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10. テーマパーク

 夏休み中に僕たちは都会にある、有名なテーマパークに行くことになった。そこまで遠くはないが、一日中遊ぶとなると帰りはかなり遅くなる。


 ――ということで1泊2日で行くことになった。

「すみれちゃん達と卒業旅行してなかったから、旅行するって言ったらオッケーもらえたよ」


 奈々ちゃん、やるな……。ちなみにすみれちゃんというのは彼女が中学時代に一番仲が良かった友達である。



 当日は朝早くに駅前で待ち合わせた。奈々ちゃんは動きやすそうなジーンズとTシャツ。ハットも被っていていつもと違うのが……また可愛い。


「楽しみー♪ 何乗ろうかな」

「奈々ちゃんの好きなところで」

「え? じゃあ……はるくんは?」


 やっぱり僕たちはなかなか決められないらしい。


 パークに到着して大きい荷物をロッカーに預けてから、僕たちはゲートをくぐる。夢の世界を駆け抜けたい。


「まずは、あの船にする?」

「うん!」


 奈々ちゃんの手を取って小さなクルーズ船に乗り込む。何故かよろけそうになった彼女の手を反射的に強く握って引き寄せた。

 ちょっとしたことでも守りたくなる……それが奈々ちゃんだ。


 すでに奈々ちゃんが照れていて、さらに彼女に夢中になる。こうして僕は日々、奈々ちゃんを好きになっていく。


 橋の下をくぐってパーク内の景色を眺めた。太陽が燃えているような暑さの中でも、川を見て風にあたるだけで、少し癒される。


「あ、私……あれ気になってたの」

 奈々ちゃんが降り場で見つけたのは、パークのキャラクターに会えるハウスだった。

 小さな子どもみたいで可愛い……と言うと怒られそうなので、「うん、行こうか」と行ってそこに向かう。


 キャラクターに会えた奈々ちゃんは目をキラキラ輝かせてハイタッチをしていた。それをスマホのカメラで何枚も撮影する僕。最後はキャラクターをはさんで2人で写真を撮ってもらった。


「可愛いかったー! 小さい頃お母さんに連れて行ってもらったみたいなんだけど全然覚えてなくて。今日はるくんと来れて良かった」

「そうなんだ、僕も子どもの頃に行ったきりだから、実質今日が初めてみたいなものかな」


「本当? 嬉しい」

「僕も。あと奈々ちゃんずっと笑顔だったね」

「あのキャラクターのファンみたいなものかな」

「ハハハ……」



 次はホラーハウスに入りたいなと思ったけど……奈々ちゃんは苦手だったっけ?

「ねぇ奈々ちゃん、ここのホラーハウス気になるんだけど」

「え……怖い?」

「怖いというか……暗いけど愉快なゴーストがいて面白そうかなって」


「……」

「……」


 

「はるくんにつかまっててもいいなら、行く」


 

 ――心の中でガッツポーズをする。

 むしろずっとくっついてて欲しいです、うん。


 

 奈々ちゃんが僕と腕を組んでこれでもかというぐらい密着している。10人弱のグループになって中を案内されるが、エレベーター内で彼女は少し震えていた。


「大丈夫だから、奈々ちゃん」

 そう言いつつ僕は別のことを考えてしまう。彼女がこんなにしがみついてくれるなんて……思わず奪い去りたくなる衝動に駆られる。

 

「きゃぁっ」

 小さなコウモリのキャラクターが出てきただけで、びっくりする奈々ちゃん。やっぱり無理させてしまっただろうか。


「だ……大丈夫だもん」

 強がってる彼女もまた可愛い。あ、いけない。奈々ちゃんばかり見ていた。


 でも、心配になる。

 大好きな奈々ちゃんをこんなに怖がらせていいのか……。


 

「はるくん」

「ん?」

「ちょっと慣れてきたかも。よく見たら人懐っこいゴーストさんだよね。笑ってるし」


「それが面白いかなって思ったけど……本当に大丈夫?」

「うん……はるくん、ぎゅってしてほしいな」


 ちょうど中間地点で何も出てこない場所だったので、奈々ちゃんを抱き寄せた。

 やっぱり子どもみたい……だけど好き。


 

 暗がりだったのでこっそりおでこにキスをした。


 

「は……はるくん……」

「何?」

「余計ドキドキする……」

「ハハ……僕も」

「え? そうなの?」


 

「奈々ちゃんがずっとくっついてるんだよ? 何も思わないわけないじゃん」



 彼女が恥ずかしそうにうつむいている。

 もうこのまま誰にも見せずに抱きしめていたい。


 だが中間地点でこんなことをしている間に、何組かに抜かされていたような。まぁいいか、奈々ちゃんのメンタルの方が大事。


 僕たちは腕を組んで後半のエリアに向かっていく。

 奈々ちゃんは「きゃっ」と言いながらもどうにか耐えて、出口まで来た。


「奈々ちゃん、大丈夫だった?」

「うん……はるくんがいたから。あの妖精みたいなゴーストだけ可愛かったね」

「確かに」


 まぁ一番可愛いかったのは、怖がったり甘えたりしていた奈々ちゃんだよな。

 

 僕たちは、ランチを食べてから午後もパークを満喫した。館内のショーやちょっとしたシューティングゲームなど、2人でめいいっぱい楽しんだ。


 

 

 夜になると水上ショーと花火がある。

 観覧席はいっぱいで立ち見する人もたくさん。


「まだかな……」

 わくわくしている奈々ちゃん。ドキドキしている僕。(もちろん、ショーが始まるからではない)


 そして豪華な音楽と共にキャラクター達が船に乗って登場し、光輝くミュージカルが始まった。

 

 手拍子をしながら隣にいる奈々ちゃんを見ると、「わぁー!」と嬉しそうな笑顔になっている。こんなに誰かの喜ぶ顔を見るのが幸せだなんて。


 

「はるくん、綺麗だね」

「うん……楽しい」


 

 最後は夜空に花火が打ち上げられ、どこまでも余韻を残すような煌めきを纏ってキャラクターたちが手を振っていた。


「あぁ……感動しちゃったよ」

 奈々ちゃんが涙ぐんでいる。中学の時から彼女は感極まると泣いてしまうことがあった。それがまた愛らしく見える。


「奈々ちゃん……」

 肩を抱き寄せて髪を撫でる。彼女は僕に寄りかかって甘えた顔をする。


 

「ありがとう、はるくん」

「こちらこそありがとう……奈々ちゃん」


 

 閉園時間となり僕たちはパークを後にする。

 彼女と一日中楽しめて満足だ。


 そして電車に乗って宿泊先へ向かった。

 ゆっくり休んで明日また楽しもう――。


 


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