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第9話 整う夜、静かなる予兆

 夜。


 星が降るような空の下。

俺とタロさんは、サウナと水風呂に交互に浸かり、芝生の上で静かに過ごしていた。


 澄んだ空気。虫の音。湖畔を渡る微かな風。



「これが……整う、ってやつですか」

「そうだよ。これが、“整う”だ」


 仰ぎ見た空に、星がきらきらと瞬いていた。

 ただ、それだけの光景が、なぜか胸に沁みる。


「きれいな星空見て整う……最高ですね」


 すると、タロさんがぽつりと呟いた。


「なぁリク君。ここ、酵素風呂、サウナも水風呂もあるし、カレーも食べられる。……観光地にするか」


「いいですね」


「他の国の勇者とか、旅人も来るかもしれないな」


 星の下で、ふたりだけの夢を語る。


「カレーって書いておけば、日本からの転生者がふらっと立ち寄るかもな」


 その言葉に、タロさんは少し寂しげに目を細めた。


「……奥さん、来てくれないかな」



「……奥さん、って……前世の?」

「そう。俺、一途だからね。もし転生してこの世界に来たら、また一緒に暮らしたい」



 静かな夜風の中、問われる。

「リク君、“成功”ってなんだと思う?」


「うーん……お金を稼いで、モテて、でっかい家に住んで、高級車乗る……とか、ですかね」



「ふふ……若いねぇ」


「えっ?  男の成功って、そういうもんじゃないんですか?」


 タロさんは、少しだけ目を閉じた。


「俺さ、前の世界では、有名大学出て、大手企業に入って、30代後半で年収1500万だったんだよ」


「えっ……タロさん、めっちゃエリートじゃないですか!」


「でもね。仕事ばっかりして、奥さんの作ってくれたご飯を無言で食べて、『ありがとう』も言わなくなってた」


「娘とも遊ばなくなって、気づいたら金と新車と“課長”って肩書きしか、手元に残ってなかった」

「……」



「昔、手に入れたかったものを全部手に入れてたのに――幸せじゃなかった。むしろ、虚しかった」


「本当は……奥さんと娘と、3人で笑ってご飯を食べたかったんだよなぁ」



 ゆっくりと語られる言葉が、胸に染みていく。

 夜の静けさが、それをやさしく包み込んでいた。


「俺が言いたいのはね……」


「“成功”の形なんて、人それぞれでいい。自分が“今”幸せなら、それが成功なんだよ」



 その横顔は、静かで、強かった。


「……タロさん、かっこいいっす」



「ふふ。イケオジ、目指してみようかな」


 ニヤッと笑うその顔に、思わずこちらも笑ってしまう。



───


 ダンさんと畑を耕し、

王都から依頼が来れば、土を癒す。

そして、タロさんとこんなふうに星を眺めながら、観光地の未来を語る――


 そんな日々も、悪くないかもしれない。



────


「おっ!  リク君、見てみ! でっかい流れ星だ!」


「えっ……!」


 空を見上げると、瑠璃色やエメラルドに輝く尾を引く、巨大な光が夜空を横切っていく。


「すごい……きれいだ」


(願いごとしよう)

(――この異世界スローライフが、ずっと続きますように)




 でも、次の瞬間――


「……いや、あれ流れ星じゃない。でかすぎる」


「えっ……?」


 タロさんが、急に立ち上がる。


「……小型隕石だ。王都の方角に落ちた!」


 ピカッと空が光り、小さなドン!

 という音が遅れて響いた。


「……隕石が落ちたぞ」

 


「大丈夫ですかね……」

「小さいから、たぶん大丈夫。王都には最強の霊獣と霊獣使いたちが常駐してるからな」


「……」



でも、タロさんはそっとつぶやく。

「リク君……明日、片付け要員として全国の霊獣が徴収されるかもしれない。少しでも仮眠しといた方がいい」




 ――だが、そのとき俺も、タロさんも、ダンさんも知らなかった。



 あの小さな隕石が、王都に未知の瘴気を運んできたこと。



 そして、“最強”と呼ばれた霊獣も、“優秀”と讃えられた霊獣使いたちも――


 誰ひとりとして、抗う術を持たなかったということを。



── 


王都中心地 

自然公園内 隕石落下周辺。


総監ヨハネが叫ぶ!


「なぜだ? 聖竜せいりゅうフレアの浄化魔法が……効かないだと……」


「直ちに住民を隣町に全員避難させろ! 竜使いをすべて集め、風で正体不明の瘴気をここに留めよ! 住民避難完了まで、時間を稼げ! 絶対に住民は守れ!」



「ゲホ!……!」

視界が霞み、呼吸が乱れる


「肺が……」

不死鳥ふしちょう! 身体の細胞を回復させろ!」


「ちょっと待ってろ!」

不死鳥ふしちょうの羽が光り、総監を包む……が、光が弾ける……

「はぁ!? 効かねぇぞ! ヨハネ!」


「クソ! 不死鳥ふしちょうの回復魔法も効かない! なぜだ!」



「わりぃ……ヨハネ……羽が痺れてきやがった…」


パタリと不死鳥ふしちょうが地上に落ちる。


不死鳥ふしちょう!」



(最強の霊獣が二体いても、無理なのか……)


総監が膝から崩れ、ゆっくり倒れた。



───


霊獣管理協会本部 


「お前ら、上空に!! 皆逃げろ!! ゲホ……」

 

 副総監・ヤコブは胸を押さえながら

ハト達の扉を開ける!!

 


  

「全国の……霊獣達に知らせないと」

 


震える手で手紙を書き続けて、伝書バトを一羽ずつ、呼ぶ

「シオン! 届けろ」

「モーセ! 届けろ」 


「よし……全部かけた……ナナ! 行け! 霊獣ダンドドシンのもとへ……」

 

視界がぼやけ

机から崩れ落ちるヤコブ


「ゲホ………肺が……苦しい……」



霊獣ナナが「嫌だ」と首を振る


「いけって! 緊急警告の手紙届けろ! ゲホ……ゲホ……」

「これは、ただの瘴気じゃない……このままでは……国全土に広がる……国が滅びてしまう」

 


「もう一度言う! ナナ! 農業村リリン……霊獣ダンドドシンに届けろ!」 


霊獣ナナはヤコブの頬に顔を寄せてから

空へ舞い上がり、一瞬で姿を消した。




(後は、頼んだぞ……)


  


続く

 

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