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第21話 ヤコブの尋問

 ユダの耳元で、ヤコブはわざと意味ありげな言葉を囁く。

「…………」



 ──ジ…ジジ……………ジ。


音量の波長が揺れた。


ヤコブはユダの後ろの森から小さな影が微かに動きいたのを見逃さなかった。

(……やはり、反応したな)



 ヤコブは小さく息を吐くと、すぐに腕を掴み上げた。

「ユダさん……すみませんね……」

「後で治しますので!」


 バコッと鈍い音を立て、ユダの腕の関節を外す。


「ぎゃああぁぁぁ!!」


──────キィィンッ!


 あまりにも大きな叫び声が森を震わせ、隠れていた生物の鼓膜を砕いた。

 枝葉の奥でコウモリがよろめき、赤い筋を垂らして落ちる。


「やはり……聴覚系の霊獣でしたね」

 ヤコブは短剣を抜き、コウモリの翼を木に打ちつけた。

 同時に別の枝から数羽のコウモリが飛び立つ。


「無駄ですよ。全て見えてますからね」


ヤコブは潜伏させて伝書バトの視界から

 背後を見もせず、一瞬で四体を斬り伏せる。

「あと一体……」


ヤコブの声と同時に、空へ逃げようとした最後の一匹。


「北北西、高度70!」


 

 木陰から鋭い影が飛び出す。

「逃がすかぁッ!!」


 霊獣「はやぶさ」が急降下し、コウモリを地面に叩きつけた。

 隼の主、リクの母サライが姿を現す。目は烈火のように燃えている。




 彼女は迷わずユダへ歩み寄り、思い切り頬を張った。

 バチンッ! 乾いた音が森に響く。


「……あんた、うちの子をどれだけの目に遭わせたと思ってる!」


 低く押し殺した声。その指先は震えていた。

「副総監、この目玉……隼に潰させてもいいですか」

「……ハハ、気持ちは分かるが、やめてくれ」


 ヤコブは息を吐き、逆さに吊るされたユダを見上げた。

「……もう十分だ。降ろしてやる」


 縄を切り、ユダの身体を地に下ろす。外した関節を慎重に戻すと、鈍い音と共にユダが呻いた。

「うぐっ……!」


「すみませんでしたね。敵の動きが未知数でしたので」


 ヤコブは静かに言った。

「あなたが家族を人質に取られていることは、すでに掴んでいます。監視型はすべて排除しました。……今なら話してくれませんか」


 ユダはしばし黙り込み、苦しそうに口を開く。

「本当に……私は言われた通りやっただけだ……やらなければ家族を殺すと脅された」


「嘘は言っていないようですね」

「リザエルの為に、とだけ……」

「……やはり、リザエルが関与しているのですか」

「わからない……指示を出した男はいつもフードを深くかぶっていた……顔も声も、何もわからない」


 ヤコブは眉を寄せ、静かに立ち上がる。

「これ以上は無理か……」


 そのときだった。

「副総監!」


 森の奥から、指導官マタイが駆け込んできた。

 その後ろには、女性と少女がいる。ユダの妻エミリと、娘リリだった。


「お父さんっ!」

「リリ!エミリ!」


 少女が駆け寄る。ユダの目が大きく見開かれた。

「……生きてる……本当に……」

「お前達…何か酷い事はされていないか!?」



ユダはリリを抱きしめ、声を詰まらせた。

「ありがとう……ありがとう……」


 

マタイが頷いた。

「リリン村近くの森の中に監禁されていました。救助が間に合って良かったです」

「──!」

「お父さん……?」




サライが静かに一歩前に出る。


「……奥様と娘さんから聞きたいことがあります。私と来てください」


 エミリがはっと顔を上げる。

「えっ……?」


 サライは優しく微笑み、娘の肩に手を置いた。

「少しだけ、私とお話しようか……リリちゃん」


 リリは不安そうに父を見る。

「お父さんは……?」


 エミリの瞳が潤む。

「……お父さん、怪我しちゃって……しばらく帰ってこれないかも……」


 「お父さん! 早く戻ってきてね!」



 ユダは俯いたまま、娘を見ることが出来なかった。

 サライはそっとリリの背を押す。

「さあ、行きましょう」


 三人の姿が森の奥へと消えていく。

 その背中を見送りながら、ヤコブは小さく呟いた。


「……子供に、父親が拘束されてる姿を見せられるわけないだろ」


 静かな森に、誰の言葉も返ってはこなかった。




続く


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