12 古城に響く不穏な水音
伝書鳩アベルは、凛とした姿で真っすぐ空を飛ぶ。
その背を追うように、二頭の馬が森の道を駆け抜けていた。
「そんなに飛ばしたら、馬が持ちませんよ!」
「わかってる!」
枝葉をかき分け、地面を蹴り上げながら、馬は全速力で走る。
アベルの脚には、霊獣【アシダカグモ】サスケの細い蜘蛛の糸が巻かれている。
それを目印に、エトは迷いなく馬を走らせていた。
リクも必死に手綱を握り、エトの後ろを追う。激しい揺れに、ダンさんはたまらず丸くなり、リクのローブの内ポケットに潜り込んでいた。
エトは胸元から一枚のメモを取り出す。
アベルが運んできたものだ。
「北のアルク地方……古城までは、この森を抜ける必要がある」
夕暮れの空を睨み、エトは目を細めた。
「あと一時間で日没だ! 夜の森は魔物と遭遇する確率が跳ね上がる! 急げ!」
「わかりました!」
リクが叫び、さらに馬を走らせる。
その衝撃で、ポケットの中のダンさんは何度も上下に揺れ、完全に目を回していた。
エトは歯を食いしばる。
(ダニエルさんが消息不明になって……一週間)
握りしめたメモには、ヤコブの速筆が走っている。
『北アルク地方・古城地下牢
ダニエル、ララ生存確認
エト、リク
両名でダニエル救出へ』
紙がくしゃりと音を立てるほど、エトは強く握りしめた。
(……間に合え)
馬はさらに速度を上げ、夕暮れの森を駆け抜けていった。
───
北部アルク地方 古城地下牢
ぴたん……。
静まり返った石の部屋に、湿った音が響く。
しばらくして、また――
ぴったん。
ララが顔を上げた。
「……またね」
薄暗い天井を見上げる。
「どこかから、水が落ちてるみたい」
ララは少し顔をしかめた。
「たぶん……コウモリの尿ね」
「さっきまで柵の近くにいたコウモリ達、見かけなくなったわ」
その時、ダニエルがふと眉をひそめる。
「……妙だな」
石の隙間から、
ほんのわずかに水がにじみ出ていた。
地下牢の奥では、かすかな水の音が続いている。
さら……さら……
だが、ララもダニエルも、その異変に気づくことはなかった。
───
王城 マルコ私室。
静かな部屋の中で、ひとつの砂時計が机の上に置かれている。
さら……さら……
細かな砂が、静かに落ち続けていた。
椅子に深く腰掛けたマルコは、ゆっくりと足を組む。
その様子を眺めながら、口元を歪めた。
「……あと、もう少しだな」
ニヤリ、と笑う。
砂は静かに落ち続けていた。
続く




