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第5話 大地の魔法のお湯と、甘い黒ミルク

【ミア視点】


 服を脱いで、湯気の立ち込める部屋に入った瞬間、わたしは足がすくんでしまいました。


(これが、全部お湯……!?)


 目の前には、巨大な石の器になみなみと注がれた、透き通るようなお湯の池が広がっていたのです。


「……すごい。本当に大地の精霊の魔法です」


 わたしは誰にも聞こえないような小声でつぶやきながら、そぉっと足先を暖かい池――『おんせん』に入れました。

 チャプン、と静かな音が響きます。


「あ、熱っ……いえ、気持ちいいです……!」


 荒野の世界では、水は命より重い宝物でした。泥水をすするような生活をしていたわたしが、こんなにも大量の温かい水に全身を沈めるなんて。

 肩までお湯に浸かると、ジンジンと冷えていた体が芯から温まっていきます。

 頭の上の耳も、すっかり力が抜けてペタンと寝てしまいました。


(ケンタの世界は、本当に豊かで、優しくて、不思議なことばかりです)


 ポカポカと温まる体を感じながら、わたしはほうっと息を吐き出しました。

 なんだか、今までの苦しかった記憶まで、お湯に溶けて消えていくような気がします。


◇◆◇


 服を着て外に出ると、火照った体に夜の風が涼しく吹き抜けていきました。


「ケンタ、お待たせしました!」


「お疲れ様。ミア、顔が真っ赤でゆでダコみたいになってるよ」


 待ち合わせの場所で、ケンタが笑いながら近づいてきました。

 その手には、茶色い水が入った透明なガラスの瓶が握られています。


「ケンタ、それはなんですか?」


「お風呂上がりと言えばこれ、『コーヒー牛乳』だよ。腰に手を当てて飲むのが日本の伝統なんだ」


「こーひーぎゅうにゅう……? こしに手を……こうですか?」


 わたしは言われた通りに片手を腰に当てて、ケンタから受け取った瓶に口をつけました。

 ゴクッ、と一口飲み込みます。


「んんんっ!? こっ、これは!?」


 驚きのあまり、ペタンと寝ていた耳がピンッ! と真っ直ぐに立ち上がりました。


「あ、甘いです! 甘いのに、少しだけ苦くて……すごく美味しいですっ! これはミルクですねっ!」


 わたしは夢中になって、ゴクゴクと茶色いミルクを飲み干しました。

 温まった体に、冷たくて甘い(しずく)が染み渡っていきます。


「ふふっ、気に入ってくれてよかったよ」


「はいっ! 温泉も、コーヒー牛乳も、最高の魔法ですね!」


 空っぽになった瓶を両手で握りしめながら、わたしは満面の笑みでケンタを見上げました。

 青い海と空に囲まれた瀬戸内の旅は、まだまだ驚きと幸せに満ちています。


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