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第23話 戦争を企てた者

 ダニエルと霊獣[犬神]ララは、薄暗い地下室の階段をゆっくり降りていった。


 そこには黒いフードを深くかぶり、口元だけが不気味に歪んだ男が座っていた。


「……なんでここにあなたがいるんです?」


「いや……ちょっとね……毒の解毒剤を取りにね……」


 ふふっと低く笑う。


「ここは……あなたのようなご身分の方が来る場所ではないですよね。

 この香水は特注品で、あなたしか使わないはずです」


「ははは! 凄い嗅覚だな! ……さすが犬の長だな」


「ごまかすな!! なぜ戦争など企てようとしたんですか」

 フードの男はかすかに肩を揺らした。


「第一王子マルコさん!」


「ふふ……お前ら一般霊獣使いには理解出来ないだろうな」


 ララが牙を剥く。

「あなたを現行犯で連行します!」


「お前ら……王族の霊獣使いの能力を知っているか?」


「……」


「私は契約していない野生のこうもりを、すぐ自分の駒にして使えるんだよ」


 マルコはゆっくり立ち上がった。


「ヤコブとは比にならん。私は千近くと聴覚を共有出来るからな!」


「──!」


 ガスマスクを素早くつけると、マルコはローブからガラスの瓶を叩きつけた。


 白いガスが爆発するように広がる。


「!! ぐはぁ!」


 ダニエルと犬神ララは咳き込み、その場に倒れ込んだ。


「お前らがここにたどり着くのを……ずっと聴いていた。

 さすがヤコブの部下だな……よくここまで来た」


 マルコは淡々と告げる。


「私が何も対策してないと思ったか……?

 お前があの霊獣[フクロウ]使いと離れるのを待っていた。あいつとは能力の相性が悪いからな……」


 ダニエルが最後の力でマルコの足を掴もうと手を伸ばす。


 マルコはその腕を笑いながら蹴り返した。


「お前はここで寝ておけ……すぐ移動する。

 ここの場所はヤコブにバレている」


「くそっ……ぐ……」

ダニエルの意識が闇に沈む。


 マルコは一度、深い溜息をついた。


「リリン村襲撃失敗……ユダも捕まったか……。ヤコブめ……」


そして左耳に手を当てた。

「ユダの監視こうもりの方はヤコブに始末された……あぁ……拡張したせいで左耳が麻痺してしまった……聞こえにくい」



「せっかく考えた私の計画が……台無しだ……」


(本来なら……農業村リリン襲撃、ハンナと霊獣[ミカエル]出撃……そのままリザエル港町への攻撃……すべて繋がっていたはずだった)


(なぜだ……なぜ……失敗した……)


(あぁ……霊獣[カラス]の予知夢……父上に伝えていたはずなのに……)


 マルコの目が細くなる。

「……あの女……城を出たのか」


ゆっくり口元が歪む。

「計画変更だ……指揮官ダニエル……しばらくお前の命は私が預かろう……」


 

 ぼそりと呟いたその声には、焦りとも怒りともつかぬ響きがあった。

(戦火の未来が……変わった)


マルコはそのことを、理解し始めていた。



  

「さて……」

マルコはもう一度フードを被り、

ゆっくりと地下室の階段を登り、扉の内側で一度止まる。




 右耳をトン、と叩いた瞬間。


森の中をこうもりがゆっくりと飛び立つ。


空気の密度が変わったように、音だけが異様に鮮明になる。

「……どうせ、葉に隠れ潜伏しているんだろう?」

「そしてこちらを覗いているんだろ、ヤコブ?」


 まるで目で見ているかのような口ぶり。

しかしマルコは目を閉じたまま、微動だにしない。


 ザ……ザ……

 森の葉が風で揺れる。

その一枚一枚の揺らぎの葉音を聞き分ける。

「鳩が隠れる事が出来る広葉樹は今の時期一本だけ……」


 風と木々の揺れ、湿度、距離。

すべての微細な音を積み上げ、一本の答えへ収束させていく。


 ──サラ……サラ……


 木の葉が擦れ合う。そのわずかな音の偏りの奥に、

鳩のかすかな呼吸音が混じった。


 マルコはゆっくりと口角を上げた。



「みーつけた」




───


 広葉樹の枝に、こうもりが音もなく舞い降りる。

そのすぐ下──葉の陰に、伝書バトのモーセが潜んでいた。


 モーセは地下室の扉をじっと見つめている。

自分の真上にこうもりが止まっていることに、気にしない。


「鳩の心拍の変化なし……」


 マルコは扉の向こうで、淡く笑った。

「そう……野生のこうもりが近くにいるだけと思い……普通の霊獣達は気づかない……」


 モーセだけではない。

強靭な嗅覚を持つはずの霊獣[犬神]でさえ、こうもりの気配には気づけない。

「霊獣犬神も匂いでは気づかない」


 言葉というより、確信をただ確認しているような呟き。

「……あの霊獣[フクロウ]は鑑定スキルで見破ってしまう……がな」


 マルコの口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。



───


 地下室の扉が半分開いた。

モーセは広葉樹の葉の間から扉を見つめる。


地下室の扉がキラリと光る!


しかしその瞬間、銃声が森に響く。

 

「───!」

 

モーセは何が起きたが理解出来ず絶命し落下した。


────


「ぐああぁ……」 

ヤコブが左目を押さえ、しゃがむ。

 


「ヤコブさん!?」マタイが叫ぶ

 

「はぁ……はぁ……」

ヤコブの左目から血がだらりと垂れる。


「モーセがやられた……拡張しすぎた」

「ぐっ……ダニエルに何かあったな……」


「早く本部の者を現地に向かわせなければ……」

 


「ニコラ!」

風を切るようにヤコブの肩に止まる。

紙とペンで箇条書きをして、ニコラの足に結びつける。

「本部の捜索隊に早急に届けろ!」 

ニコラは高く舞いあがり、風を切る。

 


「ヤコブさん……目を治療しないと……」


「……盗聴系の霊獣使いです。この国に裏切り者がいます」 

「──!」 


「ユダが囚われていた地下室があった場所は王都近くの古城です」

 


「……」

「その落ち着いた様子だと……マタイもこの国に裏切り者がいると……勘づいていましたか……」


「しかも……かなり手強い……潜伏していたモーセの場所がばれて、即死されました」

 


「──!」

「恐らく銃で狙撃されました……すみません……今……他の伝書バト達の視界も見えません」





 

続く 

霊獣使いの拡張について


霊獣[伝書バト]使いヤコブは鳩達の視界を共有する事が出来ます。

鳩の視界を更に鮮明に見るために拡張を行います。

ヤコブの拡張の場合、望遠鏡のようにズームする事ができ、遠方にいる人物の口の動きが鮮明に見えるので何を話しているか理解する事が出来ます。

しかし、拡張時は霊獣とのシンクロ率が上がる為、霊獣が攻撃を受けると自分自身もダメージを受ける為、普段霊獣使いは使用しません。


※第一王子マルコもヤコブとユダの会話を聞こうと聴覚の音量を拡張した状態で、こうもりが攻撃を受けているので、耳にダメージを受け麻痺しています。

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