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第1話 迷い猫と青の終点、瀬戸内の海

 窓の外には、見渡す限りの青が広がっていた。

 本州と四国を結ぶ巨大な橋、瀬戸大橋(せとおおはし)の上を、JRの快速マリンライナーが駆け抜けていく。

 初夏の陽光が波間に反射して、キラキラと宝石のように輝いていた。


「わぁっ……! ケンタ、見てください! 水が、水がどこまでも続いていますよ!」


 隣の席でパタパタと身を乗り出しているのは、頭にピンと立った猫耳を持つ少女、ミアだ。

 彼女は丸メガネの奥の目を輝かせ、窓ガラスにへばりつくようにして外を眺めている。


「落ち着けって、ミア。周りの人が見てるから」


 僕は小声でたしなめながら、周囲の乗客の視線を気にした。

 幸い、平日の昼下がりということもあり、車内は空いている。彼女の頭でピクピクと動く本物の猫耳も、精巧なコスプレだと思われているらしい。


(まさか、本当に異世界から迷い込んできたなんて、誰も思わないよな……)


 僕は小さくため息をついた。

 都内で働くしがないサラリーマンの僕が、なぜか数日前に自宅のクローゼットから飛び出してきた彼女を保護し、こうして有給休暇を使って瀬戸内を案内する羽目になっている。

 彼女のいた世界には海がなく、どこまでも続く土煙の舞う荒野ばかりだったという。


「こんなに巨大な鉄の箱が、海の上を飛ぶように走るなんて……! この『でんしゃ』という乗り物は、一体どんな魔法を使っているんですか!?」


「魔法じゃなくて、電気とモーターだよ。それにここは海の上っていうか、すごく長い橋の上を走ってるんだ」


「橋……。ケンタのいた世界は、本当に信じられないことばかりです」


 ミアは感心したように頷き、ピンと立った耳を嬉しそうに揺らした。


「もうすぐ四国の香川県、高松駅に着くよ。そこからは港に行って、フェリーっていう船に乗るんだ。小豆島や、瀬戸内の島々を巡る旅の始まりだよ」


「ふぇりー! それはこの『でんしゃ』よりもすごい魔法ですか!?」


「だから魔法じゃないって」


 ガタンゴトン、とリズミカルな音を立てて、列車は四国へと近づいていく。

 窓から見える穏やかな海と、そこに浮かぶ緑豊かな島々。

 ミアのワクワクした笑顔を見ていると、日々の仕事の疲れも少しだけ潮風に溶けていくような気がした。


◇◆◇


 高松港からフェリーに乗り込むと、潮の香りがぐっと強くなった。

 甲板に出たミアは、海風に髪と猫耳を大きく揺らしながら、胸いっぱいに空気を吸い込む。


「ンーッ! 少ししょっぱい匂いがしますね!」


「海風だからね。瀬戸内海は波が穏やかで、景色がすごく綺麗なんだ。オリーブの公園に行ったり、美味しいものをたくさん食べようか」


「はいっ! わたし、ケンタと一緒ならどこへでも行きたいです!」


 満面の笑みを向けるミアに、僕は少しだけ照れくさくなりながら、広大な海へと視線を向けた。

 遠くでフェリーの汽笛が、ボーッと空高く鳴り響いた。


「面白かったら、下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にしてください!出版への大きな力になります!」

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