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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

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62/73

あなたのために死ぬ ⑸

純白に緋色を一滴垂らしたような、淡い桃色。

ヴェートルの髪である白から、リズの色である赤に。

魔法で作られただけあって、ただの石では無いのだ。

現実離れした話なので、なかなか実感がわかない。

リズがただ石を見つめていると、ヴェートルが続けた。


「全て憶測です。戻ってからバロリオン先生に聞こうと思っていましたが……。そうだ、リズ」


名を呼ばれて、リズは反射的に顔を上げた。

彼はなにか思いついたようにリズの石を見て、指先で触れる。


「今、思いついたのですが……試してみたいことがあります」


「試してみたいこと?」


「はい。私の魔法が確かにあなたを守ったのなら……あなたの知る、以前の記憶をこの石は記録しているかもしれない」


「え……」


思わぬことにリズは目を見開いた。

それに対し、ヴェートルはわずかに眉を寄せ、難しそうな雰囲気のまま、口にする。


「……この石に、私の魔力を込めてみれば、あるいは」


「………」


「だけどそれは、あなたの傷に触れる行為でもある。……リズ、あなたが見たくないというのなら、やめておきましょう。知らないままでいることの方が、幸福ということも有り得る。……だけどあなたが、真実、過去の出来事の全てを……何が起きたかを知りたいと思うのなら。共に、石の記録を追いませんか」


「───」


思ってもみない言葉だった。

リズは目を見開いた。言葉を理解するのに時間がかかった。


(過去の……記憶)


それはつまり、リズがヴェートルだと思った男に殺され──心臓を捧げられたあと、の話。

何が起きたのか。どうしてあんなことになったのか。


そうだ。リズはそれが知りたい。

真実を知りたいと思ったからこそ、リズは調べていたのだ。ヴェートルが……彼では無いかもしれないが、リズがヴェートルだと思った男が、なぜあのような凶行に走ったのか。リズは知りたいと思っていた。

ややあって、ぎこちなく、リズは石に触れるヴェートルの指先に手を重ねた。

きゅ、と力を込めて彼の手を握った。


「……知りたい。……知りたいわ。ヴェートル様。なぜ私が殺されたのか……私でなければならなかったのか。私は、それが知りたい」


真実を知ることが出来るというのなら、そうしない理由はない。リズが力強い瞳でヴェートルを見上げると、彼はわずかに微笑んだ。

そして目を閉じると、細く息を吐く。


「……私がいます」


短い言葉だった。

だけどリズは、それで十分だった。

ふたりで手を握りながら、静かに目を閉じた。石の記録を辿るには何をするのか。何が起きるのか。リズには全く分からない。

何が起きるか分からない緊張に身を固くしている中で、彼が小さく呟いた。


凝縮開始(トライス・オン)


瞬間、室内は淡い光に包まれた。




***




ぱちぱち、と火が爆ぜる音が聞こえた。

気がつくとリズは、どこかの部屋にいた。


(ここは……どこ?)


不思議に思ってあたりを見回す。そして、すぐにここがどこか気がついた。


(私の部屋……)


公爵家の自室だ。

そしてリズは、視線の先に有り得ないものを見て悲鳴をあげかけた。

リズの視線の先──室内の安楽椅子に腰掛けた、自分がいる。

彼女は、手に刺繍糸と針を持ち、鼻歌交じりに糸を編んでいた。

時々窓の外は白光りし、続いて遠くから轟音が聞こえてくる。……雷だ。

リズは瞬時に、自分は過去の──死の直前に立ち会っていることを知った。咄嗟に手を握る。


周りを見渡すが、共に駐屯所の室内で手を握り、真実を確かめようと話したヴェートルはいなかった。部屋には、リズしかいない。

ぱちぱちと火の爆ぜる音は、暖炉で燃える薪の音だった。


(どういうこと?どうして私一人で……)


リズが狼狽えているうちに、ふと、扉が音もなく開いた。


「ひ……」


咄嗟にリズは悲鳴をあげてしまった。

目の前に現れたのは、記憶に残る、黒のローブに身を包んだ人間数人だったからだ。

悲鳴をあげてしまったリズは瞬時に口を手で覆ったが、彼らはリズに見向きもせずに、安楽椅子に腰かけるもうひとりの彼女に近づいていく。


(だめ……!!)


そう思っても、リズの足は金縛りにあったかのように動かない。声も出なかった。

食い入るように見つめたその先で──リズの想像通り。いや、記憶通りに状況は変化した。


視界の先のリズが彼らに気づき、悲鳴をあげる。

針を落とす。肩を袈裟斬りにされる。

崩れ落ちたリズの前で、彼らは口々に言った。


「公女を早く連れ出せ」


「心臓を捧げよ」


「悪魔の儀式の生贄とするために」


リズは凍りついた。

そうだ。この後だ。この後、リズは彼を見た。

震えが走り、呼吸が速くなる。

見たくないのに、視線を逸らすことは出来なかった。


(いや……いや……)


小さく呟いた。

男が剣を掲げ、倒れ伏したリズの胸元に狙いを定めた。


(い、や……………)


「悪く思うな、リーズリー家の生ける女神の依代よ。お前の死は無駄にはしまい」


知っている声。覚えている声。

男が手首を返し、剣を突き刺そうと構えた。


その時、彼らに視認されない、現在のリズの隣に控えている男──今しがた、過去のリズを袈裟斬りにした男だ。

彼が、咳を繰り返した。げほ、という音は今のリズには届いた。

彼女は瞬間、まつ毛をはね上げて目を見開いた。


ヴェートルの声ではなかったからだ。

目を見開き、見つめる現在のリズの視界の先で、男のローブがまくれる。

過去のリズからは背後しか見れないが、おとこは現在のリズの横に立っている。自然、横顔を見ることがかなった。


「な──」


リズは声がこぼれた。

これ以上ないほどに目を見開いた。


(な………どう、して)


そこに立っていたのは、ヴェートルではなかった。アリスブルーの髪を持ちながらも、その男はヴェートルではなく──。

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