【13話】舞台は整った!
アクセサリーショップを出た二人は、小さな公園にやってきた。
横並びになってベンチに座る。
時刻は正午。
この公園で昼食を食べようという話になったのだ。
ティオールは持参してきたバスケットを、膝の上に乗せた。
「おぉ、おいしそうだ!」
バスケットのフタを開けたティオールは、顔を綻ばせた。
中にはいっぱいのサンドイッチが入っている。
レティスは今日のために、いつもより気合を入れて食事を作ってきた。
「うまい! いつも通り、君の作る食事は最高だよ!」
サンドイッチを食べたティオールが幸せそうに笑う。
太陽の光に照らされている彼の笑顔は、キラキラと眩しい。
(喜んでもらえてよかった)
レティスはホッと安堵。
微笑みを口元に浮かべる。
「ねぇティオール。どうして今日は誘ってくれたの?」
そういえばまだ理由を聞いていなかった。
ティオールと出かけられたのだから、理由なんてどうでもいいのかもしれない。
それでもやっぱり、少しは気になっていた。
「恩返しがしたかった。君と過ごす毎日は本当に楽しい。そのお礼だよ」
ティオールが真上を向く。
「君に共同生活を持ち掛けたのは、最初はシンシアへの罪滅ぼしだった。でも、今は違う」
顔を戻したティオールがレティスを見つめる。
その瞳はまっすぐで揺るがない。
「君と一緒にいたいからいる。ただそれだけだ」
「それは私もよ。毎日を楽しいと思えるよになったのは、あなたと出会えたから」
もし今でも漆黒の影にいたなら、心を殺したままの殺伐とした日々を送っていたはず。
今のような幸せな感情を得ることは一生なかっただろう。
「あなたが私の人生を変えてくれた。価値を与えてくれた」
両手を重ねたレティスは自分の胸に押し当てた。
ティオールへの気持ちが、とめどなく溢れていく。
(私、ティオールが好き)
このときレティスは、自分の気持ちをはっきりと自覚した。
レティスはまっすぐな瞳を向ける。
ティオールもそうだ。
レティスをまっすぐに見つめている。
ゆっくりと体を近づけていく二人。
距離が少しずつなくなっていく。
(これはもう、そういうことよね)
公園には今、二人しかいない。
完全なる貸し切り状態。
舞台は完全に整っていた。
(……いつでもきなさい!)
レティスは瞳をギュッとつぶった。
ファーストキスを受け入れる準備はバッチリだった。
そのとき。
「あいつらチューするぞ!」
冷やかすような子どもの声が、それを邪魔した。
「――!?」
レティスはとっさに瞳を開ける。
声の方へ顔を向けると、数人の子どもがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「ひゅーひゅー!」「チューが見られるぞ!」
なんというタイミングで現れたのだろう。
せっかくいい雰囲気だったのに、もう全部ぶち壊しだ。
こんな状況でキスなんてできるはずない。
二人はそっと体を離した。




