第24話 霊獣使いの裏切り者
ヤコブの左目はダラダラと血が垂れ、悔しさを噛みしめるように拳が震えていた。
異変を察知したヨハネが駆け込んでくる。
「不死鳥! 回復魔法だ!」
「ひでぇな……眼球が潰れてるじゃねぇか…」
不死鳥の羽がふわりと広がると、眩い光がヤコブの左目に吸い込まれるように集まった。
血は止まり、眼球も元の形を取り戻していく。
だがヤコブは首を振った。
「……駄目ですね……伝書バト達の視界は、ぼやけたままでよく見えませんね……元に戻るまで数日かかるでしょう」
ヨハネの眉が険しく寄る。
「総監! 私とマタイは先に、ユダの潜伏先に向かい、捜索隊と合流します。……ダニエルと霊獣ララの無事を祈るしかありません……」
「人質として利用される可能性があります……」
マタイは馬に乗りながら、馬を引いて戻ってくる。
ヤコブはひらりと馬に跨がった。
「ハンナとリク君に以前話した計画を伝えてくれますか?」
「わかった。ここは任せろ」
振り返らない。馬は地面を蹴り、
砂煙を巻き上げて走り去っていった。
ヨハネはしばしその背中を見つめる。
──────
リクとハンナは、異変を察し、ヨハネの元に駆け寄った。
「二人とも、すぐ聞いてくれ!」
そのただならぬ気迫に、二人は思わず姿勢を正した。
「……指揮官ダニエル、霊獣[犬神]が人質として囚われている可能性が出た!」
リクの顔が蒼白になる。
「そんな……」
「しかも……このリリン村襲撃を企てた裏切り者は、霊獣使いの中にいる可能性が高い!」
ハンナの肩が大きく震えた。
「裏……切り者……? そんな……」
ヨハネは続けた。
「その者が、毒を持ち出した疑いもある。そして……」
喉をひとつ鳴らし、言葉を絞り出す。
「……ハンナの母君、エステル様が城を離れたことが露見すれば、極刑の可能性があります」
ハンナの瞳が一瞬で揺らぐ。
「お母様……が……?」
「ハンナ! すぐ戻りなさい。ノルディアへ」
ハンナは唇を噛み締め、ドラコの背へ飛び乗った。
ハンナの瞳が揺れ、リクを振り返る。
「リク……また会えるまで!」
ドラコに飛び乗ると、翼が爆ぜるように広がり、そのまま空へと昇っていった。
風圧だけがリクの頬を打つ。
リクはただ、
風だけが残した温もりを受け止めることしかできなかった。
ヨハネはゆっくりリクへ向き直った。
「リク君、そしてダンドドシンもだ。君達には本部へ来てもらう」
「本部……ですか?」
「詳しくはダンドドシンが湖の調査から戻ってから話そう」
───
湖近く。
ダンさんとリクの父ペテロ、水竜が湖を観察していた。
「水竜どうだ? この湖の水?」
ダンさんが聞き、水竜は悩みながら、
「完全に毒も油も浄化されている」
ペテロが顎に手を当てる。
「水質に問題がないなら良かった……」
「水竜、水の記憶を見てみろ」
「了解です」
水竜は湖の水をひとすくい空中に浮かべ、眺める。
水分は目を細め、うごめく生物を目視する。
「霊力を食い尽くす魔物のミジンコだね……」
「こいつは霊力を食い尽くした後、最終的に共食いしてしまうが……本来であれば生き残った一体が子孫を残す……はずが……」
「この湖に放たれたミジンコは毒さえも食い、最終的に破裂し毒を膨張させている……。本来ありえない……」
「どういう事だ?」
「分からない……」
「生物とは本来、子孫を残す為に生きる物だ」
「この魔物のミジンコは違和感しかない……」
「……あの拘束された科学者や普通の霊獣使いには出来ないだろう」
サライが息を切らせながら駆け寄ってきた。
手には分厚い魔物図鑑が握られている。
「あなた――! これを見て!」
めくったページを指で押さえ、震える声で言う。
「このミジンコの生息地…………」
「……隣国リザエル、だと?」
サライは真っ青な顔で頷く。
「ええ。あなた……これって、やっぱり……」
ペテロはしばし沈黙し、図鑑の記述を睨みつけた。
「断定はできん。しかし……」
「――隣国リザエルの生物兵器の可能性はある」
続く




