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11 チェスの誘い

 王城・第一王子私室前。

重厚な扉をノックすると、低い声が返る。

「入れ」


 ヤコブは深く礼をして部屋へ入った。

広い部屋の奥、机に向かっていたマルコが視線だけを上げる。


「ヤコブ副総艦か。例の報告書だな」

「はい。農業村リリンの魔物襲撃についての詳細報告書をお持ちしました」


マルコは紙束を受け取り、ぱらぱらと目を通していく。


「……では、農業村が魔物に襲われた時、

たまたま霊獣管理協会のヨハネ達が旅行で来ていたと」

「えぇ……偶然です」


「そして……お前とマタイはユダの捜索に向かい、偶然ユダを捕獲した……と」


ヤコブは落ち着いた表情のまま頷く。

「報告書にもありますが、私の伝書鳩が反応したため、行方を追っただけのことです」


マルコは書類を机へ投げるように置いた。

「……まぁいい。だが覚えておけ。王令なしに勝手な独断行動をすれば――

お前たち全員、処分させるからな」


ヤコブは微動だにせず、深く頭を下げる。


「そのような真似をするつもりはございません」


マルコは椅子に身を預け、ふっと息を吐いた。


ヤコブはその視線の先に、

壁際の小机に置かれたチェス盤を見つける。


「殿下は……チェスがお好きなのですか?」


マルコが少しだけ目を細める。

「まぁな。暇つぶし程度だ」


ヤコブは静かに微笑んで言った。

「もしお嫌でなければ……わたくしと、一局いかがでしょう?」


マルコは少し考えるそぶりを見せ、

報告書を指先でトントンと叩きながら答えた。


「……良いだろう。だが今はこの報告書を読まねばならない」


そして笑みを深める。

「明日の昼はどうだ?」


「えぇ。ぜひ、殿下」


ヤコブは深く礼をして部屋を後にした。


──


 ヤコブは、二日前の出来事を思い出していた。


 執務室の窓辺に、一羽のカラスが舞い降りた。

 姉――エステルの霊獣だ。

カラスはくちばしから手紙を落とし、静かに翼をたたむ。


 ヤコブは封を切り、素早く目を走らせた。


そこに書かれていたのは――

マルコ殿下が、強引にエステルの部屋へ入り、まるで何かを探るように室内を調べていたという報告だった。

 

(……だが)

 ヤコブは静かに息を吐く。


(この手紙だけでは、リリン村襲撃の黒幕と断定するには証拠が足りない)

 推測では、人は裁けない。

 

 ヤコブはゆっくりと顔を上げ、窓の外を見据えた。

 

(……明日の一局で)

 わずかに目を細める。

 

(少し、探らせてもらいましょう――マルコ殿下)

 



続く

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