第4話 海沿いの特急列車と、魔女の湯屋
小豆島を大満喫した僕たちは、フェリーで再び四国へと戻り、JRの特急列車に揺られていた。
香川県から愛媛県へと向かうこの路線は、瀬戸内海のすぐそばを走る絶景ルートだ。
ガタンゴトン、とリズミカルな音を立てて進む車窓からは、穏やかな青い海と島々がどこまでも続いているのが見える。
「ケンタ! この『とっきゅう』という鉄の箱は、すごく速いです! 海の上を飛んでいるみたいですっ!」
窓ガラスに鼻先がくっつきそうな勢いで、ミアが歓声を上げた。
頭の上の猫耳は、嬉しそうにパタパタと動いている。
「特急っていうんだ。愛媛県の松山っていう街まで、ずっと海沿いを走るから景色がいいんだよ」
「まつやま……! そこには、どんな大魔法があるんですか?」
「魔法じゃないけど、今日はすごく大きなお風呂に入る予定だよ。ミアの世界には海がなかったみたいだけど、お風呂……つまり、温かいお湯に体を沈める習慣はあった?」
「おゆに、体を沈める……? 飲み水すら貴重な荒野でしたから、そんな贅沢なこと、王族でもしないと思います……!」
信じられないといった顔で、ミアは丸メガネの奥の目をパチクリとさせた。
◇◆◇
松山駅に到着し、路面電車に乗り換えてたどり着いたのは、日本最古の温泉とも言われる『道後温泉』だ。
温泉街の中心にそびえ立つ、道後温泉本館。
複雑に入り組んだ巨大な木造三階建ての建物は、夕暮れ時の空を背景にして、どこか神秘的な雰囲気を放っていた。
「……こ、これは……! とてつもなく巨大な魔女の館ですね! ケンタ、ここから先は危険な気配がしますっ!」
ミアは僕の背中に隠れるようにして、猫耳をペタンと伏せて建物を睨みつけた。
「魔女の館じゃないよ。ここは『おんせん』って言って、地面の奥深くから湧き出た温かいお水が、あの建物の中にたっぷり溜まっているんだ」
「地面から、温かいお水が……!? やはり、大地の精霊の力を使った大魔法の施設なんですね!」
「だから魔法じゃないってば。みんな、あの建物の中で服を脱いで、温かいお湯に浸かって疲れを癒やすんだよ」
「ふくを脱いで……!?」
ミアはボンッ! と音が出そうなくらい顔を真っ赤にして、自分の胸元を両手でギュッと隠した。
「あ、いや、男女で別々の部屋だから安心して。僕とミアが一緒に入るわけじゃないから!」
慌てて弁解する僕に、ミアはホッとしたような、少しだけ残念そうな表情を浮かべた。
「そ、そうなんですね……。でも、お湯に体を沈めるなんて、本当に信じられません。わたし、溺れてしまわないでしょうか?」
「浅いから大丈夫だよ。肩までお湯に浸かったら、すごく気持ちいいから。お風呂上がりには、とびきり美味しい甘い飲み物も待ってるしね」
「あまい飲み物……!」
その言葉を聞いた瞬間、ミアの猫耳がピンッ! と真っ直ぐに立ち上がった。
初めての温泉体験に胸を躍らせる迷い猫と一緒に、僕たちは歴史ある木造建築の中へと足を踏み入れた。
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