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―五年目のプロひよこ、毛並みはふかふか―・上


それぞれが受験に打ち込み、無事に合格した大学一年。

工学部と家政学部に進学したまなは学校こそ違えど頻繁に顔を合わせていた。

大学から始めたバイト先にも海は顔を出し、遅いシフトの時は気が付いたら一緒に帰ろうと声を掛けられ、送ってもらうことも増えていた。

それを知った両親が、送迎のお礼にと家へ招くのもある意味当然だった。

一緒に夕食も食べるほど、気がついたら家族公認の親友である。


大学に入って、まなは自分が場違いだと感じることが増えた。

笑って聞けない恋愛話が、平気でそこらに転がっている。


高校のとき交際経験があるにも関わらずキスもしていないことが、なぜか知られていた。

面白がられて「この人なら大丈夫」と紹介され、断れずに頷いた瞬間――唇を奪われそうになって、逃げた。


翌日、学校へ行ったら皆の知るところとなっており、あり得ないとみんなで笑うその倫理観こそが、まなにはあり得なかった。

涙目で噂の出所である男をにらみつけたら、逆に「今時キスもさせない女なんてどうかしている」と冷たく言われた。


その話を海と託人にしたら、二人そろってそんな男とキスしなくて正解と、まなの行動を肯定して自分のことのように怒ってくれた。

大学の周りの人はまながおかしいと言うが、その多数の言葉よりも二人の言葉の方が心に優しく響く。

それ以来、声を掛けられてもあの時の彼の態度が尾を引いて、大学三年になるまで誰とも付き合わなかった。


そのことでガードが固い女として有名になっていたらしく、オレなら君を女に出来るという勘違いした男が寄ってきた。


まなにその男性が近づいてきたとき、あまりにも下心を見せなかったため、男性に免疫のないまなは本性に気がつけなかった。

休んだ講義のノートを頼んでもいないのにコピーをくれたり、選択授業で悩んでいたときにはさり気なく先輩たちの評判などを教えてくれたりした。

いい人なんだな、と思ったところで少し強引な告白。

たくさんのギャラリーが居る中で告白されて、断らないよねという圧がとにかく凄かった。

うんともいいえとも言えないまま、連れ込まれそうになったのは学校傍にある彼の一人暮らしのアパートだった。

握られた手首はどう動かしてもふりほどけない。

笑顔と共に耳元で「満足させてあげる」と囁かれた瞬間、冷たい汗が背中を伝った。


半泣きになりながらも、なんとか外れた手から必死で逃げて、近くの公園の女子トイレの個室にこもった。

外からは彼の怒ったような声が響いていた。


トイレに設置された非常ボタンが目に入るが、さすがに躊躇った。

今もなお聞こえる声にパニックになりながら、頭で再生された“困ったときは俺を呼んで”という海の声に従い、メッセージを送った。


指先の震えから、上手く文字が打てずに誤字だらけだったけれど、十分と待たずに彼は駆けつけてくれた。



もう大丈夫という海の言葉に、緊張の糸が一気に切れて彼の胸にすがりついて声を上げて泣いた。


海に肩を抱かれながら外へ出ると、彼が待ち構えていて、海を見て一言「どうせその男も同じ下半身の生き物だ」と吐き捨てる。


海は彼をちらりと一瞥しただけで、特に何も言わずにまなを家まで送ろうとしてくれた。


「帰れない……」とまながこぼすと、落ち着くまで傍に居ると、歌いもしないカラオケで静かに泣かせてくれた。


――こんな危ない男と付き合うくらいなら、頼むから俺か吉田にしてくれ、と頭を下げられた。


海のやさしさを利用している自覚はあった。


実際に海を好きらしい女の子にも、何とも思ってないのならちゃんと振ってあげてと何度か言われたこともある。


まなは海が告白してくる度に、きちんと気持ちは伝えてきたはずだ。


海がやさしくていい人だということを嫌と言うほど知っているからこそ。



陸の弟である彼とだけは、付き合えなかった。


陸の陰に囚われて、キスすら許せないことが変なのならば。

もう、恋愛なんて必要ない――そう思ってた。


だけど、運命は放っておいてはくれなかった。


高校一年、十六歳のあの二月。

あの日から止まっていた恋は――


五年の時を経て、ようやく動き出す。


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