―進化ログ:たまご→ひよこ(※とさか未実装)―・中
「陸くん……今日、すごく楽しかった。
改めて、あなたと一緒にいられて、良かったです」
飾らないまっすぐな言葉。
「私、陸くんが好き」
たまらずに、陸が強く抱きしめる。
逃げ場のない抱擁の中。
耳元で、小さく、けどはっきりと囁かれた。
「まな……愛してる」
まなが、息を飲む。
高校生の恋には重すぎる言葉なのに、陸の声色が、嘘じゃないと告げている。
(こんなに想われて……本当に、私でいいのかな)
陸の本気に触発されて、臆病な予防線が顔を出す。
けど、その気持ちを、他の誰にも――なおやゆめにも渡したくなくて。
しがみつくように、彼のコートの背の部分を掴んだ。
冬の風が、静かに二人の間を吹き抜けていく。
どのくらいそうしていただろうか。
そっと、陸の腕が外されて、温もりが離れていく。
それが寂しかった。
「……まな。
今日、渡したい物があって……」
陸が鞄から、ラッピングされた包みを取り出す。
まなは口元を両手で覆ったまま、驚きで目を大きく見開いた。
「私も……あるんです。渡したい物……」
まなも鞄から、同じくラッピングされた包みを取り出す。
「クリスマスイブじゃなくてごめん。
少し早いけど、どうしても渡したくて」
「ううん……私も。
考えていること、同じでしたね」
「……うん」
プレゼントを交換し合う。
中から出てきたのは、可愛いネコのポーチで、両端にネコ耳が付いている。
そして、もう一つ、同じデザインのネコのハンドタオル。
「かわいい……っ!」
一生大事にします、とまなが大切にその二つを抱きかかえる。
「良かった、喜んで貰えて。
こっちは……ぬいぐるみ?」
陸の手には、両手に乗るサイズのネコのぬいぐるみ。
ハートを抱っこしている。
「これ……もしかして……」
「……はい、あのスタンプのネコを真似て作ってみました」
「すごっ! どうやったらこんな風に作れちゃうの?
毛糸で出来ているんだよね?」
掛け値なしの言葉に、まなの頬が緩む。
「あみぐるみなんで、毛糸をかぎ針で編んで作りました。
実は……練習用にもう一個同じネコを作っていて……そっちは自分で持っているんですけど、そういうの……引きますか?」
「まさか。
お揃いを喜んでも、引いたりしないよ」
「……良かった」
あからさまにほっとした様子でまなが息をつく。
「よろしくね、ネコちゃん。
まなのおうちに彼氏?がいるのかな」
真剣にぬいぐるみに話しかける陸がかわいくて、まなは笑い声をこぼしてしまった。
「ふふ、そうですね。
特に男の子とか女の子とか、意識して作っていた訳ではありませんが……。
彼氏だったら、二つとも連れてくるべきだったかな。
引き離しちゃってごめんね」
まなが謝ると、いや……と陸が代わりに答える。
「俺たちが一緒に過ごすときには、このネコちゃんたちも恋人に会えるんだから、いいんじゃないのかな」
「うん……そう想ってくれていたら、いいな」
プレゼントを大切にしまい込むと、改めて手を繋いでゆっくりと庭園を後にする。
遠く、夕焼け空の向こうに、一番星が光っていた。
陸がちらりと時計を見て、小さく息をつく。
「……そろそろ、帰らないとですね」
陸が言葉を口にするより前に、まなの方から解散を匂わせる。
「……もう少し、一緒にいたいな」
心の声が飛び出してしまったのかと思って、まなは驚いて陸を見た。
彼の切なげな表情に、後ろ髪を思い切り引かれる。
「……でも」
「……せめて、橋本駅まで一緒にいても、いい?」
切なげなその声が、夕暮れに淡く、溶けていった。
風が少し冷たくなる。
夜が来れば、今日が終わる――そのことが、二人には怖かった。
京王線のホームはそれなりに人で混み合っていた。
ささやかな抵抗のように、各駅停車に乗った。
特別快速などの電車と比べて、車内は比較的空いている。
まなと陸は、並んでつり革に掴まる。
ゆっくりと周りの景色が後ろへと流れていく。
車内アナウンスが流れ、調布駅が近づく。
本来なら、陸が乗り換えるべき駅。
本当に、終点まで付き合わせてしまって良いのだろうかと彼を見る。
視線の意味に気がついた陸は、小さく頷いた。
嬉しい。
だけど同時に、彼の負担になっていないかが痛かった。
――いつか、罰があたってしまうのではないか。
それくらい、彼に愛されることが幸せだった。
電車はやがて、見慣れた橋本の街へと着く。
終点なので皆が電車を降りた。
パラパラと人が改札へ向かって歩いて行く中、ホームの角に二人立ち止まる。
繋いだ手を離す時間。
次に会えるのは、年明けの学校だ。
冬休みの約束など、何もない。
受験がいよいよ本番となるこの時期には、それが当然だとわかっている。
離れたくないと叫んでいる心を自分で叱咤した。
「……陸くん」
意を決して、自分から彼へと飛び込んだ。
驚いた顔をした陸が、慌ててまなを抱き留める。
まなは背伸びして、陸のコートの襟に触れるほどの距離まで近づいた。
勇気を出して彼の耳元で、「今日のこと、きっと一生忘れません」と囁く。
ゆっくりと離れる。
陸は、赤い顔をしたまま、自分の口元を手で押さえていた。
「……まな、それは……反則……」
声にならない声で、かすかに震えている。
その様子にまなは満足げにくすりと笑うと、繋いでいた手を解いた。
「……それでは、陸くん、気をつけてね。
お勉強、応援してる。
ここまで付き合ってくれてありがとう、嬉しかったです。
……よいお年を」
「……こっちこそ、まなと一緒で楽しかったよ。
また、連絡する。
メッセージも……送らせて。
それでは……よいお年を」
まなはゆっくりと、振り返らずに改札の方へと歩いて行く。
振り返ったら、きっと泣いてしまう――それがわかっていたから。




