第5話 はじめての仕事依頼
朝、目を覚ますと、ダンさんの姿が見えなかった。
外に出ると、畑にいた。
黄緑色にしおれていたピーマンの苗を、そっと撫でている。
「元気になれ!」
ダンさんがそう言うと、不思議なことに、苗はシャキッと立ち上がり、葉の色が鮮やかな緑に変わった。
「ダンさん……おはよう。すごいね」
「おいらは土を豊かにできるし、苗たちも元気にできるのだ!」
「やっぱり霊獣なんだね……」
朝ごはんを一緒に食べていると、羽ばたく音とともに伝書バトが飛んできた。
足には小さな筒が括りつけられている。
「村の伝書バトだな。霊獣使いや霊獣に村の仕事があると、こうやって届けに来るんだ!」
よく見ると、そのハトは羽の色がまばらで、少し毛並みも荒れていた。
おじいちゃんの伝書バト……らしい。
筒から手紙を取り出すと、ハトは屋根の梁にふわりと飛び乗り、あくびをして丸くなった。
手紙には、こう書かれていた。
『養鶏場の畑が固くて、老夫婦では耕せません。ダンドドシン様、お願い致します』
「仕事依頼だな! よっしゃ、今日は畑を耕すぜぃ!」
「了解!」
ダンさんは肩からひょんっと跳ね降りると、元気よく前を歩き出した。
───
目指すは、村から歩いて二十分ほどの養鶏農家。
「ダンさん、いつもありがとうね」
「おいらに任せとけぃ!」
案内された畑は、ガチガチに固まった土に覆われていた。
ひび割れた地面は水をはじき、根を張るどころではなさそうだ。
ダンさんが、そっと土に触れる。
そして、大きな声で叫んだ。
「お前ら、出てこーい!!」
しばらくして、土の中からぞろぞろとダンゴムシたちが現れた。
その中でもひときわ大きな、丸々とした個体――直径5センチの霊獣デカダンが前に出る。
「親分! お呼びですか!」
「よし、この畑を耕すぞ! 力を貸してくれ!」
「お前らぁ! 親分直々の指令だぞ! 気合入れていけぃ!」
ダンゴムシたちは土の中へ潜り、ぐるぐると動き回りながら、地面をほぐしていく。
乾いていた土が、少しずつやわらかく、ふかふかに変わっていく。
その最中、ダンさんが地面から顔をぴょこっと出した。
「リクぅ! この土、ちょっと酸性寄りだ! 卵の殻撒いといてくれ! あと、鶏糞も頼む!」
「了解!」
卵の殻を砕いて撒き、鶏糞を手早くすき込む。
一時間後。畑は見違えるほどやわらかく、命を育てる土に生まれ変わっていた。
日陰に集まり、水筒を回し飲む。
ダンゴムシたちは卵の殻をポリポリと食べている。
ダンさんは満足げに言った。
「仕事終わりのカルシウム、最高だな!」
老夫婦が笑顔でやってくる。
「お疲れ様、ありがとうね。ダンさんの畑で採れた野菜、本当に美味しいのよ」
「これ、お礼の卵と鶏肉! リクくんもどうぞ」
「ありがとうございます。……ダンさんは、卵の殻で十分って言うけどね」
「今日は解散だ! デカダン、またよろしくな!」
「うっす! 親分、いつでもお呼びください!」
ダンゴムシたちはひとり、またひとりと土の中へ帰っていった。
───
ログハウスへ戻る帰り道、ふと思ったことを口にする。
「ダンさんって、ずっとこの村に住んでるの?」
「おいら、この世界に転生してから、ずーっとここにいる。もう三百年くらいになるな」
「そうなんだ。そういえば、最初からそのサイズだったの?」
「いやいや。最初は普通のダンゴムシだった。何度も脱皮して、少しずつ大きくなってきたんだ!」
「……成長、ゆっくりだねぇ」
「人間みたいに一気に伸びると思うなよ!だから、小さい奴らにも毎日言ってんだ、“カルシウム食え!”ってな!」
「デカダンは?」
「あいつで、まだ十年くらいかな!」
「それであの大きさか。地道なんだな……」
ログハウスの扉が、夕暮れの風に揺れている。土の匂いと、ほんのり香る卵の殻。
村の一日が、やさしく、静かに終わっていく。
続く
登場人物紹介
◎霊獣「ダンゴムシ」デカダン 10歳
年数が足らないため、霊獣使いの霊獣にはまだなれない。ちびダンゴムシ達を率いる5センチのダンゴムシ。
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