第6話 王都からの仕事依頼
数日後の朝、空を切る風音とともに――
一羽の伝書バトが、窓からズカズカと入ってきた。
目つきが鋭く、首には金色のメダルがぶら下がっている。ナナと書かれている
「……初めて見る伝書バトだな」
そう思った次の瞬間――
「いだだだっ!!」
俺の頭にバシバシとくちばしが刺さる!
「いった……! なんだコイツ!」
手紙を押しつけるように渡すと、若バトは屋根梁へふわりと飛び、
先に休んでいたおじいちゃん伝書バトの隣で、きりっと姿勢を正した。
蝋で封がされたその手紙には、王都の紋章が刻まれていた。
「リク、王都からの仕事依頼だ! 早く読め!」
「えっ……俺に?」
───
手紙の内容は、想像を超えていた。
『隣町の畑が魔物の瘴気に汚染され、小麦が全滅。土壌の浄化を要請する』
土地は枯れ、作業者は近づくこともできないという。
魔物の影響が関わる仕事は、王都の霊獣管理協会本部が管轄しており、
霊獣伝書バトによって最適な霊獣と使い手が指名・派遣される。
中でもこの若バトは、王都所属のエリート中のエリート――“特命伝書バト”霊獣ナナ。
つまりこれは、「最優先で行け」という命令だ。
「……俺に、できるかな」
「バカ、お前じゃない。“おいら”がやるの。お前は水だけ用意しとけ!」
──
水を20リットル用意し、ダンさんとすぐに村を出た。
現地に着いた瞬間、俺は息をのんだ。
そこに広がっていたのは、“死んだ土地”だった。
土は黒く腐り、風は止まり、臭気が鼻を刺す。
近づくだけで魔力を侵されそうな、沈んだ空気。
「ダンさん……本当に大丈夫なのか?」
「見せてやるよ、“霊獣”の力をな」
───
「リク、貝殻と卵の殻と玉ねぎの皮。そこ置いといて!」
「え、魔法の触媒とか?」
「違う、食材!」
「食べるの!?」
「おいら、何でも食えるんだよ」
そう言って、ダンさんは全部ムシャムシャ食べ始めた。
そして――甲殻が銀色に輝きはじめた。
「リク、お前は霊獣使いの家系だから、多少の瘴気には耐えられる。でも畑の中心には絶対入るな!」
「わ、わかった」
───
ダンさんはくるりと転がり、畑の中心へ。
「土よ、声を聞かせろ。おいらが癒してやる」
その瞬間、地面が震えた。
黒い瘴気が一気に引き、土がふかふかと膨らみ、香りが変わる。
陽が差し込み、風が戻る。
まるで、大地の精霊のようだった。
「リク、大根の種あるか?」
「あ、はい!」
ダンさんが植えた種を、土がやさしく包み込むように飲み込んだ。
その光景を見ながら、俺はつぶやいた。
「……やっぱり、ただの虫じゃない」
「バカ、何回言わせんだ。おいらは“霊獣”だっての……」
ぐったりと座り込むダンさん。
「……水……くれ……疲れた」
「はいはい」
駆け寄って水筒から水をかける。
「仕事終わりの水、最高!!」
───
依頼主の小麦農家に報告に行くと、男が目を丸くした。
「いやー最初、浄化の魔法使える聖竜フレアとかが来ると思ったら、まさかの虫でさ……」
でも、次の瞬間、深く頭を下げてくれた。
「……助かったよ、ほんとに。すごいな、ダンドドシン様」
報酬の金貨と一緒に、紙袋を渡される。
「これ、小麦の種だ。国の契約農家しか持ってないけど、お礼に。……村でパンでも作んなよ」
「小麦の種!? 貴重じゃないか! おいら、うれしいなぁ!」
───
その夜、村に戻ると――ログハウスにはスパイスの香りが漂っていた。
「見てくれ! 魚と野菜で作ったカレーが……完成した!」
タロさんが、湯気立つ皿を差し出す。
ダンさんはじっとカレーをみて
「これ……本当に食えるのか? 凄い……見た目してるぞ……」
「カレーだよ! カレー!」
リクは一口食べて、思わず声が出た。
「……うますぎる!」
ダンさんは目を細める
「本当に食えるんだな……普段生ゴミ食べてるおいらが、はじめてビビった食べ物だ!」
タロさんが、俺の首に腕を巻いてくる。
「なぁ、リク君。小麦育てて、パン焼いて……カレーパン作ろうぜ!」
「そしてテイクアウトにしよう! 旅人が歩きながら食べれるように!」
目を輝かせながら、言葉を続ける。
「名付けて! 霊獣カレーパン!! ご当地グルメコンテストに応募しようかな!」
「タロさん、すごすぎ……」
(タロさん……前世ビジネスマンだったのかな?)
笑い声とスパイスの香りが、ログハウスに満ちていた。
続く
世界観の説明
◎霊獣
魔力を宿す生き物。長い年月を経て進化し、霊獣となる。単独でも魔法を扱えるが、霊力の消費が激しくすぐに枯渇してしまう。
◎霊獣使い
自身の霊力(生命エネルギー)を霊獣に貸し与え、共に魔法を操る存在。
※イメージするなら――
霊獣=スマホ、霊獣使い=モバイルバッテリー。