表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

【7話】追手 ※ティオール視点


 家にひとりでいるティオールは、楽し気な笑みを浮かべた。

 

 レティスがここで暮らし始めて二週間。

 かなりこの生活に馴染んでいるように思える。最初に比べると大違いだ。

 

 さきほどフィードと一緒にキノコを採りに出かけていったレティスは、笑顔で森へ出ていった。

 馴染んでいるという確かな証拠だ。


「しかしレティスはいったい、何者なのだろうか」


 レティスは大怪我を負って森に倒れていた。

 訳アリということだけはわかる。

 

 だが、そこまでだ。

 詳しいことはなにひとつとして掴めていない。

 

(でも、レティスに聞いたって答えてくれないだろうし……今は気長に待つしかないか)


 なかなかに難しい性格をしているレティスのことだ。

 変に聞いても怒らせてしまうだけ。ここは時間がかかろうとも、彼女から話してくれるのを待った方がよさそうだ。


「……と、考えごとをしすぎた。そろそろ仕事にいかないとまずい」


 ティオールの職業は冒険者だ。

 依頼を達成した報酬金で生計を立てている。


 これから向かおうとしている場所は、近くにある小さな田舎町――バテランにある冒険者ギルドだ。

 そこで依頼を受けて、指示された目標を達成すれば報酬金を貰える。そういうシステムだ。

 

 ティオールは家を出た。

 そうして数歩歩いたところで、足をとめた。


「なんだアイツは?」


 黒い装束を着た見知らぬ男が、家の周りをうろついている。

 しきりに顔を動かしている。なにかを探しているようだ。

 

(……怪しいな)


 男のもとへ、ティオールは近づいていく。


「ここでなにをしているんだい? 俺の家に用かな?」

「女を探しているんだ。レティス、という黒髪の女。しかもとびっきりの美人だ。知らないか?」

「……さぁ。知らないな」


 男からは危険な匂いがする。

 レティスのことをとっさに隠した。

 

 しかし。


「嘘はいけないな。あんたとその家から、ヤツの匂いがプンプンするぜ!」


 へっへっへ、と不気味に笑った男。

 自らの鼻に指でさした。


「俺は鼻が利くんだ! 普通の人間の何倍もな!」

「……お前、何者だ?」

「俺はラットン! ベルドゥム帝国の裏組織、漆黒の影のひとりさ!」

「……漆黒の影」


 噂程度だが、ティオールはその名前を知っていた。

 ベルドゥム帝国の裏組織で、帝国の敵を秘密裏に排除することを目的としている組織だ。

 

「漆黒の影がなぜレティスを追う? 彼女は帝国の敵として認定されたのか?」

「正解! 俺はヤツを殺しにきたのさ!」


 ラットンの口元がニヤリと上がる。


「レティスも元は俺と同じ、漆黒の影のメンバー。だが、ヤツは強すぎた。上層部はその力を危険視したんだ。そして俺たち漆黒の影に、レティスの抹殺を命じた。だが、しくじった。襲撃チームのザコどもが、ヤツを仕留め損ねたんだ。上層部は今、必死になってレティスの行方を捜している。……ま、俺以外のヤツに見つけられる訳がないがな。つまり、だ!」


 ラットンが一歩踏み込んだ。

 指をピンと立てる。


「今レティスを殺せば俺は上層部に恩を売れて、大きく出世できるのさ! これはチャンスだ! ヤツには逃げられたがかなりのダメージを与えたって、襲撃チームが報告が上がっていたからな。それだけの傷なら、まだ完治はしていないはずだ。弱っている今のヤツなら、俺でも倒せるぜ!」

「お前はこの場所のことを誰かに話したのか?」

「ハッ、バカかお前。そんなことするわけないだろ。この手柄は俺ひとりのものだ。誰にも分け与える気はない」

「つまり、お前以外はレティスの場所を知らないのか。それを聞いて安心したよ。……にしても、ずいぶんと気前よく教えてくれたね」

「俺はもうすぐ出世できる! 今は最高に気分がいい! 誰かに話したくてしょうがなかったんだよ! それによ……」


 ラットンがナイフを取り出した。

 ティオールへ切っ先を向ける。

 

「お前は今から俺に殺されるんだぜ? 死ぬヤツに何を喋ったところで問題なんてねぇよ!!」


 ナイフを持つ手を振り上げたラットンが、ティオールめがけて振り下ろしてきた。


 素早い動きだが、ティオールはその動きを完全に見切っていた。

 ティオールの身体機能は、魔法によって底上げされている。

 ラットンの素早い攻撃も、止まっているのと同じだった。

 

「俺の攻撃を避けただと!?」

 

 襲いくるナイフを、ティオールはひらりとかわした。

 驚愕しているラットンへ片手を突き出す。

 

「【エアブラスト】」


 ティオールが放ったのは空気の塊。

 とてつもないスピードで飛んでいく。

 

「グハッ!」

 

 空気の塊がラットンに直撃した。

 遠くまで吹き飛ばされていく。

 

「片付いたな」

 

 ティオールは地面に倒れたラットンのもとへ近づいていく。

 

 ラットンは白目を剥いている。

 完全に気を失っていた。


「実力差を測る嗅覚を持ち合わせていないとは、せっかくのよく利く鼻もこれではとんだ宝の持ち腐れだな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