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作者: VISIA

本日は、不思議な体験をした2人の話を紹介いたします。

(収録日、2xxx年8月22日)


 日本で最も人数の多い名字の私は、今年で満82歳になります。


 ええ……最近まで"廃墟めぐり"してまして、それはもう……日本各地の情報を独自開拓ルートで集め、実際に現地に行って取材したりとか、廃墟達の行く末を肌で感じ取るとか……ああ写真、写真見ます?……え、そうですか……残念。


 いやはや、仕事や家族にも迷惑かけるくらいの"キ◯◯◯"の自覚は有るのですが……妻には、いつも心配かけてました。


 因みに、妻の旧姓は、当時の日本で2人だけ生存が確認された、極めて珍しい名字なのですよ……自慢ではナイですが……ああ写真、写真見ます?……え、そうですか。



 ……マサカリ(Massacry)かぁつい出禁だろぅ……ああ、スミマセン、今から20年前に訪れた、廃村跡の話ですね。


 「あれは、わ……」



────男性の話の内容に度々出てくる、数多くの令和の時代に相応しくない言葉の表現、及び、3時間を越える長時間の収録話量などの諸事情により、文字起こしされた全文の直接掲載は不可能という当編集部の判断に至り、話の要所部分を掲載規約に従い修正を加えての掲載となります、どうぞ御了承ください。



 私の得た当時の都市伝説情報では、今から200年ほど前のA村で、村在住40代女性の腹が異常に膨らんだ病気を、無知な夫が話を歪ませて村長関係者に話した為、更に話が歪み、村長がソレを魑魅魍魎との不純な行為が原因だと騒ぎ出したのが、悲劇の始まりらしい。


 当然ながら、最高権限を持つ村長の判断や指示は絶対で、そのまま鵜呑みにしてソノ事象を"祟り"として恐れた村人達は、下流域のB村へ"祟り移し"をする事でA村を救おうと結束し、躊躇無く、隣村であるB村の井戸に、腹の膨れた女性を生きたまま投げ捨てたのだ。



────数日過ぎて、病気の感染がB村ほぼ全ての村人達に広がると、短期間で多くの人達が死に、A村の村長判断の正しさが証明されてしまった。


 その後、A村の誰もが表情には出さなかったが、B村の人達への罪悪感は、世代が代わるまで残り続けた。


 それはB村の、(埋められた)井戸跡の近くに、A村の誰かが小さな石の墓を密かに作り、形だけの供養だけでも行わせる程に(だが、生き残りのB村の人達に見つかり、仕返しされたとも言われている)。


 だが、結局A村は、B村と同時期に廃村になったらしい。




 いつの頃からか、ソノ元B村の井戸跡に、ひっそりと泉が湧き始める。


 そして20年前、私は、曰くを知らない若者達がソレを見つけた、と言う噂を聞いた。


 噂では、僅かに塩味が感じられたソレは少々泡立つ黄色い水だった為、発見した若者達から"聖女の聖水"と名付けられる。


 水質的には、そのまま飲むのは問題ないそうだ。


 だが、その噂の場所を日本中探しても、私は見つけられなかったのだ……目的地まで、目と鼻の先まで近づいている筈なのだが。


 仕方なく、疎遠の友人を接待して情報を買った時、考え方が文字通り"ズれて"いたのに気付かされた。


 簡単に説明すると、大きな地震の地割れで土地がズれた写真を見たことがあるだろう?


 下図のように、


    B村?

→山山山│道│山 →

→山山山│道│山 →

山│道│山山山←

山│道│山山山←

山│道│山山山←


 土地がズれた事で、B村へ続く道(ほぼ獣道状態)が完全に塞がれ封印されてしまった様なのだ。


 続けて、友人は、


「村の近くには、必ず川が流れている。」


という、情報を追加で売ってくれたが────


(この日会った友人が、実は前日に亡くなっていたことを後で知り、コノ人物が誰なのかは未だ不明である。)



 確かに、上記の図の"B村"推定位置を挟んで反対側に、水量低下を待たなければ渡れない汚ない川が有ることを、現地で確認できた。


 私は、ソノ川を"三途の川"と呼ぶことにした。




────そして、その"三途の川"を渡れないまま、2年が過ぎた。


 その年は、破滅的酷暑日が何日も連続する異常な夏を迎え、全国の名の有る河川の水を容赦なく消し去っていた。


 悲嘆なニュースばかり流される中、私だけは待望の夏とばかりに、有給取得を早々に済ませ、妻に内緒で予定を立て装備を整え、彼女の寝ている深夜に静かに家を出る。



 2日かけて目的地である"三途の川"に到着すると、対岸へ上がれそうな場所を探し、干上がった川の底を歩いて渡った。


 高さ2mほどの対岸の土手の斜面を枯れた草を両手で掴みながら上った先には、対岸から見えた景色そのままに、雑に並ぶ手入れ無き木々と、私の歩みに手荒く抵抗してくる様々な背丈の雑草など、『来るな』とばかりの酷い歓迎である。


 来るな、と言われれば行きたくなるのは人のさがであり、私は日没後も奥へ奥へと進み続けた。



────途中、1匹の蛍が目の前を横切る。


 私は、蛍に誘導されて、更に奥へ入っていく。


 やがて、蛍は力尽きて地面に落ちてしまったが、その蛍が最後に数回明滅させた光が不自然にゆらゆら流れていくのを見て不思議に思い、地面に顔を近付けると、少量の水の流れが確認できた。


(これが、聖水だろうか……?)


