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第1話「星を見つめる者」

新人小説家のもなかずいなと申します。自分の想像を他人に文字にして伝えることの難しさを書きながら痛感しております。気をつけてはいるのですが誤字脱字等あるかもしれません。投稿してからも一読し、発見したら修正していきますので見つけたらそっとしておいて下さい。

人間が地球で暮らせなくなった遠い未来、人々は次なる居住地を見つけるため科学技術を発展させ、惑星間シャトル「ノアの方舟」を開発し、地球からの脱出を図る。しかし、次に居住できる惑星がまだ見つかっていなかった。そこに、特殊な力を操る一族が姿を現し、彼らは自身の命を削り新たなる惑星「蒼星そうせい」を生み出した。人は、その新たな青い星に身を移し、元の生活に戻って行った。人類が地球から離れて数百年、地球は自然を取り戻し、そこには人類が生み出したものと自然の融合物、人類が消えたことによる動物の超進化、そして人智を超えた力が秘められた場所など、人が暮らしていたことは歴史として語られている現在、人々は未知なる体験を求めてまた地球に帰還する。





ここは蒼星の第四大陸「日ノ和」、四季が織り成す情景と熟練の達人たちの国。この国は義理堅さや奥ゆかしさ溢れる人々、カタナや精密加工などのこの国独自の技術力が他国から人気を博している。星が移りし今も伝統を受け継ぎ、人情の厚き民が今日も活気よく暮らしている。


「おう、フーマ! 準備はいいか!」


「ああ、今行くよ、親父」


万工房よろずこうぼうの扉を開けて出てきたフーマを、工房の主であるカシラが手招きする。筋骨隆々としたその男は、丸太のように太い腕で、奇妙なブーツを抱えていた。黒く短い髪を無造作に伸ばした顔は、物作りへの情熱で輝いている。


「これが親父の言っていた試作品か?」


フーマは、カシラが抱えるブーツを手に取った。それは、見たこともないほど薄く、そして軽いカーボン製のブーツだった。足を入れると、まるで自分の肌の一部であるかのように、ぴったりとフィットする。


「ああ。超精密な複合素材だ。カーボン繊維を何層にも重ねて、人間の体温や動きに反応するようにプログラミングしてある。これを履いて、日出山ひのでやままで行ってきてくれ」


カシラは、まるで子どものように目を輝かせながら説明する。日出山は、蒼星でも有数の急峻な山だ。その名は、遠い昔、人々が富士山と呼んだ地球の山に由来するという。カシラは、フーマが「ノアの選定」という選抜試験に向けて過酷な修行をしていることを知っていた。このブーツは、彼の修行を助けるため、そしてブーツの耐久性と安全性をテストするために作られたものだった。


「わかった。行ってくる」


フーマは簡潔に答え、ブーツの紐を締め直した。彼は高めの身長で、細身ながらも鍛え上げられた肉体を持つ。黒髪のシースルーバングが額にかかるその表情はクールで、感情をあまり表に出さない。だが、その藤色の瞳の奥には、地球への並々ならぬ情熱が燃えていた。幼い頃から、歴史書でしか見たことのない故郷の姿に心を奪われていたのだ。そこには、ただ廃墟が広がるだけでなく、人が去ったことで自然が力を取り戻し、人智を超えた変貌を遂げた、未知なる秘境が広がっているという。いつか、自分の目でその光景を確かめたい。その一心で、フーマは「ノアの選定」に向け、過酷な修行に身を投じていた。


「ノアの選定」──それは、過酷な地球環境に耐えられる者のみが生き残れる選抜試験。それは、日々の暮らしに倦み、見果てぬ夢を追い求める者たちにとって、唯一無二の希望だった。


フーマは、カシラに見送られ、工房を後にした。日出山は、この工房から数キロ離れた場所にある。街の雑踏を抜け、旧街道へと向かう。


その時だった。街の裏路地から、何かがこちらに向かってくる気配を感じる。複数の足音、そして微かに漂う硝煙の匂い。


(……何だ?)


