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第3話 星空と300歳のダンゴムシ

 出発を前に、俺は王都の隣町にある実家へ戻り、旅の支度をしていた。


「水筒……日傘……忘れ物はないよな……」


 荷物を確認していると、父が肩に乗ったダンさんを見て、戸惑いがちに言った。


「……何かの間違いじゃないか?」


 父の肩にいる水竜すいりゅうが、ダンさんをじろりと見下ろしている。


 母の霊獣・はやぶさも、家の梁に止まりじっと見ている。

 

 だが、ダンさんは明るい声でにこりと笑った。


「ダンゴムシの霊獣、ダンドドシンだ! よろしくな!」


「今日の午後には南の農業村・リリンに出発するのね」


 母は常備食の包みを手渡しながら言った。

 その声はどこか、がっかりしているようだった。


「てっきり王都近くに配属されると思っていたわ」



「ダンドドシン様は、何を召し上がるの?」

「おいらは何でも食べるよ! 卵の殻、大好物!」



 その返答に、水竜(すいりゅう)が堪えきれずに笑い出した。

「ハッ、卵の殻!? 生ゴミかよ! 国も守れない雑魚が! 丸くなるだけじゃないか!」

 


「こら、水竜(すいりゅう)、失礼だぞ」


 父が一応かばってくれたが、建前だけだとわかった。

 その目は、ダンさんを“恥”と見なしていた。


「もういいよ。……行こう、ダンさん」



 この国では、霊獣使いは高貴な存在とされ、強力な霊獣を従える者ほど地位も待遇も高い。

 父も母も穏やかだが、内心では力のない者や一般人を見下していた。

 そういう空気が、俺は苦手だった。


 さらにこの国では、霊獣以外の動物は“物”として扱われ、家畜やペットでさえ、奴隷のように見下される。


 ――この世界には、どうしてこんなに“格”が多いんだろう。


───


 水を詰めたタンクを背負い、俺は実家をあとにした。

 ダンさんには、水筒から少しずつ水をかけてあげる。



 

 夜の旅路。満天の星空が広がっていた。


「……綺麗だな。こんな空、初めて見たかも」


「そうか? おいらからすれば、普通だな〜!」


 肩の上で丸まっていたダンさんに、ふと問いかける。



「ねぇ、霊獣って……どうやってなるの?」

「もともとは、リクと同じ現実世界にいたんだ。ただのダンゴムシだった!」


「えっ……マジで?」



「本能のままにメスを探して、気づいたら5000匹の父親になってた!」

「……ビッグダディすぎるでしょ!?」



「その功績を褒められて、この世界で霊獣として転生したんだ!」


 俺は口を開けてぽかんとする。



「で、この世界で100年生きると、そこから霊獣使いの霊獣に認められ、国の為に働ける!」


「霊獣使いの霊獣になると、霊獣種族への殺生は罪になる!」

「この国でダンゴムシ殺すなよ!」


「そうなんだ……」

  


「……まてよ……ダンさん、今100歳なの?」

「300歳!」



「は!? 長生きすぎる!」

「おいらなぁ、何十人もの霊獣使いの相棒してきたんだ。皆、怪我や寿命で死んじまったけど……」


「……」



「一番最初の相棒は……病で倒れて。薬草を探しに行ったけど、間に合わなかった」

「もう少し身体がでかくて、回復魔法があれば……って、ずっと後悔してた……」




 しんとした夜の空気の中、肩の上からダンさんの息が、少しだけ重くなる。


(こんなふうに話してくれる霊獣使いは、久しぶりだな……)

 


 ダンさんは思い出す。過去の霊獣使いたちの冷たい言葉。



「向こう行け、役立たず」

「ゴミでも食ってろ」

「また水? 面倒なやつだな」

「畑仕事でもしとけ、邪魔だ」



 


「……リクは優しいな」

「そうかな」



「そういえば、リクって……転生者だろ?いろいろ教えてくれ!」


「うん……前は咲夜さくやって名前だった。22歳のとき、トラックに轢かれたんだ」


「うわー……転生あるある!」



 でも、俺は小さく笑ったあと、ぽつりと漏らす。

「……実はね、気づいてたんだ。トラックが来るの。……でも、避けなかった」



「……」


「“お前なんて居ないほうがマシ”って、毎日、毎日、言われてた。

 殴られて、笑われて、踏みつけられて……」




「でも、今はリクとして生きてる。もう、負けたくない」



 ダンさんの方を見た。

小さな背中に、光が宿って見えた。


「人間くらいだよ、自分で命を断つなんて……。おいらたちは、生きて、子孫を残すことだけが本能だからな……」



「ダンさん……泣いてる!?」

つぶらな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。



「馬鹿野郎……リク、お前、苦労人だったんだな……」

「おいら、今まで裕福な家の使い手ばかりだったからさ……。リクみたいなやつ、初めてだよ」



「ダンさんも、いろんなこと乗り越えてきたんだね」

「リク……お前、ほんと……いいやつ……だ……」



 ――と、そのままダンさんが力を失い、ぐったりした。



「えっ!? ダンさん!? どうしたの? えっ……!」

「リク……水くれ……泣きすぎて干からびそう……」




「ええ!? そんなオチ!?」

慌てて水筒から水をかけると、じわじわと元気を取り戻す。



(最初の霊獣使いは助けられなかったけど……今度こそ、絶対に)


(この子を……この相棒を、守り抜こう)


(300年……待っててよかった。おいら……本当に、そう思うんだ)




続く

登場人物紹介

◎ペテロ=サクラ 48歳 175cm

リクの父。霊獣「水竜すいりゅう」使い。


◎サライ=サクラ 45歳 165cm

リクの母。霊獣「はやぶさ」の使い。

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― 新着の感想 ―
リクとダンさんのやり取りが温かくて魅力的でした! ダンゴムシ霊獣なのに泣き落ちオチは反則w でも過去の切ない話とのギャップで一気に引き込まれました。相棒感がすごく良い!
第一声っ!面白いです! まだ3話で、更に戦闘シーンも訪れてないのに面白い! 何がと言うと、既に少しホロッときてしまいました。私が涙腺弱いわけではないと思います。 ダンさん、ホッコリした霊獣だけど、きっ…
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