第11話 大型魔物襲来
早朝
リクは弓を構え、息を詰める。
──シュッ。
矢は風を裂き、石をも砕く勢いで飛んだ。
「すごいじゃない、リク!」
「お、おはよう……ハンナ」
「毎朝、練習してたの?」
「……うん。俺、何もできないから、戦えるようになりたくて」
「……そんなことないよ」
「え?」
「なんでもない。あとでさ、お昼みんなで外で食べない?」
「ありがとう」
───
白霊米の穂が、朝の陽光にきらめいて揺れた。
芝生に布を広げ、パンやチーズ、サラダを並べてのんびりと過ごす。
リク、ハンナ、ドラコ、そしてダンさん。
──その時、空気が変わった。
リクとハンナの背筋を、同時に冷たい感覚が走る。
「……まずいわ、これは雑魚じゃない」
「どうする!? ドラコ!」
ドラコが舞い上がり、目を細めた。
白霊米めがけて突進してくるのは、巨大な熊型の魔物。
「あら……大型ね。けっこう早い」
「焼き払うか……」
手に炎を集めるドラコ。だが――
「待って! その魔法は村まで巻き込む!」
「でも、物理じゃ倒れないわよ」
「来たわ!」
ハンナは短剣を構える。
(どうする……? でも、やらなきゃ!)
「俺がやる!」
リクは弓を握りしめ、矢をつがえる。
指先が汗で滑る。
霊力が弓にまとわりつき、狙いは胸。
──放つ!
ズガッ!
矢は突き刺さるも、熊魔物はよろめくだけ。
「くそっ……!」
視界が揺れる。呼吸が荒い。
(落ち着け……思い描け……!)
(進ませない! 守るんだ! ハンナを! 村を!)
もう一度矢をつがえる。
「ハンナは、俺が……絶対守る!!」
手の震えが徐々に止まり、
リクの内から霊力が燃え立つ。
──静かな感覚が巡り、熊の動きがゆっくり見える。
──放つ!
ズガッ!
矢が魔物の眼窩を貫き、巨体が地響きを立てて崩れた。
数メートルの距離。リクは息を止めていたことに気づく。
「はぁ……はぁ……やったのか?」
「リク……すごい」
「マジでやったのか!」
ハンナとダンさんが見つめる中、膝はカクカク震えている。
「正直……めっちゃ怖かった」
ドラコが近づき、冷たく言う。
「……あら、まだ息があるわね」
──バキィッ!
拳で頭を粉砕した。
「ドラコ……!」
「ハンナ、ごめんね。私の魔法、範囲が広すぎるの」
「……大丈夫。ありがとう」
───
タロが恐る恐る近づく。
「リク……お前……すげぇな。俺……魔物見えて怖くて家の中逃げちまった……」
足はガクガク震えている。
「でかい熊だな……5メートルはあるぞ……死んでるよな……」
ツンツンとつつく。
「俺にまかせろ! 熊肉は香草で煮てカレーにしよう。夜、みんなで食おうぜ」
「スパイス焼きもいいな」
「カレー最強かよ……熊も食えるのか……おいら300年生きてきたけど、熊食う人間初めて!」
ダンさんが目を丸くする。
「……俺は釣りと料理くらいしか出来ないからな……」
「タロさん……」
「リク君、お前男らしくなったな。おじさんは感動したぞ」
「俺もリク君見習って頑張らないとな……雑魚魔物くらい倒せるように……」
「じゃあ……タロさん。一緒に毎朝筋トレしましょう」
「うぐ……そうだな……」
───
夕暮れ、タロのログハウス前。
大鍋の熊肉カレーをみんなで囲む。
「うまっ……! 熊ってこんなにうまいのかよ!」
リクががっつき、ハンナはそっと一口。
「……美味しい。ちょっとクセあるけど、香辛料が効いてる」
「ふふん、これが俺のスパイス配合だ!」
タロは得意げ。
「私は牛肉の方が好きだけど……まあ、これも悪くないわね」
ドラコが肩をすくめる。
──
食後、それぞれ片付けに回る。
小さな丘の上。
リクとハンナは並んで腰を下ろし、静かな夜を眺めていた。
虫の声。頭上には星が瞬き始める。
「……今日のリク、かっこよかったよ」
「え?」
「怖かったはずなのに、ちゃんと仕留めて……本当にかっこよかった」
「そ、そんな……必死だっただけだよ。ハンナが危なかったから、勝手に体が動いて……」
「それが、すごいんだよ」
ハンナが微笑む。
「ねえ、リク」
「ん?」
「……私、実は……おう……」
唇を閉ざし、喉で言葉が渦を巻く。
「……お、貴族の家の出なの」
軽く笑ってみせたが、その笑顔はわずかに強ばっていた。
「……ああ、そうなんだ」
リクは変わらず相槌を打つ。
「父がね、すごく厳しい人で……地位や血筋をすごく大事にしてる」
「一般の霊獣使いとは関わるなってずっと言われてきた」
「だけどお母様は、予知能力を持つカラスの霊獣ヨセフの一般霊獣使いで……」
「その能力が買われて嫁いだけど、親族は身分を見下して……すごく嫌だったの」
「リクも嫌じゃない? そんな家系」
声が沈む。
「でもさ、関係ないよ」
「え?」
「貴族でも平民でも、誰かのために頑張ってるなら、それでいいじゃん」
「俺は……ハンナとここで過ごせて楽しい」
「どんな身分でも、ハンナはハンナだよ」
「……リク……」
瞳に涙が浮かんだが、ハンナは笑みを作り「ありがとう」と言った。
(……リクって、不器用だけど優しい)
(でも、いつか話さなきゃ……本当は“貴族じゃない”……もっと重い立場……)
───
「おーい!」
丘の下からタロの声。
「熊のスパイス焼きあるけど、食うかー?」
「──っ!」
ハンナが慌てて立ち上がろうとした瞬間、
ドラコが現れ、タロの肩をがしっと掴む。
「ちょっとあなた! 空気読みなさいっ!!」
「え!? な、なにが!? うわっ!!」
スパイス焼きを奪われるタロ。
リクとハンナは顔を見合わせ、ふっと笑った。
星が、少し近く感じた夜だった。
続く




