第二話 霊獣[アシダカグモ]使いエト
早朝。
農業村リリンの広場では、タロや村人たちが集まり、リクへ次々と手土産を渡していた。
リクは王都へ向かう準備を整えていた。
「リク!」
振り返ると、聖竜フレアを連れたアンが駆け寄ってくる。
その表情は落ち着いているが、どこか張り詰めた気配があった。
「アン……本当にリリンに残るの?」
アンは腰の袋から、割れた魔石の欠片を取り出す。
「これ……天然の魔石じゃない。魔力を後から流し込まれた跡がある。人工的に作られた魔石だ」
リクは息を呑む。
「魔石の調査は俺の担当だ。それに──」
アンは言葉を区切り、目を伏せた。
「……王都でまた毒の汚染があった場合、俺では役に立たない」
そして自分の馬を指差しする。
「俺の馬を使え、速くて良い馬だ。緊急の時役に立つだろう」
リクは迷いなく受け取り、力強く頷いた。
「……ありがとう」
「きっと、リク達はダニエルさんの捜索……捜索隊か救助隊に配属になるだろう。ダニエルさんを助けてくれ。……ダニエルさんには世話になった」
「わかった…」
アンは短く手を挙げると、フレアとともに村へ戻っていった。
──村の声が一斉に上がる。
「リク! 本部勤務、頑張れよ!」
包帯を巻いた腕を掲げるタロ。
養鶏場のマダムも笑顔で続く。
「今回の件でね、私らもまだやれるってわかったよ。安心して行っといで!」
胸の奥で、ぐっとこみ上げるものがあった。
ほんの一瞬だけ──ここに残りたいと思った。
「ダンの兄貴! 気をつけて!」
デカダン、ちびダンたちが小さく手を振る。
「ありがとな! おいら本部でも頑張る!」
「お前たち! リリンの畑、頼んだぞー!」
ヨハネが手綱を引く。
「行くぞ、王都へ帰還する!」
馬たちが一斉に駆け出し、村が遠ざかる。
振り返ると──まだ村人たちは手を振っていた。
(農業村リリン……ありがとう。ダニエルさんを救ったら、必ず戻る)
────
道中、馬に揺られながら進む一行の中で、霊獣[雷神鳥]使いのドゥがリクに声をかけた。
「リク……今回、農業村リリンには『観光で立ち寄った』ってことになっている」
「だから本部には、たまたま俺たちが居合わせて助けた、って話を合わせてくれ」
「わかった……」
そのとき、馬の列の上空から一体の伝書バトが舞い降り、ヨハネの肩に止まった。
「……ヤコブからか」
ヨハネはハトの脚に結ばれた手紙を外し、目を通す。
ほんの一瞬、表情が曇った。
「……」
そして、静かに後ろを振り返り、告げる。
「ダニエルとララが消息不明だ。ユダの潜伏先には残置物なし。毒が持ち出された可能性がある」
「……」
リクとドゥは同時に眉間にしわを寄せた。
「リク君。我々は王都に戻り次第、それぞれ各部署へ戻って任務に復帰する」
「本部執務室には、すでにヤコブが戻っている。今後はヤコブの指示に従ってくれ」
「……わかりました」
夕暮れ時。
一行は王都へ到着した。
「着いたぞ」
霊獣[火竜]使いのトアがリクに近づく。
「リク、本部はここだ。ついでにアンの馬も馬舎に戻しておく」
「ありがとう」
ドゥはニコッと笑い、肩をすくめた。
「俺たちは本部の自衛部署だから、あっちだ。何かあったら、いつでも来いよ」
「ヤコブさんの執務室は、この建物の二階だ」
「ありがとう」
ヨハネは一度振り返り、穏やかに言った。
「リク君、今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます」
リクは、仲間たちの背中を見送った。
そのとき――
横から、ひょこっとダンさんが顔を出した。
「アンもドゥもトアもさ……
昔はおいらのこと、ずいぶんバカにしてたのに。変わったよな」
リクは小さくうなずく。
「……そうだね」
(契約の儀式のときは、『ハズレ』『税金の無駄』なんて言っていた。でも――本部勤務になってから、みんな少しずつ変わった気がする)
───
霊獣管理協会本部執務室。
「リク君。無事に着いて何よりだ」
深い疲労が顔に刻まれている。
それでもリクの姿を見て、表情がわずかに和らいだ。
「本部勤務では基本ペアで行動する事になっている。君と組む新たなペアを紹介しよう。──入ってくれ」
扉が開く。
「失礼します!」
やんちゃそうな青年が勢いよく入ってきた。鳶職のような装備。
肩には──大きなアシダカグモ。
「救助隊所属、霊獣[アシダカグモ]使いのエトだ! よろしく!」
肩のアシダカグモがもぞりと動く。
「……霊獣[アシダカグモ]サスケです……どうも……」
横でダンさんが小声でつぶやいた。
「……虫仲間が増えたな」
ヤコブは続ける。
「本部勤務の間、私の屋敷に泊まるといい。広いし部屋も余っている。エト、リク君を案内してやってくれ」
「はい」
エトは頷き、リクを本部の外へと案内した。
──歩きながら。
「ヤコブさんの屋敷……俺なんかが泊まっていいんですか?」
エトは少しだけ表情を曇らせた。
「ヤコブさんは部下を家族みたいに扱う。俺もダニエルさん捜索の間は屋敷に泊まらせてもらっている……」
(ダニエルさん……)
その言葉で、リクの胸に刺すような痛みが走った。
続く




