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3. 彼女たち

「――あたしと勝負しようか」


 まさか、葵さんにこんなことを言われるとは。

 女子なのにどこか貴公子のような雰囲気。

 そしてあのスマッシュ――

 様々な感情が混じり合い、僕はその場で固まってしまう。


 でも――僕だってこれまで頑張ってきたんだ。

 一応中学時代はエースと言われていたのだから。


「……うん。勝負しよう、葵さん」


「よし、じゃあいくよ」


 向こう側にいる彼女と僕の視線が交わった瞬間、強風のようなサーブが飛んでくる。


 いきなりそういう球を打つのか。

 僕はラケットを握り締めて打ち返す――が、彼女も一瞬で返してくる。


 ラリーが続いていると思いきや、追いつけなかった。

 その鋭いスマッシュに。


「竹宮君、次いくよ?」

 彼女はふっと笑ってまた試合が始まる。


 しかし、無理だった。

 僕もポイントを取ったものの、あっという間にマッチポイントを取られてそのまま彼女が勝利した。

 

 女子に……負けた。

 いや、女子だからなんて思っちゃいけない。

 あれが葵さんの実力なんだ。


「ありがとう、竹宮君。やっぱり男子卓球部の方が練習しやすいな」

「……ほんとに強いな」

「竹宮君も頑張って。ほら……奈々美ちゃんがいる」

「え……」


 体育館の入口の方を見ると、何人かの女子がいてそこに奈々ちゃんもいた。

 彼女は美術部。ちょうど終わったところだろうか。


 ――見られたのか、葵さんとの勝負を。


 そして解散してから奈々ちゃんの方に向かう。

 僕は悔しくてまともに彼女の顔を見ることができなかった。



「奈々美ちゃん! 来てくれたんだ」

「葵ちゃん……! すごいね……びっくりした」

「まだまだこれからさ。あ、じゃあね竹宮君。次の勝負も楽しみにしてるよ」


 葵さんはそう言って帰って行った。


 去り際までかっこいいと、女子達の声が聞こえてくる。

 何者なんだよ……あの人は。


「はるくん……?」

 奈々ちゃんが心配そうにしている。


「あ……情けないところ……見られたかな」

「そんなことないよ、はるくんも頑張ってた」


 体育館前――皆が帰って周りはほとんど人がいない。

 奈々ちゃんが僕の手を握ってくれた。



「はるくんは……大丈夫だよ」



 彼女が僕の目を見て優しい声で言う。

「大丈夫」を……今度は僕が言ってもらえるなんて。

 奈々ちゃんがいて、良かった。


 今日は学校から手を繋いで帰った。

 それでも胸の奥ではまだ、葵さんのスマッシュの音が残っている。

 

 彼女の手を握っているのを誰かに見られているかもしれないけど、こうでもしないと落ち着かなくて……それを奈々ちゃんはわかっていたのか、何も言わずにいてくれた。


「そうだ、美術部どうだった?」

「去年文化祭に行った時の先輩に会えたよ、すごく喜んでくれた」


 奈々ちゃんと僕は見学を兼ねて、この高校の文化祭に行ったことがある。美術部の展示を見た時に、彼女は先輩たちと熱心に話をしていた。そう、奈々ちゃんは美術部に入りたくてこの高校を志望していた。


「良かったね」

「あとさ……1年ですごく綺麗な人がいて……しかも市のコンクールに入賞したこともあるんだって。だから私も……その……ちょっと不安になっちゃった」

「え……コンクールってすごいな」


 星山岡高校は美術部も熱心と聞いている。奈々ちゃんもエース級の同級生がいたからきっと驚いたのだろう。もしかしたら僕みたいに。


「それでね、その人……はるくんと同じクラスだよ」

「え? あ……もしかして」

「そう、西桜(にしざくら)さん」


 西桜(にしざくら)麗子(れいこ)

 席が遠くて喋ったことがないけれど、美人すぎてクラス中がざわざわしていた。

 どこかのお嬢様だという噂まで流れている。彼女が奈々ちゃんと同じ美術部だったなんて。


「確かにあの人……何かすごそう」

「でしょ? だから……その……」


 奈々ちゃんが恥ずかしそうな顔をしながら言う。


「私にも大丈夫だよって言ってほしいな……」


 ――可愛い。

 小さい子のおねだりみたい。

 とか言ったら怒られるな、きっと。

 

 僕は彼女の手を握ったまま自分に引き寄せる。

 奈々ちゃんは少し顔を赤らめて僕に甘えた表情をしている。



「奈々ちゃんも、大丈夫だよ」



 お互いに胸の中にぽっと陽が灯ったような気がして、照れくさくて僕たちはうつむいてしまった。


「うん……大丈夫だよね。はるくん」

「そうそう、僕たちは大丈夫なんだから」

 

 言葉よりも、握った手のぬくもりがそれを確かにしてくれた。



 ※※※



 その数日後にクラスで席替えがあり僕の隣の席は――西桜さんとなった。

「竹宮君、どうぞよろしくね」

「うん、よろしく……」


 間近で見て驚いた。色白の艶やかな肌に凛とした表情。絹のようなロングヘア、美しくも強さのある瞳。

 しばらくじっと見てしまう。


「あら、どうかした?」

「いや……その……ごめん。じろじろ見ちゃって」

 

「ふふふ……竹宮君って見ていて飽きないわね」


 は……?


 何だか歳上のお姉さんに気に入られた男の子みたいになっているような。同級生なのに。というか大した話もしていないのに飽きないって何だ? まぁいいか。


 あとは、何だろう。

 妙にクラスの視線を感じたが、それ以上に隣の西桜さんが綺麗すぎて授業になかなか集中できない。


 窓から風が入り込み彼女の髪がサラサラと揺れると、ほのかに花のような香りがして胸の奥がドキっとしてしまう。

 こんな同級生は初めてなので、どう接したらいいかわからないけれど、特に気にしない。気にしないっと……。


 

 昼休みに西桜さんに声をかけられた。

「竹宮君はどこの部活?」

「卓球部だよ」

「中学から?」

「うん」


「それは強そう。私も卓球はね、好きよ」


 好き?

 あ、卓球のことか。

 西桜さんに言われると緊張してしまうな。


「西桜さんは、美術部だよね」

「あら、知ってたの?」

「美術部の子から聞いて。コンクールも入賞したって」

「そうなの。絵を描いていると落ち着くのよ」


 西桜さんが絵を描いている姿がすぐに想像できる。しなやかで美しくて……何でも麗しく見えそう。


 そう思っていたら、彼女が急にスケッチブックを取り出した。パラパラとめくって白紙部分を見てから僕の方を見つめてくる。やっぱり綺麗な人だな。


 そしてふいに彼女はこう言った。


 

「竹宮君、ちょっとモデルになってくれない?」

 


 気づけば、その瞳に吸い寄せられそうになっていた。

 

 


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