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【1話】裏切り


「ここまでくれば、もう追ってこれないはずだわ……」


 夜闇に覆われた森の中に、女性の声が響く。

 

 彼女の名はレティス。

 ベルドゥム帝国に暮らしている。

 歳はニ十歳。


 職業は、殺し屋だ。

 

 ベルドゥム帝国が運営している組織『漆黒の影』。

 しかしその存在は、公にはなっていない。国家運営に携わっている一部の人間のみが知る、裏組織だ。

 

 漆黒の影の役割は、帝国の邪魔になる人間を秘密裏に闇に葬ることにある。

 レティスはその組織の一員だ――いや、一員()()()

 

 

 

 五時間前。

 漆黒の影の仕事を終えたレティスは、ベルドゥム帝国の帝都の裏路地を歩いていた。

 

 そのとき、背後からナイフが飛んできた。

 

「ッ……!」

 

 ナイフがレティスの脇腹を裂いた。

 レティスは痛みに顔をしかめる。

 

 わき腹から上がる痛みに耐えながら、ナイフが飛んできた方向へ体を向ける。

 そこには、黒い装束を着た十数人ほどの人間が立っていた。

 

「こんばんはレティス」

「あなたたち、どうして……!」

 

 彼らは全員、レティスの顔見知り。

 レティスが所属しているベルドゥム帝国の裏組織――漆黒の影のメンバーだった。


「リーダーから、『あなたを始末しろ』って、そういう指令が出たの。レティス……あなたは強すぎたのよ」

「……どういうこと?」

「上層部はあなたの強大な力を危険視した。それで始末することを決めたの。……あなたとは長い付き合いだわ。だから苦しまずに、サクッと殺してあげるわね」

「……ッ!」


 漆黒の影のメンバーに、レティスは背中を向ける。

 地面を蹴って、その場から全力で逃げ出した。


 戦うという選択肢もあったが、これだけ人数差があると厳しい。

 それに今は、わき腹に大きな怪我を負っている。

 

 ここは逃げるのが最良の選択だった。


「待ちなさいよ!」


 漆黒の影のメンバーは追ってきた。

 逃げるレティスに向けて、攻撃を放ってくる。

 

 レティスはそれを防ぎつつ、必死で足を動かした。

 そしてこの見知らぬ森まで、やってきたというわけだ。

 

「……うっ」


 わき腹から鋭い痛みが上がった。

 傷口からドクドクと血が流れている。


 傷がひどい。

 このままでは出血多量で死んでしまうだろう。


「血を……止めないと」


 だがそこで、グラリ。

 視界が歪んだ。

 

 バランスを崩したレティスは、地面に倒れてしまう。

 

 視界から色が消えていく。

 体温がなくなっていき、急激に体が冷えていく。


 それはまごうことなき、『死』の実感だった。


「ここまでか……」


(ひどい最期ね……)


 レティスは赤子のときに捨てられた。

 それを拾ったのが、漆黒の影だった。

 

 レティスはものごころつく前からずっと、漆黒の影の一員として活動してきた。

 

 漆黒の影の仕事は、常に命がけ。

 メンバーの入れ替わりは激しく、何人もの仲間の死を目にしてきた。

 

 死と隣り合わせの日々は辛く苦しいものだった。

 それでもレティスは、忠実に仕事をこなしてきた。

 

 そして、その結果がこれだ。

 所属していた組織に裏切られるとは、なんて報われない最期だろうか。

 

「ふっ」

 

 虚しい自嘲を浮かべたのを最後に、レティスの意識はプツンと途切れた。




 ――チュンチュンチュン。

 聞こえてきたのは、小鳥のさえずり。

 

「……え」

 

 レティスが目を覚ますと、そこは見知らぬベッドの上だった。

 

(……ここはどこなの?)


 森で倒れたはず。

 それなのにどうしてか、今はベッドの上にいる。

 

「目を覚ましたんだね」

 

 横から声が聞こえてきた。

 見てみればそこには、イスに座っている銀髪の男がいた。

 

 歳は二十四くらいだろうか。

 非常に整った顔立ちをしている。

 

 金色の瞳は、優しくレティスを見守っていた。


「あんた誰!?」


 勢いよく体を起こしたレティス。

 

 男に向けて片手を突き出す。

 魔法を発動する体勢だ。

 

 青い瞳を鋭く尖らせて睨みつける。

 背中まである漆黒の髪が、小さく跳ねた。


 見知らぬ男の正体――真っ先に思いついたのは、レティスを殺すために漆黒の影が送った追手、というものだった。


「魔法を撃つつもりかい? 起きたばかりなのに、ずいぶんと元気だね」


 男はまったく動じていない。

 朗らかに笑っている。


「黙りなさい! 答えないと本当に撃つわよ!」

「それはやめておいた方がいいと思うよ。俺は魔法を受けると、それを自動で反射してしまう。そういう体をしているんだ。攻撃魔法を放てば、君自身が大怪我をすることになるよ」


 男の声色はまっすぐだ。嘘は感じない。

 もし攻撃魔法を放てば、それは確実に跳ね返ってくるだろう。

 

 レティスは上げていた腕を下げた。

 

(それにしてもこの人、なんて力なの……!)


 レティスは、相手の雰囲気でその実力を判断することができる。


 それによると、男の実力は測定不能。恐ろしく高い。

 これほどの人間と出会ったのは初めてだ。

 

「それにしても、命の恩人に向かってひどい態度だね」

「え?」

「『グドラの森』を歩いていたら、血だらけで倒れていた君を見かけてね。ここまで運んできたんだ」


 ちなみにここは俺の家ね、と男性は付け加えた。

 

「回復魔法をかけたからもう痛みはないはずだけど、どう?」

「……嘘、傷がなくなっている」


 わき腹に受けた傷は完治していた。

 少しも痛まない。傷を負っていたのが嘘だったかのようだ。

 

 受けた傷は致命傷。レティスは死にかけていた。

 それを完治させるとなれば、かなり高度な治癒魔法を使ったことになる。

 

(やっぱりこの人、ただ者じゃないわね……)


 雰囲気から感じたレティスの見立ては正しかった。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はティオール。ここ、グドラの森の中で暮らしている。リスエラ王国の端っこにある、静かでいいところだよ」


 リスエラ王国はベルドゥム帝国の隣国だ。

 逃げるのに必死になっていたら、いつの間にか国をまたいでいたらしい。


「さぁ、次は君の番だよ」

「私はレティス」

「…………。え、それだけ?」

「そうよ。もう話すことはない。でも、助けてくれたことにはお礼を言うわ。ありがとう。世話になったわね」


 ベッドを降りようとしたら、ちょっと待って! 、という声がティオールから上がった。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、↓にある☆☆☆☆☆から評価を入れてくれると嬉しいです!

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