 水の流れは、"逆さま"に上半身だけ土に埋められた人が広げる両脚のように生える、2本の木の間から始まっていた。


 私は、試しに"聖水?"を、舌で舐める。


 一瞬、妻の"モノ"と同じ味がした為、私はコレを"聖水"だと確信し、同時に喉の乾きが癒される思いがした。


 私は、ここで野宿することに決めてテントを設営すると、安らかに眠りに落ちた。




────ソノ夜、夢を見る。


 古い粗末な木造の、雨風を"しのげる"だけでマシな程度の民家に、客人として招き入れられた夢。


 藁で編まれた敷物上で正座する私を、優しそうな婆様と爺様が、小さな囲炉裏を挟んで私と反対側に2人並んで座り、終始微笑んでいる。


 私の膝前には、黄色の"お茶"の入った客用の湯呑みと、花林糖を輪切りにした様な乾菓子を数個のせた小皿が、(私を試すように)置かれていた。


────乾菓子を1つ指で摘まみ、口の中へ入れる。


 乾菓子の固い食感が、口内の唾液を吸って柔らかくなるにつれ、元の正体を見せ始めた。


 先味の酸味……油味……苦味……臭み・嫌悪……そして真実の後味……"糞"。


 私は刹那、囲炉裏に全てを吐き出し、口直しに、お茶を一気飲みした。


 だが、その黄色い人肌の液体が胃に到達する前に体が本能的に拒絶し、再び囲炉裏に全てを吐き出していた。


 それを見ていた婆様が、優しそうな表情で自身の粗末な着物の裾を捲り、綣から下を全てアラワニスルト、


「もう一服(もう1杯)どうじゃ、湯飲み出しなされ。」


と、お茶の2杯目を優しく強迫する。


 とある田舎の昔の"しきたり"では、お茶の1杯目は必ず90%以上飲み減らし、続けて2杯目を注がれたら、1口以上飲む決まりが有った。


────ソレを済まさないと帰れない、田舎のローカルルールである。


 断りきれず、湯飲みを、婆様が差し出す縁の付いた丸い木の板の上に乗せる。


 婆様は、その木の板を足元横に起き、湯飲みを持ち上げ股下に当てると、ジョボジョボと音を立てながら、人肌の一番茶を注いでいく。


 続けて、2番茶を爺様の湯飲みの中へ。


 最後の1滴は、直接、爺様の口の中へ雫を飛ばした。


 そして婆様は、私の使っていた湯飲みを再び木の板へ乗せ、その木の板を私へ差し出した。


 私は無意識に、ソノ湯飲みを受け取り、湯飲みの中の黄色い"お茶"の水面を見る。


────灰色の茶柱が1本、ゆらゆら浮いていた。


 私は、ソノ"お茶"を1滴も飲めなかった。


 湯飲みに伝わる温もりを両手で感じながら、1秒でも早く、夢からの"覚め逃げ"を願っていた。





 無口な爺様に対して、婆様は私に興味津々で、色々と質問してくる。


 婆様は、重箱の隅を精密につついてくる、話上手・聞き上手の化物だった。


 ソノ婆様の自白剤のような話術に、私は全く対応出来ず、口すら閉じる事を許されない心地がして、実に気持ちが悪い。


 妻の自慢話なども、話の流れで婆様に話さざるを得ない事態だ。


 その妻の自慢話の時は、婆様は特に興味を見せず、すぐ次の話題に移されたが暫く会話が続いた後、急に婆様が、


「ところで……」


と、話を妻の話題に急に戻し、少し表情を曇らせて(瞼から上を険しくさせた)聞いてくる。


────私が緊張して身構える程に、婆様の口調が低く低くゆっくりと、怒りも含ませて話し始めた。


 「ところで、客人の嫁様は◯◯とか◯◯とかの体の特徴は有るかい?」


「え、まぁ……はい、有りますが……。」



「コノ国に2人しかいないとか、珍しいからねぇ……試しに聞いたのだが。」


「……。」


「隣のA村にも、珍しい人達がいてね、何世代か近親相姦が続いた家系だそうだが。」


「……。」


「ソイツらも◯◯とか◯◯とかの身体的特徴が出てるのだとさ……」


「……ええと、」



「B村の生き残り全員で……A村全員、根絶やしにしてヤったのだがな……生き残っていたか。」


「……。」


「知っているのだろう?……全てを。」


「……。」


「ああ、暗い話になってしまってスマンね、これから外で用事を済ませてくる、から……夕飯出来るまで、ゆっくりしていておくれ。」


「……。」


 婆様が、鍋を掴んで外へ出て姿を消すと、今まで一言も話さなかった爺様が、中腰で私の隣まで急いで来て、膝立ちで座り、私の耳元で囁いた。


