2000年問題の話
西暦1万年問題に対処する青年なのかおっさんなのか爺さんなのかわかんないけど、男性であるのは確かな「私」が8000年前の問題とかの話をする。
舞台設定の説明で終わっててすまない。
今日もデータの前で悪戦苦闘している。
この仕事は面白いとは思っているし、人類の数千年に渡る躍動を感じる。
確かにそこにこのデータを作った人間は存在していて、今の自分のように悪戦苦闘したり愚痴をたれていたのかもしれないと思うと、この膨大のデータの流れの中に自分が立ち確かにバトンを受け取っており、人類の歴史の中に間違いなく自分がいる事を感じる事が出来るのだ。
「バカか、どんだけバカなんだよ、これ作ったやつ。……またSUZUKIかよまたSUZUKIかよまたSUZUKIかよまたSUZUKIかよ。死ねクソ。ゴミ野郎が、子供か、子供に仕事させてたのか、5000年前は?どんだけバカならこんなバカなデータの持ち方すんだよ」
けれど、数千年前のプログラマであろうSUZUKIに怒りしかわかない。死ねと思うのだが、もう数千年前に死んでるだから怒りの持っていき場が無い。
「あー、今すぐ生き返れや、そして死ね、死ねクソ」
8000年ほど過去、人類は2000年問題という未曽有の危機を迎えたらしい。人類の記録がはっきりと映像を含めて記録としても残っているのはこの頃からなので、それ以前にも多くの危機を乗り越えてきたのだろうとは思うが、はっきりとその問題があった事を確認出来る最初の事件がこの2000年問題なのではないだろうか。かつてはこの問題があった事を知るのは一部の歴史好きか機械好きに限られていたし、現在においてもあまりしっかり認識されている気はしないので説明しておこうと思う。
2000年というのはもちろん現在も使われているAnno DominiことSeirekiの事だ。人類が現在コンピュータと呼ばれる類のものの最初と言っていいものを生み出しのもこの頃の話だ。
その頃既にSeirekiは人類の標準紀元となっており日時、日付のデータの年部分の多くはSeirekiを使っていたとのことだ。この辺りは実のところはっきりしていない。人類の記録はこの頃から残されているが、残るべきもの、残すべきものが残されているだけなのでSeireki以外のデータの痕跡がただ単に少ないだけで当時本当にSeirekiが多く使われていたかははっきりしない。この辺りは未だに意見が分かれているところだが、おそらく実際にSeirekiが多かったからこそSeireki2000年問題が発生したのだろうと私は睨んでいる。
おっと、話を戻そう。何をもって人類初のコンピュータとするかも意見がわかれるところだろうがSeireki1940~50年頃の事だというのは多くの専門家の一致する意見だ。私は専門家ではないし興味も無いので、この件で異論があったとして私に意見をぶつけてくるのはやめてほしい。つまり一般的と言っていいのかどうかはわからないがその世界での常識としてはその頃という事だ。
人類は愚かにもSeirekiを含んだデータを作る際に年数の下位2桁のみを使っていたようだ、それが2000年を迎える時に問題となったという事だ。50年、たったの50年先の事すら当時の人類は見据えていなかったのだから愚かしいにも程がある。
この問題について当時の人間の言い訳として有名なのは「昔はデータ容量が少なくて1文字でも削れるところは削りたかったので仕方がない」というものだろう。全くバカげた言い訳っだ。たったの50年だぞ?後で困るのは目に見えてるじゃないか。
こう言うと訳知り顔の自称専門家どもは当時のメモリや記憶装置をお前はわかってなさすぎるだとか言ってくるけれど、わかってないわけじゃない。広さ50の空間に100詰め込めと言われたら、その100をどうにか圧縮しないといけない。場合によっては考え方を根本から変えないといけない。それを当時の人類は怠ったんじゃないのかと言いたいんだ。
実際のデータは1940年や50年に作られたわけじゃあなく、もっと後の時代だという。それなら50年どころか40年30年20年。なのに「2000年頃にはどうにかなってるでしょ」という無責任な思考をしていたらしい。人類がそんなに優れているならSeireki1000年頃にはもうSeireki1000年問題起こしていただろうよ。
だというのに創意工夫もせずに『その内どうにかなるでしょ』なんて無責任な考え方で年2桁なんていう安易な方法に逃げやがった。それはエンジニアの思考ではないだろう?