フーマは警戒しながら、裏路地の入り口に身を隠した。日和ひよりの良い日だというのに、こんな殺伐とした雰囲気を纏う者がいるとは。


草むらの陰から様子を伺うと、そこには黒ずくめの服を纏った数人の男たちと、彼らに追われる一人の少女がいた。小柄な体躯を持つその少女は小柄な体躯を持つその少女は、プラチナブロンドの髪と燃えるような赤い瞳をしている。フーマと同い年くらいだろうか。


「待て! 小娘! 大人しく捕まれば、命だけは助けてやる!」


男たちの言葉に、フーマは眉をひそめた。見たところ、何かを狙う集団と、それに追われる少女。その状況は一見して明らかだった。少女は息を切らしながら、怯えた表情で後ずさる。しかし、追っ手たちが一斉に距離を詰めようとしたその時、彼女の足元から淡い光が放たれた。光は地面を這い、男たちの足元に到達すると、まるで弾けるように地面が隆起する。男たちはバランスを崩し、次々と地面に叩きつけられた。


(……この力は……)


フーマは息をのんだ。歴史書で語られる、蒼星を生み出した「特殊な力」。それが今、目の前で発動されている。少女は特殊な力を使って追っ手を撃退することに成功したものの、まだ息を潜めている男が一人いることに気づいていないようだった。


男たちが地面に倒れ、少女が安堵の息をついたその瞬間、裏路地の奥から、一人だけ無傷だった男が飛び出した。彼は手に持ったナイフを少女の背中に向けて突き出した。少女を無傷で捕獲するための道具だろう。少女は振り返るが、その男の動きに反応する暇はない。


「……っ!」


フーマは無意識のうちに、飛び出していた。カシラが作ってくれたブーツが、彼の体を加速させる。男のナイフが少女の背中に届く、その直前。フーマの体が、少女とナイフの間に滑り込むように入り込んだ。


「何だ、お前は!?」


男が叫ぶ。フーマは何も答えず、男の腕を掴み、そのまま捻り上げる。男は悲鳴を上げてナイフを手放した。フーマは流れるような動作でナイフを拾い、男の喉元に突きつける。


「……動くな。次はないぞ」


フーマの冷たい声に、男は顔を真っ青にして頷く。彼のクールな表情からは、先ほどの男を仕留めた時の熱量など微塵も感じられない。しかし、その瞳の奥には、少女を助けようとした優しい感情が隠されていた。


男が地面に崩れ落ちる。フーマは少女に背を向けたまま言った。


「もう大丈夫だ。他の奴らは、先に撃退したみたいだしな」


「……ありがとう」


少女はか細い声で、感謝の言葉を口にした。彼女の赤い瞳は、驚きと安堵で潤んでいる。フーマは振り返らず、ただナイフを地面に突き刺したまま静かに立っていた。


「……何故、私を助けてくれたの?」


少女の問いに、フーマは少しだけ沈黙した後、簡潔に答えた。


「理由なんてない。ただ、あんたが困ってたからだ」


その言葉に、少女は何も言えなかった。フーマのその言葉は、まるで彼女の心に染み渡るように、温かい光を灯した。


「……私の名前は、ルナ」


少女は初めて、自分の名を明かした。フーマは彼女に背を向けたまま、静かに答えた。


「フーマだ」


二人の間に、短い静寂が訪れる。それは、まるで嵐の後の静けさのようだった。フーマは地面に刺したナイフを抜き取り、男たちから少し離れた場所に投げ捨てた。


「……ここじゃ、また他の追っ手に狙われるかもしれない。俺の家に、来るか?」


ルナはフーマの提案に驚いた表情をしたが、すぐに頷いた。彼女は、フーマの持つ優しさに、わずかな光を見たのかもしれない。


裏路地から旧街道に戻り、フーマはルナを連れて歩き出した。旧街道からそう遠くないところに、フーマとカシラの住まいであり、「万工房」があった。


「ここが俺の家だ。旧街道からそう遠くないところにある」


フーマの言葉に、ルナは工房をじっと見つめる。それは「万工房」と名付けられた、ありとあらゆる道具が所狭しと並べられた工房だった。金属を加工する旋盤、複雑な回路が組み込まれた電子基板、そして何に使うのかも分からない奇妙なパーツの山。工房の隅々まで、カシラの物作りに対する情熱が凝縮されていた。


