表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/69

第一話 消息不明のダニエル

 古城の地下。

ユダが潜伏していた古城。

捜索隊の一人が階段をゆっくりと降りていく。


 湿気と土の匂いが沈む地下室。

灯したランタンが、石壁に揺れる影を作った。


「……やっぱり、ダニエルさんは連れ去られているか……ララもか……」

低く唸るように呟いた。


「クソ……探せねぇ……」

奥歯がきしむほど噛みしめる。

その視線はすぐに、棚を確認する。


「そして……やっぱりだ。何もない……。研究の痕跡もない……毒も……」

「ヤコブさんの読み通りか……」


彼はランタンを下げ、深く息を吐く。

「……また、毒の災害が起きるかもしれねぇ……」


暗い古城に、その重い声だけが響き渡った。



──

 森の中。

風が木々の隙間を抜ける音だけが、遠く低く響く。


彼は湿った土の匂いを踏みしめ、慎重に進む。

やがて視界に、倒れた伝書バト――モーセの小さな身体を見つける。

「モーセ……」


膝をつき、そっと抱き上げる。

小さく固まった翼を優しく包むように。


「もう……見なくていいんだ……ゆっくり休め」

彼はその瞳を指で閉じた。

森の静寂が、胸に深く沈みこんでくる。


遠くで馬の蹄の音が響き、やがてヤコブとマタイが駆け込んできた。


「……ダニエルは……」


首を横に振る。


ヤコブの視線が、布に包まれたモーセへ落ちた。

その瞳がわずかに震える。

「……モーセ」


「……本当であれば埋めてやりたいが……解剖しなくてはいけない……」

その声は、かすかに掠れていた。


ヤコブは拳を強く握りしめる。

冷たい森の空気が、二人の胸をさらに締めつける。


「……ダニエルを、必ず取り戻す」


その言葉だけが、静かに森へ吸い込まれていった。



──


 夜のリリン村。

「本部勤務、か……」

リクは小さく呟いた。

昼間の総監ヨハネの言葉が胸の中で何度もよみがえる。



 最弱の霊獣と言われ、農業村へ派遣され――

王都では瘴気を浄化し、今回は襲撃に巻き込まれ――


そして今度は本部勤務……。


思考が揺れ始めた時、扉がこんこんと叩かれた。


「リク君! 明日出発だろ! 飲もうぜ!」

赤ワイン片手にタロが笑顔で現れた。


「タロさん……」


ダンさんは畑の引き継ぎで、デカダンたちは送別会の準備で慌ただしく走り回っている。


タロはワインを注ぎ、ぐっとグラスを掲げた。

「乾杯!」


「これ、けっこう良いワインなんだぜ」

「えっ、そんなの俺と飲んでいいんですか?」


タロはふっと笑う。

「……実はさ。俺、こっちに来て五年になるんだ。現実に残してきた娘、ちょうどリクと同じ年頃でな」

「娘と酒を酌み交わすのが夢だった。叶わねぇけど……」


タロの声が揺れる。

「お前と風呂入って、星空見て、カレー作って……ほんと、楽しかったんだよ」


涙がすっとこぼれた。


「リク……お前は俺の子供みたいなもんだ……」


胸が熱くなる。


「……タロさん……」


「お前が村を離れるのは寂しいけど、本部勤務なんて昇格だろ! 応援しなきゃな!」

そう言ってタロは赤ワインを一気に飲み干す。

「頑張れよリク! 本部勤務!」


リクは強く頷いた。

「……ありがとうタロさん。俺、頑張ります」


ふと、思い出して青ざめた。

「あっ……俺、ハンナに『農業村リリンに戻ってきたら付き合ってほしい』って言っちゃったのに! どうしよう、タロさん!」


タロは苦笑し、肩をすくめた。

「転勤みたいなもんだろ? こまめに連絡すりゃ大丈夫だ」

「恋愛のコツはな――相手を不安にさせないことだ」


「……はい。ありがとうございます」


リクは思った。

自分も、いつかこんな大人になりたいと。



──


 泥酔したタロを家まで運び、布団に寝かせる。

「タロさんご馳走様です……おやすみなさい」


外へ出ると、湖の前にちょこんと座るダンさんの姿が見えた。


「ダンさん……デカダン達の送別会は終わったの?」


「そう! みんなでいちごチップス食べて、お腹パンパンで寝てる!」


「そっか。……横座るね」


二人で並んで座る。

「ダンさん……湖浄化されたけど水量は前の半分以下だね……」


「元の水量にはすぐに戻らないからな!

でも、自然は元に戻ろうとする! 雨が降って、水がたまり、生物が住めるようにまたなる!」

「でも……少し淋しいな……おいらここでずっと暮らしていたからさ」


「そっかぁ……ダンさんの故郷だからね」


リクは湖の草地へゴロンと横になった。


「俺もここに来て2年だけど、村の人優しくて、野菜美味しいし……

タロさんとサウナで整って星空見て……

それから……王都の瘴気、ダンさんと浄化して……

ハンナとドラコがこの村に来て、ハンナに恋して……

農業村襲撃されて……」


「いろいろあったね……ダンさん」


ダンさんはぽつりと呟く。


「おいらさ……今まで霊獣使いとあんまり暮らして来なかったからさ……

でも契約してるから……離れていても霊獣使いが亡くなったのは分かるんだ。

悲しかったけど泣くことなんてなかった……」


そして、ダンさんの目に涙がたまり始める。


「でも……おいら……リクが死んじゃうかと思って怖かったよ」


リクはゆっくり身を起こし、微笑んだ。


「大丈夫だよ。ダンさん……俺はずっといるから!」


「……」


ダンさんは自分で涙を拭き、いつものように大きく笑おうとした。


「ありがとう! リク!」


「明日から一緒に王都勤務だね……もう寝ようか、ダンさん」


夜は静かに流れ、湖面に星が散っていた。





続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