結果どうなったかって?2000年直前にバカみたいに大騒ぎして人類全体で存在するデータやプログラムを全部書き換えたんだそうだ。ご苦労な事だったと思う。ただ、人間のすることだからきっと見逃しはあっただろう、ただ単に見逃されても大きな問題にならなかったというだけで。当時は本気でこの問題を放置したら何が起きるかわからないと思われていたようだし、多分放置していたら誰にも何が起きるかわからなかったというのは事実だろう。もしかしたら大事にはならなかったかもしれないけれど、もしかしたらとんでもない事態を招いていたかもしれない。それでも人類はやろうと思えば対処できることをこの時に学んだはずだ。
そう、やろうと思えばできるんだから今回もやろう、そんなふざけた思想で私たちが今まさに対処しているのが皆さんご存じの1万年問題という事になる。この1万年問題は2000年問題当時からもちろんわかっていた。当たり前だ、2000年問題とは多少問題に違いがあるけれど、桁数が足りないという点では同じで当時の子供でもわかる理屈だっただろう。Seireki10000年に同じ事態になると。
ただ当時は冗談のように扱われていたという事だ。
1万年までは8000年もある。その当時のSeirekiはまだたったの2000年、映像記録は今ようやく残され始めた黎明期で、文字が使われ出してから当時でまだ6000年程しか経っていない。8000年も先に今の自分達のデータが活用されているはずもないし、コンピュータシステムも全く別のモノになっている、コンピュータなんてもの自体無くなっていると考えたという事だ。
うなずけなくもない話なのだけれど、人類がたかが8000年でそんなに進化するわけないじゃないかとやはり呆れてしまう。この話をすると人類の生物としての進化はそうだろうが技術の進歩はもっと早いものと思われていたんだと反論してくる奴がいる。それももちろんわかっているさ、わかった上で呆れているんだ、私は。
5000年前にはもう1万年問題はおそらく発生するだろうと思われていたようだ。その頃になってようやく事実を認められるようになったのだ、人類は。
7000年前には既に人類は思ったより進化しなかったと言われていたようで、実際には7000年前にはもう今のこの事態がわかっていたと言っていい。ただ、それでも7000年も先の話だ、もしかしたら何か変わるかもしれないという期待もあったろうし、どうにもならなかったとしても対処するのは自分じゃないという気楽さもあったのだろう。それならデータの蓄積をやめてくれればいい、年を扱ったデータを増やさないという方向もあっただろうに、やはりどうせ未来の事だと今を優先し無尽蔵に4桁年のデータとプログラムは増加し続けた、全く愚かしい話だ。2000年問題のたかが20年30年先、自分達も関係してくるかもしれない時代の事を見ていないのとはレベルが違う。
この当時の言い訳としては「人類は1000年前までは進化し続けていたんだ、まさか急激に止まるとは思わないじゃないか」というものが有名だろう。実際のところこれは誤りではないかと思う。人類の歴史を見れば確かに9000年前~8000年前にかけての進化のスピードは他の時代と比べて群を抜いている。
人類爆発の時代と呼ばれるのは当時「核分裂」技術による稚拙な爆弾が発明された事によるものではなく、この爆発的進化に由来する。それ以前の数千年、そしてそれ以後の数千年は緩やかな進化と退化を繰り返している。文字が発明されたと思われる14000年前の人類と今の人類の知能レベルに大差は無いだろうし、文化レベルもそれほどに差はないだろう。14000年前の人類が現代の人類の社会を見れば驚愕するかもしれないが、猿人や原人と現代の人類とを比べれば誤差の範囲におさまるレベルだろう。
この爆発的進化の時代が異常だったのだと当時の人類は捉える事が出来なかった。一体歴史の何を学んだのだろうかと憤ってしまう私の気持ちはわかるだろうか?人類の歴史を見ればこれほどの進化が長く続くわけがないとわかりそうなものなのだが。
ただ、当時の人間を全く擁護出来ないのかといえばそうでもない、憤りはするがもし私がその当時に生まれていたならやはり同じように考えたかもしれない。人類の進化はスピードアップし、これからもこのスピードが維持されるのだと考える事自体は不思議ではない。歴史の中には「初めて」は絶対にある。その当時の人類は過去の事例にはなくともこれが人類初の変化であり、このスピードが維持されると考えたとしても確かに不思議ではないのだ。不自然であはるのだが。
何故この時代において爆発的進化が起きたのかはやはり未だに議論が続いているので興味があるなら探ってみるのもいいだろう。ただ、異星人が、だとか未来人が、だとかそんな下らない説に触れる必要はない。
7000年も前に否定された時間旅行、3000年前に否定された異星人を未だに信じるものがいるが、人類だって緩やかではあるが進化はしている。かつては悪魔の……悪魔の証明、いや悪魔の不在証明だっただろうか?言葉ははっきり覚えていないが「無い事を証明するのは不可能」だという昔の論理だ。「悪魔は存在する」という事を証明するには悪魔を1匹でも見つければいいけれど、「悪魔は存在しない」という事を証明するには「悪魔を連れてこない」では無理で、世界中を探して存在しない事を確認しないといけない。が、世界中を同時に見るなど不可能だという話だったかと思う。
