10 霊獣[伝書鳩]アベルの初任務
霊獣管理協会本部。
ヤコブはの中で膝に肘をつき、深く頭を抱えていた。
「……部下は攫われ、居場所も分からず……ナナ、モーセまでも失ってしまった……。すべて私の力不足だ……」
重い静寂が落ちていた。
胸の奥に黒い影が広がっていく。
そのとき――
パサッ……パサ……ッ!
窓の隙間から、小さな羽音が転がり込んできた。
「……?」
ヤコブが顔を上げると、泥と砂にまみれ、息も絶え絶えに羽ばたく小さな雛鳥がそこにいた。
「……お前……モーセの雛か?」
声が震えた。
つい先日、やっと空の飛び方を覚えたばかりの小さな雛鳥だった。
───
時は遡る。
マルコの銃が霊獣[伝書鳩]モーセを貫いた時。
雛鳥は木陰に身を潜め、震えながらその瞬間を見ていた。
そして――マルコは銃を打つ時は聴覚の拡張を切っていた。
小さな羽音など拾える状態ではなかった。
マルコが去った後、雛鳥はよろよろと親鳥へ駆け寄る。
「……ピー……」
小さなくちばしでモーセを何度もつつく。
(起きて……)
けれど、モーセは二度と動かなかった。
「さっさと運べ!」
泣いている暇などなかった。
遠くで、意識を無くしたダニエルが馬車に連れ去られる光景が目に入った。
雛鳥は震える羽で――
必死にその馬車を追った。
木の枝にぶつかりながら、何回も地上に落ちた。
そしてついに、ダニエルが監禁された古城の場所を突き止めたのだ。
──
砂だらけの体で、限界寸前。
それでも雛鳥はヤコブの前まで飛んできた。
ヤコブの胸が締めつけられる。
「……お前……モーセがやられた時に一緒にいたのか……。こんな小さな体で……よく……」
気づけば涙が落ちていた。
「勇敢だ……さすがモーセの子だ……」
ヤコブは震える指で雛鳥をそっと抱き取る。
「よし……お前の名はアベルにしよう」
「アベル、私と契約してくれるか?モーセの敵を、一緒に討ってくれるか」
雛鳥は弱々しく、しかし確かに首を縦に振った。
ヤコブは左目に手を当て、アベルの目へとそっと触れる。
「私、ヤコブは――伝書鳩アベルを霊獣と認め、ここに契約する」
その瞬間、
ヤコブの左目とアベルの瞳が淡く光を放った。
ヤコブは、立ち上がった。
暗かった瞳に、再び力が戻っていた。
「霊獣[伝書鳩]アベル。最初の任務だ」
アベルが翼を震わせる。
「私の屋敷にいるエト、リクに――ダニエルの居場所を伝えよ。共に救出へ向かえ。死力を尽くせ!」
アベルは力強く羽ばたき、空へ舞い上がった。
その姿を見送りながら、ヤコブは静かに呟く。
「……私にできることを、必ず果たす」
そう言うヤコブの顔は、もう沈んでいなかった。
続く
ヤコブの霊獣契約について
ヤコブは霊獣[伝書バト]使いで最大で50体の伝書バトの視覚を共有出来ます。
彼が18歳の成人の儀式の時、召喚されたのは
霊獣[伝書バト]ナナでした。
伝書バトはほとんど魔力を使わず、ヤコブの霊力消費量は少ないため、複数契約が可能です。
同じ種族の伝書バトとヤコブは互いの同意があれば霊獣契約が出来ます。
しかし、50体の視覚を共有する事は常に脳の思考の切り替えが必要な為、ヤコブの頭脳でなければ不可能です。
※人間は2つの事を同時に思考する事は不可能と言われています。




