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第22話 襲撃の後

 村の教会内。

総監ヨハネが村人たちの怪我を治療していた。

 養鶏場のマダムは腕に傷を負っており、不死鳥が淡く光を放ちながら回復させている。


「いっ……たたた!!」

 隣ではタロが悲鳴を上げた。


「じっとしてくれ」

 ヨハネが無言で肩を掴み――バキッと音を立てて元に戻す。


「ぎゃあああああああ!!」


 タロは涙目で振り返る。

「アンタ! あの鳥の回復魔法使えるだろ!? 隣のマダムみたいに魔法でやってくれよ!」


 ヨハネは冷静に言い放つ。

「脱臼は治せません。不死鳥が癒せるのは細胞の回復だけです」


「そ、そんなぁ……!」

 タロは力なく肩を抱えたあと、ふとヨハネの軍服に目をとめる。


「てかっ! あんたもヤコブみたいに、肩に勲章とかいっぱい付けてんな……。偉い人なのか!?」


 ヨハネは一瞬だけ視線を伏せ、内心を押し殺した。

(今回の農業村リリンへの介入は、正式な依頼ではない。后からヤコブ、そして私も勝手に動いたにすぎん……一般人に立場を明かすわけにはいかない)


「……観光に来ただけだ」

 ヨハネは素知らぬ顔で答える。

「私はただのヨハネだ」


「おぉ……そうなのか! 霊獣使いの慰安旅行とかか!? ゆっくりしてけよな!」

 タロは急に笑顔になり、親指を立てる。


「うちの村のふるさと納税返礼品カレーも食ってけよ! あとフィッシュバーガーもあるぞ!」


「……」

(村人とは……恐ろしいほど単純だ)


「あああああっ!!」

タロが突然叫ぶ。

「そういえば! 湖! 毒から浄化出来たらしいけど……水量少ないって! 聞いたけど!」


「これから魚取れるのか!? どうするんだよ、これぇぇぇ!!」


「タロさんうるさいよ……いいじゃないか……村の皆無事なんだから」

 隣で寝ていたマダムがぼそっと呟いた。


「俺! 釣り人なのに!」


「怪我人の治療が終わったので、失礼する」


 ヨハネは立ち上がり、空を見上げて深く息を吐く。

(霊獣[カラス]ヨセフの予知夢がなければ……ここの村人は全員……)


(この村が壊滅していれば、この国の食料は不足し、リザエルが関与していると分かれば報復として戦争になっていただろう……)

(さらに、ダンドドシンの浄化魔法がなければ……同じ結末だった……)


(なぜ……霊獣管理協会に王令が下らなかった?)

(王は……何を考えている……村ひとつ失っても良いというのか……)


 ヨハネは拳を握りしめた。



──


 リクとハンナは芝生に腰を下ろし、風に揺れる草の音を聞きながら、会話をしていた。


「姉さん! リク君いますよ!」


 上空から鋭い声が降ってくる。影が差したかと思うと、隼と人影が勢いよく急降下した。


「リク!」


 着地した途端、リクの母サライが飛びつくように抱きしめた。

 その腕は震え、声には涙が滲んでいた。


「良かった無事で!」


「母さん!?……母さんもここに!?」


「副総艦の補佐をしていたのよ」


 サライは息子の無事を確かめるように顔を覗き込み、それからハンナに気づいて軽く会釈した。

「リクの母です。お世話になっております」


「いえいえ……何も」

 ハンナは慌てたように手を振り、頬を赤くした。


「そういえば、ユダだっけ……どうなった?」

「副総艦が拘束したわ」

「そうなんだ……良かった」


「あれよ」

 ふとサライが指先を向ける。

 森林の奥、木々の間から馬車が見えた。


「──!」


 その横には拘束され連行されるユダの姿。

 ヤコブとマタイが付き添っているのが、かろうじて見て取れる。


(刺されたときの痛み……死ぬかと思った。……正直、まだ許せない)


「あのクソ科学者……やっぱり目ん玉潰しておくんだった」


「母さん……」

 リクは軽く眉をひそめた。


「ダンゴムシの霊獣さんは大丈夫なの?」

「もう水分取れたから、今父さんと水竜と一緒に湖の調査してる」

「そうなのね……私も湖の方に向かうわ」


 そう言ってから、サライはハンナの方に視線を向けた。

「こんな息子だけどよろしくね」

「えっ……いやその……」


「今度家に二人で遊びに来なさい」

 サライはふっと微笑む。

 ハンナは一瞬あたふたしてから、照れたように会釈した。


「ありがとうございます」


 サライは隼の脚をつかみ、翼が風を切ると同時に空へ舞い上がる。

 そのまま、湖の方へ向かっていった。




「……終わった、のかな」

「科学者は捕まったし……」


(一瞬、ハンナと農業村でこのまま過ごせるかと思ったけど…………)

『別に戦争を企てた者がいる……ユダではない』

あの毒スライムが消え際に言った言葉が頭から離れない。



 そこにヨハネが近づき、低く声を落とした。

「リク君、大丈夫か?」

「大丈夫です。ありがとうございます」



「なぜ……ユダはこの農業村リリンの湖を汚染させ、毒スライムまで連れてきたんでしょうか?」


「霊獣管理協会で、改めて取り調べが行われるだろう」


「……私の憶測だが、別の者が絡んでいる。ユダはただ利用されたのではないかと睨んでいる」


「──!」

「そういえば、毒スライムが分解されて消える直前……『別に戦争を企てた者がいる』って言ってました」


「……現在、霊獣[犬神]ララの使いダニエルと[伝書バト]モーセが別の人物を追跡している」


「捕まってほしいです」


「私はヤコブの元に向かう。君たちはここで待機を」



──


 マタイはユダを乗せてから馬車の垂れ幕を下ろす。


「──!」

 その瞬間、ヤコブが立ち止まった。

「ヤコブさん?」


「ダニエルがユダの拠点を突き止め、数日間潜伏していましたが……」


「先程、フードをかぶった者が中に入っていきました」

「ダニエルから『今から内部へ降りる』と合図が来ています」


「──!」

 マタイが息を呑む。


 ヤコブは静かに呟く。

「ダニエルの武術とララがいれば、捕獲は容易いはずですが……」



 森の中。

 小柄な伝書バト・モーセが、ダニエルを見つめていた。

 ヤコブは視覚拡張の術を発動し、モーセの視界を共有する。

(かなり離れているが……拡張すれば見える)


 遠方で、ダニエルが扉を開け、慎重に足を踏み入れる姿が映る。


「……なぜか嫌な予感がする」



続く

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