「親父、ただいま。この子を匿ってくれ。追われているらしいんだ」


フーマの言葉に、カシラはルナをじっくりと観察する。怯えたようにお嬢ちゃんの姿に、カシラの顔がみるみるうちに緩んでいった。


「おいおい、息子よ。いつの間にそんな可愛い子を……」


「違う! 訳あって、一緒に来ただけだ!」


フーマは慌てて否定する。カシラはにやにやと笑いながら、ルナに優しく話しかけた。


「お嬢ちゃん、大丈夫か? もうここは安全だよ。何があったのかは知らないが、ゆっくり休んでいきなさい。息子はぶっきらぼうな奴だが、根はいい奴なんだ」


カシラの優しい言葉に、ルナは安堵したようにフーマの背中から顔を出した。フーマはそんなカシラの言葉を気にする様子もなく、ルナに居間へと案内する。


居間に通されたルナは、出されたお茶を震える手で受け取った。一息ついたところで、カシラが口を開く。


「……で、何があったんだ? あんなに怯えちゃって」


フーマは、裏路地で起きた出来事をカシラに話した。ルナが追われていたこと、そして自分が助太刀に入ったこと。ルナが使った特殊な力については、何も触れずに話を進めた。


「……ふむ。追われている、か。厄介なことになったな」


カシラは難しい顔で腕を組んだ。


「お嬢ちゃんは、何か心当たりがあるのか?」


カシラの問いに、ルナは俯いたまま、か細い声で答える。


「……ごめんなさい。私、何も話せないんです」


「そうか。なら、無理に話すことはない。息子が連れてきたってことは、お嬢ちゃんは俺の娘も同然だ。安心してここにいなさい」


カシラはそう言って、ルナの頭を優しく撫でる。その言葉に、ルナの瞳から涙が溢れた。彼女はこれまで、一人で孤独に戦ってきた。フーマという心優しい少年に出会い、そしてカシラという温かい大人の存在に触れ、張りつめていた糸がプツリと切れたようだった。


フーマはそんなアオイの姿を見て、何も言わず、ただそっとハンカチを差し出した。ルナはそれを受け取り、涙を拭った。


ルナが工房に身を寄せてから数日後。フーマはカシラに呼び出された。


「息子よ、そろそろ『ノアの選定』の予選が始まる。準備はいいか?」


「ああ、いつでも行けるよ、親父」


フーマは静かに答える。彼の碧い瞳は、地球への旅を夢見て輝いていた。


「……ノアの選定……?」


その会話を聞いていたルナが、おずおずと二人に近づいてきた。カシラは優しい表情で頷き、ルナに説明を始めた。


「ああ、お嬢ちゃんは知らないだろうな。ノアの選定は、地球行きのシャトルチケットを賭けた選抜試験だ。過酷な地球環境に耐えられる者のみが生き残れる、な」


カシラの言葉に、ルナの赤い瞳が大きく見開かれた。地球。その言葉に、彼女の心は強く揺さぶられた。


「…地球…気になる…」


ルナはか細い声で呟いた。フーマとカシラは、その言葉に驚き、顔を見合わせた。


「…ルナも、地球に行きたいのか?」


フーマの問いかけに、ルナは力強く頷いた。


「…うん。行ってみたい」


フーマは、ルナの瞳の奥にある強い意志を感じ取った。


「…そうか。じゃあ、決めた」


フーマは、静かに、そしてはっきりとカシラに告げた。


「親父、俺がルナを地球に連れて行く。それが、俺の決めたことだ」


フーマの言葉に、カシラは目を丸くした。


「おいおい、息子よ。お前は、地球に行くことだけを考えてきたんじゃないのか? もしルナを連れて行ったら、大会は諦めることになるかもしれないんだぞ?」


「それでも、俺はルナを一人にはできない」


フーマの言葉に、カシラは深く頷いた。


「…そうか。なら、俺は何も言わない。お前の決めた道だ。だが、一つだけ覚えておけ。地球はお前が思っているほど優しい場所じゃない。時が経ち、過去の美しい情景から変貌を遂げ、危険が渦巻いている。気をつけていけ、ルナちゃんをしっかり守れ」


カシラの言葉に、フーマは小さく頷いた。そして、その言葉の重みは、彼の胸に深く刻み込まれた。


翌日。万工房の作業台には、カシラが夜通しで作り上げた二つの道具が置かれていた。一つは、銀色のイヤリング。もう一つは、小さな星の形をしたネックレスだ。


「これだ、お嬢ちゃん。特殊な電磁波と光の屈折を利用して、見た目を変えることができる。これさえあれば、お嬢ちゃんが追われていると知っている奴らでも、簡単には見分けがつかないはずだ」


