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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

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70/73

約束の日 ⑷

その日は朝から天候が悪く、空も曇天模様だった。朝早くから雨が降り出していて、霧雨だ。

何だか嫌な胸騒ぎがした。


そうだ。

秋の始まりの月。

そして今日は──リズが死んだ日。


いやな動悸が朝からずっと続いている。

怖くて怖くてたまらないリズは、朝から寝室に籠っていた。

食事も取らずに、太陽の陽が傾くのを見ていた。毛布をかぶり、じっと窓を見つめる。


あの日、あの日、あの日──。


彼らは、扉から入ってきた。

音もなく、気配も消して。

あの日、石の記録で見た限りだとリーズリー公爵とロビンは殺されなかったらしい。だけど、メイドや騎士は殺されたのだろう。

顔を見たものは殺せばいいと話していたレドリアスを思い出す。

かきあわせた毛布をきつく握りしめた。


(怖い、でも……)


このままじっとしていては何も変わらない。

もし……もし万が一、邸に異変があるならリズはリーズリー公爵の娘としてすぐに危険を知らせなければならない。

夕陽が傾き出したのを見ながら、リズは深呼吸をした。そしてそろそろとベッドから足を下ろす。そっと部屋を出ると、人の気配があちこちからする。いつもの公爵邸だ。

それにリズは尋常ではないほどほっとした。

そのまま足を進めてサロンに向かおうとした彼女は、ふと階下が騒がしいことに気がついた。

ざっと血の気が引く。


(まさか、まさか、まさか………!!)


人の声。ざわめき。足音。

騒然としている様子だ。

リズの脳裏に赤に塗りつぶされた玄関ホールが映し出される。そんなはずはない。だって、レドリアスは謹慎処分を受けている。デストロイは牢の中。王妃は離宮に監禁されている。

だから、大丈夫なはず──


飛び出すようにリズが玄関ホールに続く階段に現れた時、ちょうど彼と目が合った。


「…………ぇ」


ぽつり、リズは呟いた。

玄関ホールは騒がしかった。

ただし、それはリズが想像していたものではなく、突然の来客の対応に慌ただしくしているだけだった。リズの視線の先で、彼女と視線が絡んだ彼が、ふ、と柔らかな瞳で彼女を見た。


「ありがとうございます、ですがすぐ帰るので大丈夫ですよ」


彼は、慌てて歓迎の準備を整えるメイドにそう断ると、そのまま階段を登ってきた。階段の途中で止まっているリズの前に足を止めると、彼が彼女の手を取った。手の甲に口付けられ、金縛りが解けたようにリズは我に返る。


「……ただいま、リズ」


「ヴェ………ヴェートル様……!?ど、どうして!今日来るなんて一言も……」


「間に合うかわからなかったので、知らせませんでした。どうしても今日、あなたに会いたくて、かなり無理をしました」


ヴェートルが苦く笑う。

見れば、髪は乱れ、紺のサーコートも泥や土で汚れている。白のチュニックなどあちこち黒くなり、煤のようなものまでついていた。

彼のこんな余裕のない様子を見るのは、リズは初めてだった。

言葉通り、かなり無理をしてきてくれたのだろうと分かった。

リズが堪らず口を手で覆うと、彼が彼女の頬に触れようとして、直前で手を下ろす。


「ヴェートル様?」


不思議に思ったリズが尋ねると、ヴェートルが困ったように薄い笑みを浮かべた。


「強行軍で戻ってきましたので、私は今かなり汚れています。そんな手であなたに触れるわけにはいきません」


「………」


そんなことリズは構わないのに。

むっとした彼女に気づいたのか、ヴェートルが穏やかな瞳で、優しく彼女を見つめた。

ヴェートルは表情は薄いが、その瞳は何よりも雄弁だ。


「私のわがままです。あなたを汚したくない」


そう言われてしまえば、リズから抱きつくことも出来ない。でも、抱きつきたい。

リズのそんな気持ちを汲み取ったのだろう。彼は、リズに言った。


「今から私はベルロニア公爵邸に戻ります。リズも一緒に」


「……え?」


(私も一緒に?)


聞き間違いだろうか。びっくりして顔を上げたリズに、ヴェートルは珍しく──非常に珍しく、いたずらっぽい顔をした。



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