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変わるもの、変わらないもの ⑷



「最近読んだ小説の話なの。……ああ、私、風邪をひいてた時何もすることがなくて小説ばかり読んでいたの。だから、その話なんだけどね?」


前置きをしてリズは話を続けた。

眉を寄せたアマレッタは、今から彼女が何を話すのか分からず疑問を抱いているようだ。


「主人公は、恋人から手酷い裏切りを受けるの。だけど彼女はなぜ裏切られたのか分からず、それを尋ねるだけの勇気も持たない」


「突然小説の話?まあいいけど。……続けて?」


「娘は恐れていて、彼に会いたくない。このまま会わずにいればもう恐ろしい思いをすることはないから、と。でも私は、それではいけないような気がして……あなたなら、どう思う?」


「えっと……小説の話よね?裏切りの内容にもよるけど……そうねぇ。裏切る、ってつまり、信頼関係を損ねるということよね?今まで培った、互いの絆を根こそぎ奪い、枯らしてしまうような……」


「そうね、そのとおりよ」


頷いて答えると、アマレッタは困ったように紅茶に手を伸ばして、コップを持ち上げた。


「その主人公は……逃げるか尋ねるかの二択しか考えてないようだけど……それ以外の選択肢もあるんじゃない?」


「それ以外の選択肢?」


思わぬ言葉に、リズは目を見開いた。

そんな彼女に、アマレッタは頷いて見せる。


「物語に言っても意味など無いのでしょうけど、なにも二択に縛られることないわ。三つめの選択肢──『なぜ、そうした裏切り行為に走ったのか』。知ってみるのもひとつの手だと思わない?」


「………」


それは、考えてもみない言葉だった。

新たな選択肢にリズは息を呑み、硬直した。


(なぜ、裏切りの行為に走ったか……?)


リズはひたすら瞬きを繰り返した。

なぜ、どうして。

それは過去に戻ってから何度となくリズが口にした言葉だ。

だけど、その疑問の答えを持つのはヴェートルしかいないからと、彼女は答えを知ることを諦めていた。


(だけど……)


彼女が調べることで、彼の真意が分かったのなら。

なぜ、リズを殺したのか。

なぜ、悪魔の生贄にしたのか。

それが分かれば少しもリズの心に巣くう蟠りは解けるだろうか。

目からウロコの彼女に、アマレッタが照れくさそうに笑った。


「なんて。きっと、物語ではつまらないから三つ目の選択肢は書かれないんでしょうけど。私ならそう考えるわね。だって、知りたいじゃない?」


「そう……そうね!私もそう思ったの。どうしてなのか、気になるもの」


リズは高ぶった声でアマレッタに答えた。

アマレッタはリズのその勢いに少し押されたようだったが、友人がそこま熱心に考える小説に興味が湧いたようだった。


「私もその小説、気になるわ。タイトルを教えて?」


「え!?えーと……ごめんなさい。うっかり忘れてしまって……思い出したら手紙を出すわ」


「えー?ほんとよ?私、読んでみたいわ。裏切り行為っていうのもどういうものか気になるし……」


「それは……恋人を裏切るというか……」


元々そんな小説など存在しないので、しどろもどろになるリズに、アマレッタはようやくティースタンドのスコーンに手を伸ばした。


「恋人を裏切るというと……浮気?」


「え!?」


(ち、違うけど……でも、具体的な話なんてできないし)


どう誤魔化すべきか、それとも真実をおりまぜつつ、オリジナルの話を作り出してしまうか。

リズが口にした小説などありはしないので、その後も彼女はアマレッタの追求を逃れるのに苦労した。

それから、間もなくアマレッタの想い人──好きな人ができないという悩みを持つ彼女の話になったので、小説の存在は忘れ去られたが、帰り際、アマレッタは思い出したようにリズに言った。


「あ、そうそう。小説のことだけど……思い出したらぜひ、教えてちょうだいね。さいきん、面白いと思える小説に出会えなくて飽き飽きしているの。お父様からは早く婚約者を見つけろってせっつかれるし、いやんなっちゃう」


「分かったわ。おすすめの小説があったらまた連絡するわね」


リズは自邸に戻ったら、あまり足を運ばない蔵書室の中から何とか、過去読んだ数少ない小説を吟味して、アマレッタ好みの本を選ぼうと考えた。

実際のところ、リズは読書をあまり好まない。今まで読んだことのある本だって、マナー本や歴史書の類を除けば、幼心に気になった冒険譚が何冊か程度で、恋愛小説にかなり疎い。


(……アンに相談した方が良さそう)


そうそうにリズはひとりで本を選ぶことを諦めた。


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