仕組まれたことなのか?
それは、ほんの閃きだった。
家族を含めた人々が消えた時間、自分は大阪府内にはいなかった。
人がいない現象に気がついてから兵庫県へと向かい、県内に足を踏み入れて暫くして、母子が消えるのを目撃した。
つまり、時間と場所は少し違うが、大阪府と兵庫県との境目付近に居たわけだ。
最初は仕事で伊丹市とその付近。後はJR線路沿い尼崎市とその付近。
両市は厳密にいうと兵庫県なのだが……
間違って、というか大雑把に、大阪府として認識される場合がある。
隣接しているし、兵庫県っぽくない感覚がある。
尼崎の市外局番は大阪市と同じ06だったり、伊丹には大阪空港があったりするからだと思うが、たしか、伊丹では、もう人の姿を見た記憶がないし、尼崎にもすでに人は居なかった。
ということは、実は、この現象を引き起こしているモノは、思い違いか間違いをしていることになる。
都道府県別、という秩序ある区分けが、正確ではないのだ。
神格ではない。非常に人間的、というより幼稚……?
ごく最近。誰かのそういう間違いを正してあげたような気がするが……
チャリリ。ガサリ。
そのとき、鎖を引きずる音がして、背後の桜の木の陰に小さな人の気配を感じた。
「○○ちゃん」と名前を呼ぶ。
その人物を、僕は知っていた。
意外ではなかった。
「きみは、たくさんの人をどこに消したの?
そして、なぜ夢や幻を僕に見せているの?」
怒らないように、できるだけやさしい言い方で尋ねる。
相手は、まだ小学生なのだから。
「パパ、どうしてわかったの?」
[その10]に つづく
これはリレー小説です。
進捗状況、その他について詳細は、聖魔光闇さま宛お問い合わせください。
第10話は、雪人さま執筆予定です。
よろしくお願い致します☆