けれど不可能ではない事を人類は証明してみせた。そして我々以外にこの世界に知的生命体、いわゆる異星人は存在しない事も証明されている。やはり私は専門家ではないのでどのように証明されたのかはわからない。私以外の多くの人も同様だろう、だから「その証明は正しくない」と未だに異星人の存在を主張する輩が出てくる。専門知識のある人間からすれば相手にするにも値しないのだろうが、証明が理解出来ない我々からすれば彼らの主張の方が理解は出来る。ただ、それででも異星人は存在する、証明はデタラメで我々は騙されているなどという主張は陰謀論でしかなく聞くだけ時間の無駄だとは言っておこう。
その当時、未来人が未来の技術を授けたなどというのは異星人より更にバカげた話だ。我々を未来人と定義したとして、あなたは果たして8000年前の人類に英知を授ける事が出来るだろうか?もし可能であるなら、私は今より1万年未来の人類は何故我々に英知を授けてくれないのかと嘆くしかない。
残念ながら異星人も未来人もいやしない。並行世界は存在するが存在しているからといってアクセスする手段もないのだからそれは無いと言ってもいい。異世界というのが何なのかの定義にもよるが異世界人などというものいない。人類はその当時の人類の力で爆発的に1000年ほどの間一気に進化したのだ。
その当時の人類は夢にあふれていただろう。今より10年、50年、100年の未来は今の自分には考えられない程に進化しているのだろうと。仕事にもやりがいがあった事だろう。まさしく夢のような時代だ。
また話がそれてしまったようだ。今の人類は9万年先の10万年問題は起きないだろうと考えているが、果たしてどうだろうか?人類の歴史が続いているのであれば9万年先も今の文化とさして差が無いのではないかと私は見ているし、使えるデータは使い続けているのではないかと思っている。今更使っているシステムを停止すると、それこそ何が起きるかもう我々にはわからないのだから。
そう、そういえば8000年前というのは探ると本当に面白い事が色々とある。夢にあふれていたあの時代において、人工知能は人類を超え人類がしっかり管理しなければ人工知能に人類が支配される、滅ぼされるかもしれないとそんな事を本気で考えていたようなのだ。当時の創作物の話ではない、本当にそう考えていたという話だ。
現在の我々は人工知能の限界を既に知っている。それは知能ではない事も。人類には神と同じ仕事は出来ないのだと思い知らされている。
人類を支配するほどの人工知能なんてものが生まれていれば、どれほど今の人類は幸福を得られていたのだろう。ただ、最初に言ったとは思うが私は今のこの仕事が好きだ、面白いと思っている。さて、前置きが長くなったけれどそろそろ本題に入ろうか。2000年問題に関する話だ。もう話したじゃないかなんて言わないでくれよ?
「またSUZUKIかよ、何なんだよ、SUZUKI。お前何千年生きてんだよ、仙人か仙人なのか?百日姫か?それともアレか?タキ渡りでもしたか?」
済まない。ここまでの話も仕事をしながら録音していたのだが、あまりにもSUZUKIってのがクソすぎてな。この1万年問題は人類の歴史遺産を覗き見する仕事でもあるので対処にあたっている人間の数が多い割に一体何をしているのか情報が出てこなくて本当に人類は対処作業をしているのかと不安に思ってる人もいるだろう。だが安心してくれ、作業はしているんだ。と言ってもこの録音記録が出回るのは問題の対処が終わった後になるのだろうけれど。
私たちは担当担当で物理的に隔離された場所で作業に当たっている。それは個人に割り当てられた個室ではない、つまり私がぶつぶつ呟いているのも時々奇声をあげているのも皆に聞かれているのだが、いつもの事なので誰も気にしていないし、録音には入らないはずだが奇声をあげてる奴は私だけではない。奇声をあげずにはいられない程に人類の愚かさをずっと見せられているという事だ。
ちなみに百日姫というのは異星人が出てくる6000年程前の創作物だ。確かその異星人にとっては我々の100日が1日相当だという。寿命的なものが我々と同じなら100倍長寿という事になる。けど100倍程度では何千年も存在するのは無理か。タキ渡りというのは何だったかな?確か不老不死になるための修行なんだが…まあ、それはどうでもいいだろう。
ふむ、もう1つの2000年問題の話より先に1万年問題の話を先にしようか。
実際、冗談抜きで1万年問題は発生する可能性あるんじゃないかな?とは思ってる。縄文時代だけで1万年もあるんだから、たった8000年先に今の人類のデータ資産が連携されてないなんて事はあるだろうか?と。
日本特有ではあるのかもしれないけど、何か面倒な事態になると「見なかった事にしよう」と先延ばしするクセがるんで、このままじゃ数千年先に問題になるな、でも数千年先ならどうにかなってるかもと結局ずっとそのまま4桁で年を持ち続けるってありそうだよなぁって。
AIは現在のシステムを自動でどうにかしてくれるような万能な能力は持ちえないと思ってる。