カシラはそう言って、ルナにイヤリングとネックレスを渡した。アオイはそれを身につけると、カシラが手元のタブレットを操作する。瞬間、ルナのプラチナブロンドのショートボブは深い青色のロングストレートに、燃えるような赤眼は翡翠色に変化した。


「わあ……すごい……!」


ルナは鏡を見て、驚きを隠せない。その姿は、以前の面影をほとんど残していなかった。


「これで、お嬢ちゃんも予選に参加できる。フーマと一緒に、地球を目指すといい」


カシラの言葉に、ルナはフーマの顔を見た。フーマは小さく頷き、彼女を安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だ。二人で一緒に行こう」


ルナはフーマの言葉に、嬉しそうに頷いた。


「せっかく姿を変えたんだ、呼び方とかも変えよう。そうだな……アオイ、なんてどうだ?」


フーマの提案に、ルナは少し考えてから、微笑んだ。


「うん、良いかも」



万工房の玄関。フーマとルナは、カシラが作ってくれたカーボンブーツを履き、旅立ちの準備をしていた。


「親父、行ってくる」


フーマが声をかけると、工房の扉が開き、カシラが顔を出す。


「頑張ってきてくれ、息子たち!」


カシラは力強く答え、フーマとルナの背中を叩いた。工房の扉が閉まると、二人は静かに目的地へと向かった。


予選会場の内部には、巨大なカプセルがずらりと並んでいる。参加者たちは、各自のカプセルへと入っていく。フーマとルナも自分のカプセルへと入り、中に横たわった。


フーマは与えられた資料を読み込む。予選は5日間、仮想空間内で生き残ることが目的だという。仮想空間内では、傷つくことや、他人を殺すことはできないが、死亡判定を受けるような攻撃を受けると、自動的に空間から排出され、脱落となる。


(……サバイバルか。まぁ、俺にとっては好都合だ)


フーマは冷静にそう考えた。戦闘能力だけを競うのではなく、知恵や知識、そして生き抜くための力が試される。フーマの得意とする分野だった。


カプセルの蓋がゆっくりと閉まる。視界が暗転し、フーマの意識が遠のいていく。


──仮想空間へ、ダイブ。


次にフーマが目を開けた時、彼の目の前には、鬱蒼と茂る巨大な森が広がっていた。ルナはフーマの隣で、不安そうな表情を浮かべている。


「大丈夫か、アオイ」


フーマが声をかけると、ルナは小さく頷いた。


「うん…」


あたりには、獣の咆哮が響き渡り、見たこともない植物が不気味な光を放っている。


「これが……仮想空間か。……いや、違う」


フーマは直感的に、違和感を感じた。この空間は、ただの仮想空間ではない。あまりにもリアルすぎる。肌で感じる湿気、土の匂い、そして草木の生命力。それらは、まるで本物の森にいるかのようだった。


「……これが、予選か」


フーマは冷静に周囲を観察し、状況を分析する。そして、彼の耳に、遠くから何かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。複数の音、そしてかすかな殺気。それは、街中でルナを追っていた男たちの、それと酷似していた。しかし、達人が放つ殺気とは違い、ただ強さへの渇望や獲物への執着からくる、荒々しく未熟な殺気だった。


(……マガツとは何だ?何故ルナを狙う……?)


フーマは、予選参加者たちがルナを狙っているという事実に、改めて驚きを隠せない。彼らは、ただ地球のチケットが欲しいだけではなく、ルナを捕らえて「マガツ」という何かに引き渡そうとしている。


その時だった。


「……っ!」


ルナが、不意に足元の木の枝を踏みつけてしまった。パキリと乾いた音が、静まり返った森の中に響き渡る。男たちは、一斉にフーマとルナの隠れている茂みの方へと視線を向けた。


「おい、こんなところに隠れてる奴がいるぜ!サバイバルだからな、隠れてやり過ごそうとしたんだろうが、俺たちに気付かれたのが運の尽きだぜ」


フーマは、自分が思わぬ形で厄介なことに巻き込まれたことを悟った。彼は、ルナに身を隠すよう合図を送り、一人でゆっくりと立ち上がる。


「……悪く思うなよ!」


男の声と共に、男たちが一斉にフーマへと襲いかかってきた。予選開始早々、フーマのサバイバルは、激しい戦闘へと突入した。

ファンタジーに限らず、どのようなジャンルでも物語を書きあげている方々は凄いです。試してみてこんなにも難しい物だとは思いませんでした。

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