「客人客人、いま婆様は外で野糞してるから、暫くは帰ってこない。」


「……。」


 爺様は簡潔に、私の知る"祟り移し"の都市伝説と似た話をして、



「被害を受けたB村の人達は、A村に関わる末代までの全ての人間に恨みを持っている。」


と話し、


「客人の嫁様も、A村の"ソイツら"と同じ血筋のようだ。」


と、付け加え、


「客人の嫁様の話を聞いた婆様が、顔は笑っているが心の内では鬼になってしもうた……早く家に、"真っ直ぐ"急いで帰りなさい……今すぐ、婆様に客人の嫁様が襲われる前に……婆さマハ、ァノトキ孫ヲ亡」


「……。」


────その時、私は夢から戻ってきた。


 夢の内容が気になって、爺様の言う通り急いで、妻の待つ自宅を目指して"真っ直ぐ"帰った。



 自宅玄関前。


 私は、息を整える間も無いまま、玄関のドアを勢いよく開けた。


 その時、


「あっ」


という妻の、小さな声を確かに聞いた。


 だが、その日は家中探しても(何処かに隠れたらしい)妻を見つけられなかった。



(後に友人に電話で、経験した事を全て話すと、そういう時こそ寄り道をして、背後から追ってくる憑き物を直接家へ招き入れない事が重要だ、と指摘された。)


 それから夜になると、妻を探して家中をウロツク、婆様と爺様の足音が五月蝿くなる。


 それが、毎晩繰り返される様になると、寝ている私の所へ来て、妻の居場所を執拗に聞いてきた。


 田舎のローカルルールが適用されるため彼らは、私が用意した緑茶には口をつけず、いつまでも居座り続ける。


 仕方なく私は、夜勤の仕事に転職し、夜間に家にいる時間を減らす。


 


 生活環境が変わって数日過ぎた午後、私が洗面所の鏡の前に立って歯を磨いていると、鏡に写る私の背後の天井に、今まで隠れていた妻が、蜘蛛のように逆さに貼り付いていた。


 その時、私は妻と話し合い、早々に結論を出す。


 そして、婆様・爺様に気付かれずに引っ越し出来るよう段取りを進め、近所への挨拶も無いまま、コノ家を捨てて逃げたのだ。


 引っ越した先は、田舎特有の自然に囲まれた環境で、近所に住人がいない静かな場所だった。


────そこが、旧A村だとは知らずに。



 引っ越した次の日から、何らかの情報を得て、心霊スポットや廃墟を常に求める若者達が、コノ地を訪れるようになる。


 そして、私達の住む家の敷地内に勝手に入って来ると、落書きやら破壊やらの酷い行為に及ぶ。


 私は、我慢できなくなって、手に持った草刈り鎌を振り回したり、物を投げたりして若者達を威嚇した。


 だが、それで一時的に追い返せても、更なる興味を持った別の若者達やらマスコミやら次々とヤって来てヤって来て、キリ(killing)がない。


 仕方なく私達は、再び引っ越しせざるを得なくなったが、次の引っ越し先が元B村だと……後で……知って……ああ何故、私はコノ話の先の記憶を失っているのだ……。

────ありがとう御座いました。では次の方、お願いします。



(収録日、2xxx年8月18日)


 友人の友人から聞いた話なのですが、昔……仲の悪いA村とB村が有って、水源の所有権を巡って、争っていたそうです


 結局は、その水源が枯れて、両村共に村で暮らせなくなって、村人達が去っていったそうなのですが。


 それから長い年月が過ぎて、コノ地に流れ着いた人達が再開拓して、A村跡に新しい村が出来たそうですが、結局は短期間で廃村になったそうです。



 この前、そのA村に行く機会があって、行ってみると、廃墟が有ったので、好奇心から入ってみました。


 1LDKくらいの木造の廃墟で、落書き等もあり、だいぶ荒らされてました。


 ソノ屋内を数分ほど探索して帰ろうとした時、自分の後ろから突然大きな声(男性の低い怒鳴る声)がしたので、驚いて振り向くと、手に鎌を持ってコチラに襲い掛かってくる黒い影が見えたので、死に物狂いで逃げました。


────アレは、何だったのでしょうか。


 今は、"破滅的酷暑の夏"の次に訪れた"終末的12日間雷雹雨"で全て流されて、A村跡・B村跡ともに全て無くなってしまったそうです。


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