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第2話 ダンさん干からびそうになる

 王都では、霊獣使いたちの“スキンシップ訓練”が始まった。

 一週間かけて、契約者と霊獣の絆や能力を見極めるための、霊獣管理協会のプログラムだ。


 訓練場には、水・炎・風の属性を持つ試験エリアが整備され、あちこちで声が響く。


 「フレア! 魔力を無効化!」

 「ライガ! 地面に雷撃を!」

 「ルキア! 熱で範囲を制圧だ!」

 

 その中で――俺の霊獣、ダンゴムシのダンさんは、丸まって死にかけていた……。


 

「おい……リク……水くれ……干からびる……」


「あっ、ごめん……はい、水!」


 水筒からそっとかけると、ダンさんはのびのびと背を伸ばした。


「あぁ~生き返ったぁ……王都の空気って、乾いてるから苦手なんだよなぁ!」


 俺たちの様子を見ていた周囲の使い手たちが、クスクスと笑い始める。


「マジでダンゴムシ?」「うわ、泣くわ」

「ハズレ霊獣の中のハズレだな……」


 

 その言葉は、刺さる。

 俺は、こういう笑われ方には……慣れていない。


「ダンさん、噴水の近くに行こう。あっちの方が湿ってるかも」


「助かるぅ~! リク、気が利くな。あとで野菜あげるわ!」


 ほんの少しだけ、気持ちが軽くなった。

 


───



「スキンシップは進んでるか?」


 霊獣管理協会の訓練官が声をかけてくる。

肩に霊獣のフクロウを乗せている。


「……あんまり進んでないです」


「ダンゴムシの霊獣は初めて見る……私の霊獣フクロウは鑑定スキル持ちだ」


「見てやれ」


 肩にいた霊獣フクロウはダンさんをまじまじと見つめ、「スキャンッ!」


 フクロウの右目の周囲が、レンズのように光を放つ。


「こいつは……“土を耕す力あり”、“丸くなる”、雑食、湿気がないとすぐ死ぬ……水に入れると溺れる……」



 絶妙に微妙な情報ばかりが並んでいく。


「……魔法は……あるね…」



「ほんとですか!? どんな!?」

(最強の結界とか、再生能力とか……!)



「“土を豊かにする”魔法……」



「……それだけ……?」


「以上ッ!」

フクロウは目を閉じる

 

 

 訓練官はため息をつき、無情に言い放つ。


「……農業村に派遣ですね。この霊獣は戦力にならない」


 足元では、ダンさんが芝生の上でくるんと丸まっていた。



 すれ違いざま、訓練官が俺の肩を軽く叩いてつぶやく。



「ハズレ霊獣ですね……。ご愁傷さまです」


 心の奥に、小さな穴があいた気がした。

 霊獣は、一生変えられない。


 

───


 その夜、訓練場のベンチで、俺はパンをかじり、ダンさんは魚の骨をポリポリとかじっていた。


 食堂では指をさされ、笑われた。


「最弱霊獣!」「あれ、害獣じゃね?」

「税金のムダ!」「ゴミでも食ってろ!」


 

 霊獣使いは、魔物から国を守る重要な存在だ。

その力が国の防衛に繋がるからこそ、霊獣の維持費もすべて国が負担し、霊獣管理協会がすべて管理している。


 だからこそ、役に立たない霊獣には、冷たい目が向けられる。


 

(前の世界でも、俺は“役立たず”って言われてた)

(結局、あのときも、声を上げられなかった……)


 


 月明かりの下、ダンさんがぽつりとつぶやいた。


「リク……おいらのこと、恥ずかしくないか?」


 俺は、パンを噛みながら考える。


「……正直、そう思うときもある。でも――それ以上に、ダンさんが“俺を選んでくれた”のが、嬉しかったよ」


 ダンさんは少し丸くなって、ふふっと笑った。



「リクみたいなヤツ、初めてだ……。おいらさ、今まで何世代も、“ゴミでも食っとけ”って笑われてきたんだ!」


「……え?」


「おいら、見た目で損するけどさ……ほんとは意外と、やれるんだ!」


 その言葉に、胸がちくっとしたあと、ほんの少し、あたたかくなった。

 

 ――俺はまだ、ダンさんの“全部”を知らない。



───


 訓練期間が終わり、霊獣使いたちは王国各地へ配属されていった。

 有望な使い手たちは、王都の高級区画に住まいを与えられる。

 

最強の霊獣と呼ばれる聖竜せいりゅうフレアはどんな魔物の魔障や魔法を無効化することができる。

 

 霊獣管理協会本部の近隣に配属され、霊獣使いも同じように優遇される。 

 

そこは、魔物と戦う最前線――国の要だ。




 でも、俺は――違った。


「ダンさん、俺たちの管轄ってどこ?」


「農業村リリン!  湖の近く! おいらの村だ! 水は20リットル持参な! 徒歩3日だ!」


「徒歩3日……!?」


 ダンさんは丸くなって、地面を跳ねながら言った。


「湿り気バッチリ!  空気もうまい! 畑も広くて最高だぞ~!」


 

 なんだかんだで、ちょっと楽しみになっていた。

 強くはない。誰かに憧れられるわけでもない。

 でも――俺には、ダンさんがいる。


 



続く

登場人物紹介

◎霊獣「聖竜せいりゅう」フレア 400歳

全ての魔力を無力化出来る 最強霊獣

◎霊獣「雷神鳥らいじんちょう」ライガ 300歳

光速で鋭い雷撃を落とせる 攻撃の速さでは最速

◎霊獣「火竜かりゅう」ルキア 110歳

火の魔法を使える竜

◎霊獣「フクロウ」 フク 110歳

鑑定スキル持ち 夜の視察が得意 

  

同期の霊獣使い達(いじめた奴)

アン  聖竜せいりゅうフレアの使い

ドゥー 雷神鳥らいじんちょうライガの使い

トア 火竜かりゅうルキアの使い


(フランス語で1,2,3です……笑)




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― 新着の感想 ―
Xから来ました、竹道琢人です。 ダンゴムシという他にはない発想が斬新でありながら、なおかつ『見た目で損するタイプ。でもすごいヤツ』という含みを持たせた設定は昨今の流行をおさえていらっしゃる様に感じまし…
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